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デンプンの糊化(α化)と老化(β化)とは?パン作りでの役割は?

デンプンは、低い温度の水を加えても特に変化がおこらないものの、加熱により性質が大きく変化する特徴があります。

この変化はデンプンの糊化(α化)と老化(β化)と表現され、製パンでも大きな役割を持っています。

今回は、このデンプンの糊化(α化)と老化(β化)について、さらに製パンでの役割について詳しく解説していきたいと思います。

目次

デンプンの糊化(α化)とは

デンプンは、単糖であるブドウ糖分子が鎖状になって繋がった多糖です。

デンプンは大きく二つの形状に分けることができ、一つは直鎖上に繋がった「直鎖アミロース」、もう一つは高度に分岐した「分岐鎖アミロペクチン」があります。

小麦粉中の生デンプンはβ(ベータ)デンプンといい、直鎖アミロースと分岐鎖アミロペクチンが水素結合によって規則的に並んだミセル構造を形成しています。

この状態では水分子が入り込む隙間はほとんどなく、消化酵素は作用しません。

しかし生デンプンに水分を加え加熱することで、デンプンの分子が規則性を失い水分が入り込み、デンプン粒が吸水して膨潤します。

膨潤したデンプン粒は耐え切れず崩壊し、分散されて糊状になるのです。

この、一連の変化をデンプンの糊化(α化)といい、αは「アルファ」と読みます。

デンプンの糊化が起こる温度はデンプンの種類によって変わりますが、60~70℃の間が多く、小麦の場合は95℃前後で粘度がピークとなります。

デンプンの糊化は、身近なものではお米を例に説明することができます。

生のお米は硬く、水分が入りづらいβデンプンです。

しかしお米に水分を加え加熱すると、デンプン粒のなかに水が入り始め、ミセル構造を形成していたデンプン粒は崩壊し、不規則な状態になります。βデンプンはαデンプンとなり粘度が出てきます。

