湯種製法とは?企業が特許を取るほどのパン製法!特徴と作り方を解説!
もちもちとした食感で、しっとりした生地が次の日も続く湯種パン。
湯種を使ったパンは湯種製法という特別な作り方をし、今ではベーカリーや食パン専門店のみならず、大手企業も取り入れている日本独自の製法です。
今回はそんな湯種製法について紹介していきたいと思います。
湯種製法とは
湯種は、パン生地の材料の小麦粉の一部にあらかじめ熱湯を加えて捏ね、一晩置いて餅状にしたもので、その湯種を使って作るパンの製法を「湯種製法」といいます。
熱湯を加えて捏ねることで、小麦粉中のデンプンが糊化(α化)されます。
この糊化したデンプンが湯種となり、それを生地の一部として使うことで、もちもちでしっとりしたパンを作ることができるのです。
湯種製法の作り方の手順と仕組み
それでは、実際に湯種製法の手順について紹介していきましょう。
湯種製法では、事前に「湯種生地」を準備し、そのあとパン生地作りへと移ります。
湯種生地作り
パンの材料の一部の小麦粉に熱湯を加え、捏ねていきます。
熱湯を入れることで小麦粉のデンプンが糊化し、団子状になります。
水の温度が低いと糊化しないので注意しましょう。
生地がまとまってきたら、捏ね上げ温度が50℃になるようにします。
そのまま粗熱を取り、冷蔵庫で12時間以上寝かせてください。
粗熱を取らずに蓋やラップをすると、蒸発した水分が水滴となって、湯種の表面についてしまうので気を付けましょう。
本ごね(パン生地作り)
本ごねの生地を作っていきます。
湯種以外の材料を混ぜ、ミキシングします。
湯種は、熱湯を加えたときにグルテンが壊れています。
そのため、本ごねの生地はしっかりグルテンを形成させておくことが大事です。
湯種を合わせる
捏ねあがった本ごね生地に、湯種を合わせていきましょう。
湯種は30~50%の割合で入れることができます。
湯種の配合は多ければ多いほど、膨らみづらくなり、目の詰まったパンになってしまうので、多すぎないようにしましょう。
湯種生地は団子状になっているため、そのまま本ごね生地に入れてしまうとうまく混ざりません。
湯種生地を細かくちぎり、本ごね生地に均一に混ぜていきます。
その後しっかり捏ね、グルテンを形成させます。
一次発酵
生地をまとめ、28℃で30~60分放置し一次発酵させます。
生地の分量によって発酵時間に差がありますが、生地を見て約2倍の量になるまで発酵させましょう。
分割・ベンチタイム
一次発酵が完了したら分割し、生地を丸めベンチタイムを20分ほどとります。
分割する前にパンチをし、軽くガスを抜いておくと新しい酸素が入り、酵母の働きが活発になるため発酵が促進されます。
成形
成形します。
湯種を使った生地は発酵しにくいので、成形のさいにはあまり生地に負担をかけないよう心がけましょう。
二次発酵
28℃で60分放置し、二次発酵させます。
焼成
オーブンは200℃で予熱しておき、180℃で焼成します。
テーブルロールなどであれば10~13分、食パンなら30分ほど焼きましょう。
湯種製法のメリット
それでは、ここからは湯種製法のメリットについて紹介していきたいと思います。
- もちもちの食感
- 老化しづらくなる
もちもちの食感
湯種は糊化しているため通常よりも多くの水分を吸収しています。
そのため湯種製法で作るパンは、もちもちした食感になり、小麦の甘さも引き出されます。
老化しづらくなる
吸水率が高いため、時間が経ってもパサパサしにくく、老化しづらくなります。
いつまでも柔らかさが続き、賞味期限も長くなります。
湯種製法のデメリット
その口どけのよさとおいしさに定評のある湯種製法ですが、次は湯種製法のデメリットについても紹介していきたいと思います。
- 時間がかかる
- ボリュームが出にくくなる
- 焼き色が付きやすい
- 製パン性の低下
時間がかかる
湯種製法では、あらかじめ湯種を作り一晩寝かせておかないといけないため、通常の製パン工程よりも時間がかかってしまいます。
ボリュームが出にくくなる
湯種にはグルテンがなく、本ごねのグルテンだけが頼りです。
湯種の量を多くしてしまうと、窯伸びしづらく、焼成後のボリュームも出にくくなってしまいます。
焼き色が付きやすい
パンを焼いたときに褐色になるのは、いわゆるメイラード反応が関係しています。
メイラード反応とは、還元基をもつ糖類とアミノ化合物が結合し、過熱によって褐色物質を生み出す反応のことです。
製パンでは、パンの材料に含まれる糖とタンパク質が結合し、加熱によってメイラード反応をおこします。
