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バシナージュとは?フランス語での意味は?やり方やタイミングを解説!

足し水という意味を持つバシナージュ。

パンの製造に携わって間もない方には、あまり聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、高加水パンのように水分量の多い生地に使われる製法です。

ミキシングしてグルテンを形成させた後に、さらに水を加えて捏ねることで、生地にたっぷりと水分を含ませることができます。

ここでは、バシナージュのやり方や水を加えるタイミングを解説していきたいと思います。

目次

バシナージュとは

バシナージュとは、一度水を加えて捏ね上がった生地に、さらに水を足してミキシングをおこなう方法のことです。

基本的に、水を多く使う高加水パンでおこなわれている製法です。

最初に加える水の量は、材料の水の70~80%程度。

完全にグルテンが形成された状態で、さらに残りの水を追加してミキシングをおこない、生地を仕上げます。

この方法は一般的にはバシナージュと呼ばれていますが、ほかにも「加水法」や「足し水」、「差し水」などと呼ばれています。

バシナージュの歴史と起源

バシナージュがいつからどのようにして始まった製法なのか、残念ながら特定できる文献を見つけることができませんでした。

バシナージュをおこなうパンと言えば高加水パンですが、そのなかでもイタリアのチャバタは、水を多く入れすぎたことによって誕生したパン。

失敗から生まれたパンが意外にももちもちとして美味しかったことから、水分の多いパンが誕生しました。

バシナージュの原点と言えるパンでもあります。

バシナージュの語源

バシナージュ(Basinage)はフランス語で、製パン用語としては「足し水」という意味に訳されています。

フランスでは、日常会話で「eau de bassinage」と言うことがあり、水でびしょ濡れという意味で使われています。

また、水を溜める“たらい”のことをバッサン(Bassin)と言うため、バシナージュはこのバッサンが語源となっているという説が有力です。

このようにバシナージュという名前はフランス語であるため、バシナージュという製法はフランスで確立したもの考えるのが自然です。

チャバタのように水をたくさん加えて作るパンはあったものの、バシナージュを製パン業界で製法として取り入れ、広がり始めたのは、まだまだ最近の話なのです。

バシナージュの仕組みと目的

水分の多い高加水パンは、もちもちとした食感が特徴で、小麦粉の風味や旨味を感じることができます。

しかし、たくさんの水を一度に加えても、ベチャベチャしてしまい生地が上手く捏ねられないのです。

バシナージュをおこなうことで、たくさんの水を加えることができ、もちもちとした食感と風味の豊かなパンに仕上げることができます。

最初にグルテンを形成させる

バシナージュをおこなううえで大切なのが、材料の70~80%の水で最初にグルテンを形成し、生地として仕上げるということです。

通常のパンは、生地の材料に65~70%の水を使います。

グルテンを形成させるには、70%前後の水でミキシングをおこなうのが最も捏ねやすく、適しているのです。

それ以上の水を加えても、生地は非常に捏ねにくく、なかなかグルテンを形成することはできません。

それどころか、いつまでも捏ね続けることで生地を傷めてしまう恐れさえあります。

生地への負担を減らすためにも、バシナージュという製法が有効なのです。

バシナージュをおこなうことで、生地を傷めずたくさんの水分を取り込んで、もちもちとした食感を出すことができます。

自由水を作る

高加水パンは、基本的に副材料が入らないシンプルな材料で作ります。

そのため、生地がダレやすく焼いたときに扁平なパンになりやすいのです。

そこでバシナージュをおこない、水を後から追加することで、窯伸びしやすい生地にすることができます。

これはどういうことなのか、もう少し詳しく説明していきましょう。

グルテンが形成された後に水分を追加し、再びミキシングすると、一度できたグルテンの網目構造が適度にほぐれます。

追加した水分は、グルテン膜と結合することなくグルテンの網目構造の隙間に自由水として取り込まれます。

自由水は焼成時に蒸発してなくなる水。

蒸発するときに生地は膨張し、窯伸びしやすくなるのです。

バシナージュのやり方

それでは、バシナージュのやり方について説明していきましょう。

まず、最初に使う水と、バシナージュ(足し水)として使う水とに分けます。

例えば、水分量の多いパン・ド・ロデヴの場合は、使う水の量はベーカーズパーセントで90%ほどです。

この場合、最初にベーカーズパーセント90%中の70%分を使用し、残り20%はミキシング後に加えます。

季節によって湿度が変わったり、粉の種類によって吸水性に違いがあるので、少しずつ分量を変えて何度か挑戦してみると良いでしょう。

ここでは、パン・ド・ロデヴの水分量90%の場合のバシナージュのやり方を紹介します。

オートリーズ

バシナージュをおこなう場合、まずは材料の水の70%を最初のミキシング用に使い、残りの20%はバシナージュ用にとっておきます。

バシナージュを成功させるために、最初にオートリーズをおこないます。

オートリーズは小麦粉と水を混ぜてしばらくそのまま放置し、水和させて自然にグルテンを形成させる方法のことです。

オートリーズは自己融解という意味で、自然にグルテンが形成される様子からこのような名前が付いています。

高加水パンに使用する水を粉にしっかり馴染ませグルテンを形成させるには、それだけミキシングを長くしなければいけなくなるのですが、一方で生地が非常に傷んでしまいます。