炊き立てのお米がもちもちしているのはそのためです。

このαデンプンは、βデンプンとは違い消化に良い状態となっています。

デンプンの老化(β化)とは

デンプンの老化とは、糊化(α化)したデンプンが時間の経過で再びミセル構造を形成し、硬くなったものです。

一度α化したものが、冷めると再びβデンプンになるのです。

これを老化(β化)といい、2~4℃が最も老化現象が進みます。

しかし、これは糊化する前の生デンプンと同じ状態に戻ったわけではありません。

ミセル構造は元の状態ではなく、アミロースの一部のみ集合し、アミロペクチンが再び集合するにはさらに時間がかかるうえ、完全には戻らないのです。

この老化もお米を例に説明することができます。

炊きたてのお米は冷却するとαデンプンから再びβデンプンに戻ってしまいます。

老化したお米は硬く、水分が少なくなりパサパサしてしまいます。

特に冷蔵庫保存したご飯が硬くなってしまうのはこのためです。

製パンにおける糊化(α化)の役割

製パンにおいては、デンプンの糊化(α化)がとても重要な役割をしています。主な役割について見ていきましょう。

繋ぎの役割

パン生地はグルテンの形成により生地に粘りや弾力性が生まれ、このグルテンが繋ぎの役割をしています。

しかし、グルテンは焼成により失活し、今度はデンプンが糊化して繋ぎの役割を果たすのです。

温度ごとの変化

小麦粉に含まれるデンプンは、冷水に混ぜてもあまり変化は見られません。

しかし、熱湯を加えることでその性質には変化が現れます。

次は、デンプンが温度ごとにどのような流れで変化して、糊化しているのかを見ていきたいと思います。

60℃前後

温度の低い状態では、デンプン粒は重さの30%程度しか吸水しません。

しかし、温度が60℃前後になると分子エネルギーが上昇し、デンプン粒のミセル構造がほぐれ、多くの水分を吸収して膨潤します。

デンプン分子のより強く規則的な構造を成す領域のみが残り、そこに力が加わります。この時の生地は半透明な溶液でネバネバしています。

70℃以上

ミセル構造を成していたデンプン粒は崩壊し、大量に吸水し始めます。

このときアミロペクチンが流れゲル化し、粘度がましていきます。

80~85℃

粘度が増し、糊化デンプンは白濁します。

このあと95℃前後で、粘度のピークを迎えます。

97℃以上

生地中に含まれる水分が液体から気体になり、デンプンが固化します。

その後、加熱を続けるとブレークダウンという現象がおこります。

ブレークダウンは、デンプンの分子が切れて粘度が一時的に下がる現象です。

これまでドロドロだったデンプンの粘度が、さらさらの状態になります。

小麦の場合は粘度のピークとブレークダウンしたときの粘度に差があまりないのが特徴です。

糊化を利用したパン製法

デンプンの糊化はどのようなパンの製法でもおこる工程の一つですが、なかには糊化の現象を特に利用したパン製法があります。

湯種製法

糊化を利用したパン製法には、「湯種製法」というものがあります。

湯種製法とは、パン生地の材料の小麦粉の一部に熱湯を加えて捏ね、一晩おいて餅状にし、デンプンを糊化(α化)させ、それをパンの材料の一部として使う製法です。

湯種製法をおこなうことで、ストレート法などの基本的な製法と比べ、もちもちでしっとりとしたパンに仕上がります。

老化しにくいパンに仕上がるのも特徴です。

製パンにおける老化(β化)の作用

糊化されαデンプンとなったものは、糊化の温度以下に冷えると、単純な構造のアミロース分子の一部が再び結合し始め、老化(β化)します。

老化はアミロペクチンよりアミロースの比率が多いほど早く進むことがわかっており、水分は徐々に失われパサパサしたパンになります

デンプンの老化を遅らせるには

パンは焼きあがったあとから、中に含まれる水分が液体から気体に変わり、デンプンの老化が進みます。

しかし、デンプンの老化は、工夫することで遅らせることができます。

リッチなパンはデンプンの老化が遅い

材料に油脂や卵などを含まないリーンなパンは老化が早く、油脂や卵を含むリッチなパンは老化が遅いと言われています。

影響を与える主な材料について紹介したいと思います。

油脂の影響

油脂の多いパンは保水性が高く、デンプンの老化を遅らせることができます。

油脂がコーティングすることにより、水分の蒸発を抑えてくれるのです。

また、油脂に含まれるリン脂質が乳化剤の役割を果たし、本来混ざることのない水と油を乳化させてくれます。

卵の影響

卵黄に含まれるレシチンが乳化することで、パンの生地の自由水は細かい分子となり生地と結合しやすくなります。

自由水が結合水となることで腐敗しにくくもなるのです。

また、デンプンの糊化と同時にアミロースはデンプン粒から流れて、硬いゲル状になってしまいますが、卵黄のレシチンと結合することで、流れずにデンプン粒に付着してくれます。

そのため冷めても硬くなりづらく、老化を遅らせる効果があります。

砂糖の影響

砂糖も保水性が非常に高く、老化を遅らせる効果があります。

老化によって水分は排出されますが、アミロースやアミロペクチンの間に入り込んだ糖が、水分を保持し糊化の状態を維持してくれるのです。

結晶状態の上白糖やグラニュー糖に比べ、異性化糖やはちみつ、水あめの方がより湿潤性を増します。

よって、選ぶ糖の種類によってより老化を遅らせる効果に違いがあると言えるでしょう。

さいごに

今回は、デンプンの糊化(α化)と老化(β化)について解説しました。

デンプンが糊化する現象は、パンの製造には必要不可欠なもので、湯種製法など糊化を利用した製法もあり、おいしさの要となるものと言えるでしょう。

糊化したデンプンは消化に良く体への負担もあまりありません。

時間が経ったパンは食感や味が劣るものの、老化したβデンプンは消化酵素で分解されないので、食後の血糖値の上昇が緩やかになるなど、メリットがあることもわかっています。

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この記事を書いた人

医療技術系短大卒業後、バイオ系研究室テクニシャンなどを経て、現在はフリーランスのライターとして活動中です。
製パンスクールのプロコースを卒業した経歴を活かし、実践に役立つ製パン知識を、よりわかりやすく科学的にお伝えします。
食育アドバイザー、幼児食インストラクター資格保持。

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