湯種製法では、製造過程で糊化したデンプンの一部が酵素によって分解され、麦芽糖が生成されます。
そのため、通常の製法よりもメイラード反応が促進されやすくなるのです。
焼き色が付きやすくなるので、焦げないよう注意を払わなければいけません。
製パン性の低下
湯種は生地がベタベタしてとても扱いづらく、製パン性が低下してしまいます。
また、グルテンの力が弱いので、焼成後にパンの側面がへこんでしまうケービング現象が起こりやすくなります。
湯種製法は大手メーカーも取り入れている
製パン性が低く、手作業で作る個人店で主に使われていた湯種製法。
しかし、現在は試行錯誤のすえ大量生産が可能になり、複数の大手メーカーが湯種製法を取り入れるようになりました。
湯種製法を使った主な商品
大手メーカーが手がける、湯種製法を使った主な商品を紹介していきたいと思います。
敷島製パン「超熟」
敷島製パンは、愛知県名古屋市に本社を置き、創立100年を超える老舗製パンメーカーです。
「超熟」は敷島製パンのオリジナルブランド「Pasco」の主力商品となっています。
製パン会社での量産は難しいとされていた湯種製法を、試行錯誤のすえ、半年以上かけて初めて成功させました。
山崎製パン「超芳醇」
山崎製パンは、東京都千代田区に本社を構える日本最大の製パンメーカーです。
コンビニやスーパー向けのパンを製造・販売しているだけでなく、ベーカリーカフェ事業、フランチャイズ方式のコンビニエンスストアであるデイリーヤマザキの展開などもおこなっています。
山崎製パンが手がける「超芳醇」は、厳選した小麦を使い、湯種製法で仕上げもっちりでほんのり甘いおいしさが特徴です。
神戸屋「湯種」
神戸屋は大阪府に本社を置く食品メーカーで、コンビニやスーパーはもちろん、自社ベーカリーに並ぶパンや洋菓子の製造・販売、さらにはレストラン経営を手がけています。
神戸屋の「湯種」は湯種製法を使った食パンで、2001年に発売されたヒット商品。
最近のニーズに応え、もちもちでありながらもソフトな食感に仕上げています。イーストフードや乳化剤不使用のこだわりの逸品です。
奥本製粉「い~湯だね!」シリーズ
奥本製粉は大阪府に本社を置く製粉メーカーで、他社とは違い“湯種製法を使ったパン”ではなく、“湯種”そのものを販売しています。
「い~湯だね!」シリーズは、冷凍またはレトルトになった湯種として販売されており、本ごねのミキシングからスタートできるため、前日からの前処理が必要ありません。
また、独自の製法により、安定した品質を保つことができ、ベンチタイムをとる必要もありません。そのため作業時間の短縮にも繋がります。
特許を取得している企業
独自の方法で特許を取得している湯種製法は料理教室にも存在しますが、ここでは主に大手企業を紹介していきたいと思います。
特許を取得している企業には奥本製粉、敷島製パン、山崎製パンなどがあります。
奥本製粉は湯種生地を冷凍湯種やレトルト湯種として販売し、敷島製パンと山崎製パンは、湯種製法で製造したパンを販売しています。
奥本製粉株式会社
敷島製パン株式会社
山崎製パン株式会社
特許が取られた作り方の手順
それでは、特許が取られた湯種の作り方を簡単に紹介したいと思います。
製パン会社である敷島製パンと山崎製パンについてそれぞれご紹介しましょう。
どちらも70℃の状態で捏ねるというのは共通していますが、工程に少しずつ違いがあります。
敷島製パン株式会社
まずは敷島製パンの作り方です。
湯種を作る部分について見ていきましょう。
手順
- 小麦粉に70℃の熱湯を加え、捏ねる
- 低温で熟成させる
山崎製パン株式会社
湯種を作るには、70℃で捏ねることが必要です。
しかし敷島製パンで先に特許が取られているため、山崎製パンでは以下のような方法で特許を取得しています。
手順
- 小麦粉に40~65℃の温水を加える
- 55~70℃の捏上げ温度になるまで、加温しながら捏ねる。
- 5~20℃で12~24時間低温で熟成させ、最適捏上げ温度である26~29℃へ最終調整する。
山崎製パンは、先に申請していた敷島製パンの方法を工夫して温水を加え、その後加温することで70℃の温度で捏ね上げています。
まとめ
大手企業も取り入れている湯種製法。
もちもちでしっとりした食感と、次の日まで続くしっとり感は、人気商品には欠かせない製法となっています。
製パン性の悪さから大手企業では生産が難しいと考えられていましたが、創意工夫により可能になったことは企業の努力の成せる業といえるでしょう。