発酵パンと無発酵パンの違いとは?種類や特徴を歴史的な観点で解説!
私たちが当たり前のように食べているパンは、もともとは、粉と水を混ぜて焼いただけの発酵させないパンから始まり、いまでは酵母を使って発酵させ、生地を膨らませる発酵パンが主流です。
パンと言えば基本的に発酵させるものというイメージがありますが、いまでも発酵させない無発酵パンはたくさんあります。
ここでは、発酵パンと無発酵パンの違いから、それぞれの種類や特徴を解説していきたいと思います。
発酵パンと無発酵パンの違い
発酵パンと無発酵パンの違いは、酵母などを使って発酵させているのかどうかです。
発酵パンは材料にインスタントドライイーストや自家製酵母などの発酵する材料を使っており、無発酵パンはそれら発酵のもととなる材料を使っていないパンを指します。
発酵パンとは
発酵パンとは、小麦やライ麦などの粉に水と塩、自家製酵母やインスタントドライイーストなどの酵母を加えて発酵させ、膨らませて作るパンのことです。
酵母を使っているパンが発酵パンということになります。
酵母を使っているパンには、食パンやフランスパン、あんパンやカレーパンなど、さまざまなものがあります。
発酵パンの特徴
最初に、発酵パンの発酵のメカニズムについて簡単に説明します。
酵母がエネルギー源となる糖と結びついて分解し、分解された糖はアルコール発酵をします。
このとき産生する炭酸ガスによって、生地が膨らむという仕組みです。
アルコールは生地を柔らかくする効果があり、産生する炭酸ガスはグルテンに作用して粘りや弾力を与えます。
さらに発酵によって熟成した旨味や芳醇な香りがでて、無発酵パンにはない複雑な味わいを感じることができるのです。
しかし、発酵パンは発酵の工程があるため、発酵させない無発酵パンに比べて時間がかかるのが特徴です。
発酵に使用する酵母にはさまざまなものがあり、それぞれ次のような特徴があります。
パン作りに適した単一酵母
単一酵母とは、パン作りに適した一つの菌を純水培養し製品化したもののことを指しています。
発酵を阻害するほかの菌が含まれていないため、発酵力が非常に優れているのが特徴です。
パンの発酵に適した酵母として開発された単一酵母は、一般的に「イースト」と呼ばれているものです。
単一酵母のためパンの味に癖がなく、どんなパンにも使いやすいのが特徴です。
生イースト
生イーストは培養した単一酵母を水洗いした後に脱水し、粘土のようになったものをブロック状に成型したものです。
イーストの中ではイースト臭がなく、生地はふわふわでボリュームのある仕上がりになります。
砂糖の多い生地との相性も良く、柔らかさやボリュームに適しているため、菓子パンや食事パンによく使われています。
ただし、使用する量はドライイーストなどと比べると約2~3倍必要で、使用する際には5~6倍のぬるま湯で溶かす必要があります。
インスタントドライイーストと比べるとやや手間がかかるのが特徴です。
ドライイースト
ドライイーストは、酵母を低温の熱で長い時間をかけて乾燥させて脱水し、粒状にしたものです。
ドライイーストの特徴としては、予備発酵が必要なこと。
38℃前後の酵母が発酵しやすいぬるま湯に、栄養となる砂糖を加えてドライイーストを溶かし、しばらくすると泡がでて発酵するものです。
このように事前に発酵させたものを生地の材料に混ぜて使うため、立ち上がりが早いのが特徴です。
熱処理により一部の酵母が死滅しているため、イースト臭が強いのですが、死滅細胞から流出するグルタチオンという物質が、生地を柔らかくし軽い食感に仕上がります。
クラストはパリッとしながらもクラムはふわふわに仕上がります。
インスタントドライイースト
脱水後の生イーストを乾燥させて顆粒状にしたのがインスタントドライイースト。
予備発酵する必要がなく、材料にそのまま混ぜ込むことができます。
生イーストと比べて使用する量も少量で済みます。
生イーストやドライイーストと比べて、さらに発酵力の高さが特徴です。
安定した発酵力で、どんなパンにも適しています。
手間がかかるが味わいが変わる自家製酵母(天然酵母)
天然酵母は複数の菌が含まれているため、単一酵母に比べて複雑な旨味や香りを感じやすくなります。
しかし、パンの発酵に特化した菌のみではないため、単一酵母であるイーストに比べてやや発酵力は劣ります。
天然酵母と一口に言っても、果物などから自分で起こす自家製酵母と、市販の天然酵母があります。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
自家製酵母(天然酵母)
果物や穀物などを材料にし、そこに付着する野生の酵母を使って発酵させるのが自家製酵母です。
自家製酵母にはレーズンなどのフルーツを使ったもの、小麦などを発酵種とするようなものなどさまざまなものがあります。
材料に何を使うのかによって異なる味わいとなるため、さまざまなバリエーションが楽しめます。
しかし、発酵させるのに時間を要し手間がかかるのが難点。
また、使う材料の状態や環境などそのときどきで酵母の状態が変化し、発酵が安定しないのが特徴です。
市販の天然酵母
市販の天然酵母は、自家製酵母にかかる時間や手間が抑えられ、酵母の複雑な味わいを引き出せるように製品化したものです。
ホシノ天然酵母や白神こだま酵母などが有名です。
発酵パンの種類
発酵パンに使う発酵種には、さまざまな種類があります。
それぞれの特徴を見てみましょう。
インスタントドライイーストを使って、ストレート法の時短で作るもの
家庭で一般的に用いられる方法が、インスタントドライイーストを使う方法です。
インスタントドライイーストを使って作る発酵パンは、発酵力に優れているためストレート法で短時間で作ることができます。
天然酵母の種を使ったもの
天然酵母から作った種には、次のようなものがあります。
酒種
酒種とはうるち米と麹に水を加えて作る発酵種のことです。
日本酒に使う酵母を、木村屋総本店がパン作りに使用したことから、パンの酵母として使用されるようになりました。
果実種
レーズン酵母などの果実種です。
自宅で自家製酵母を作る際に、もっとも主流なのが果実種ではないでしょうか?
サワー種
サワー種は別名サワードウとも言います。ライ麦パンに使われるドイツで生まれた発酵種です。
小麦粉やライ麦粉に水を加えて酵母と酢酸菌、乳酸菌などと一緒に生育します。
ルヴァン種
ルヴァンとは発酵種のことです。
小麦粉やライ麦粉などの粉と水で作る発酵種のことで、粉などに含まれる酵母と乳酸菌を生育させて作ります。
サワー種と基本的には同じようなもので、ルヴァン種はおもにフランスでの呼び名になります。
ホップス種
ホップの実の煮汁にじゃがいもや小麦粉、りんごを加えて作るパン種です。
無発酵パンとは
無発酵パンとは酵母などを使用せず、発酵させないパンのことです。
発酵種を使用しないため、種無しパンとも呼ばれます。
無発酵パンには、膨らませないパンと、膨張剤などを使って膨らませるパンがあります。
膨らませない無発酵パンには、チャパティやトルティーヤなど、膨らませる無発酵パンには、蒸しパンやスコーンなどがあります。
無発酵パンの特徴
無発酵パンには次のような特徴があります。
手間がかからない
発酵させないので、発酵パンに比べて手早く作ることができます。
膨らませないパンは薄く伸ばしたパンが多い
膨らませないパンは、いわゆるフラットブレッドと呼ばれる薄く伸ばしたパンが多いです。
膨らむパンには膨張剤が使われており、なかに空気の層ができ煮えた状態となります。
しかし、膨らまないパンは大きく塊のままだといつまでも火が通らないのです。
膨らませるパンは膨張剤を使う
膨らませるパンはおもに膨張剤を使っているのが基本です。
膨張剤には、ベーキングパウダーや重曹などがあります。
お菓子作りではホイッピングやクリーミングによる空気の膨張を利用して生地を膨らませ、スポンジケーキなどを作ること方法や、水蒸気によって生地を膨らませ煎餅やシュークリームを作る方法があります。
生地のなかに含まれる水分が、加熱させることで体積が増え、膨らむのが特徴です。
しかし、どちらもパン生地にするには力が弱くなってしまうので使用されていません。
無発酵パンの種類
無発酵パンと一口に言っても、膨らませないものと膨らませるものとがあります。
無発酵パンの定義は実は曖昧で、イーストを使わない=発酵はさせないけど膨張剤は使っている場合と、膨張剤すら使わない場合とがあるのです。
膨らませない無発酵パン
膨らませない無発酵パンということは、膨張剤すら使っていないパンということになります。
膨らませないパンは、薄く伸ばしたパン(フラットブレッド)となることが多いのが特徴です。
チャパティやトルティーヤなどがあります。
膨張剤で膨らませる無発酵パン
炭酸ガスなどの発生を利用して膨らませるパンです。
膨張剤で膨らませる方法には次のようなものがあります。
重曹で膨らませるもの
重曹とは炭酸水素ナトリウムのこと。
別名、重炭酸ナトリウムまたは重炭酸ソーダと言います。
炭酸水素ナトリウムに水を加えると、炭酸ナトリウムと炭酸ガスが発生します。
この炭酸ガスが生地を膨らませる役割となっています。
生地に残ったアルカリ性の炭酸ナトリウムは、小麦粉のフラボノイドという色素と反応して生地が黄色くなるのが特徴です。
重曹のみを使って膨らませるパンの代表がソーダブレッド。
パン以外では饅頭やどら焼きに使われています。
重曹を使った饅頭でソーダ饅頭というのが有名ですね。
ベーキングパウダーで膨らませるもの
膨張剤でもっとも多いのがベーキングパウダーを使用したものです。
通称、ふくらし粉と呼ばれ、お菓子作りでもよく使われています。
ベーキングパウダーは一般的にアルカリ性物質である重曹とガスの発生をうながす酸化剤、化学反応を穏やかにするでん粉などが含まれています。
酸化剤はガスの発生をうながしつつ生地がアルカリ性になるのを防いでくれます。
また、でんぷん粉は化学反応を抑え、ガスの量や発生するタイミングを自然に調整してくれるのです。
ベーキングパウダーを使って作るパンには、パンケーキやスコーン、ドーナツなどがあります。
発酵パンと無発酵パンの歴史
ここからは、発酵パンと無発酵パンの誕生の歴史についてみていきましょう。
膨らませない無発酵パン
無発酵パンの誕生は紀元前6000年ごろです。
紀元前8000年ごろからメソポタミア文明発祥の地で栽培されていた小麦を粉にして、水を加えて薄く焼いたのが無発酵パンの始まりです。
発酵パン
紀元前3200年以降になると、古代エジプトにパンが伝わります。
たまたま放置していたパン生地に、天然の酵母が付着して膨らんだため、それを焼いてみたところおいしいパンができたというものです。
これが発酵パンの始まりと言われています。
膨らませる無発酵パン(速成ブレッド)
膨らませる無発酵パンが誕生したのは、比較的最近の話。
19世紀初頭に重曹が使われるようになったと言われています。
しかし、重曹である炭酸水素ナトリウムは強いアルカリ性で、炭酸ナトリウムは強い苦みがあります。
パンも黄色に変色してしまうのが難点でした。
1850年代になると、アメリカで酸化物質を加えたベーキングパウダーが販売されるようになります。
ベーキングパウダーの誕生により、重曹によるパンの苦みや色が改善されパンやお菓子に幅広く使われるようになったのです。
まとめ
発酵パンも無発酵パンも、広い意味でのパンとして捉えるとさまざまなバリエーションがあり、それぞれ違った味わいが楽しめます。
特に無発酵パンは手軽に作ることができるので、日常でも取り入れやすいです。ぜひチャレンジしてみて下さい。