できるだけミキシングの時間を短く済ませるために、オートリーズをおこなってグルテンの形成を促します。

ここでは酵母や塩などは入れず、小麦粉と水をさっと混ぜて、15~30分ほど生地を放置します。

オートリーズの放置時間が長いため、酵母を入れてしまうと過発酵になってしまうのです。

また、オートリーズはグルテンを形成させると同時に、適度にほぐし伸びやすい生地にする役割もあります。

しっかり水和させるためにも、引き締め効果のある塩はこの段階では入れないのです。

ミキシング

次にミキシングですが、ここで初めて酵母と塩を加えます。

最初に酵母だけを加えてミキシングし、その後塩を加えます。

塩を加えることによって、グルテンが引き締まり、緩かった生地に弾力と艶が生まれます。

足し水(バシナージュ)

しっかりグルテンが形成されたら、ここで「バシナージュ」。つまり、足し水をします。

最初はベチャベチャで水浸しの状態ですが、ミキシングを続けることで徐々に生地のなかに水が入っていきます。

バシナージュをおこなう際の注意点

バシナージュをおこなった生地は、1次発酵後に必ずパンチをしましょう。

高加水パンの生地は、水分が多く副材料が少ないため、非常に流動性があります。

パンチをすることで生地を引き締め、グルテンの形成を促して弾力が生まれるのです。

その結果、ボリュームのあるパンに仕上げることができます。

ミキサーを使う場合の注意点

ミキサーを使ってバシナージュをおこなう場合、使うミキサーによっては工夫が必要です。

特に家庭用のミキサーは、器械の種類によって羽の回転方法が大きく違います。

生地の捏ね方にも違いが出てくるのです。

ミキシングをしてまとまった生地に水を足すと、生地とミキサーボウルの隙間に水の層ができ、生地が空回りしてしまうことがあります。

これを防ぐためには足し水は少しずつ加えるようにし、しっかり生地のなかに染み込ませていくようにすると良いでしょう。

手ごねでおこなう場合の注意点

手ごねをおこなう場合は、バシナージュするときの足し水を生地の表面に塗り広げるように馴染ませます。

手水をつけて、それを生地に塗りつけるようなイメージです。

その都度叩きつけるように捏ね、叩きつけて広がった生地の表面に再び水を塗るというのを何度も繰り返し、生地を完成させます。

なぜ高加水パンはバシナージュする?

バシナージュは、パン・ド・ロデヴやカンパーニュ、チャバタ、リュスティックなどの高加水パンでおこなわれている製法です。

これらの高加水パンはとてもシンプルな材料で、副材料がほとんど入っていません。

シンプルな材料で作るパンは、小麦粉の風味や旨味を感じることができる反面、生地に弾力がなくボリュームが出にくかったり、老化しやすくなってしまうのです。

バシナージュをおこなうことで、窯伸びしやすい生地にしてボリュームを出すことができ、たくさんの水を加えることが可能となって、老化しにくいパンに仕上げることができます。

高加水パン以外のパンにバシナージュするとどうなる?

パン・ド・ロデヴやリュスティックなどのいわゆる高加水パンと言われるものだけではなく、食パンやバゲットでも水分を増やし、バシナージュをおこなうことができます。

メリット

まずは、食パンやバゲットでバシナージュをおこなうことのメリットを紹介します。

しっとりもちもちのクラムになる

バシナージュをおこなうことで、生地に水分をたくさん入れることができます。

みずみずしい生地となり、しっとりもちもちのクラムに仕上げることができます。

捏ね上げ温度が高くなりすぎるのを防ぐことができる

気温の高い季節は室温が高くなり、捏ね上げ温度も上がりやすくなります。

捏ね上げ温度が高いと、生地の発酵状態にも大きく影響してしまうのです。

バシナージュをおこなった場合、最初のミキシングによって捏ね上げ温度が高くなってしまっても、足し水で温度調整することができ、生地の温度を下げることができます。

老化を遅らせる

パンは乾燥によって水分が失われ、次第にパサパサしていきます。

これを老化と言いますが、水分の多い生地は、その分乾燥しにくくなり、老化を遅らせる効果があります。

バシナージュをおこなうことで、より多くの水を加えることができ、老化を遅らせることができるのです。

小麦の風味や旨味を引き立たせる

水分の多いパンは、しっかり捏ねることが難しいため冷蔵庫で長時間発酵をおこなうのが一般的です。

長時間発酵をおこなう際は生地がゆっくり熟成されるうえ、酵母の量も少量で済み、小麦そのものの風味や旨味を引き立たせることができます。

デメリット

食パンやバゲットは、バシナージュをおこなうことで一般的な高加水パンと同じようにさまざまな効果が期待できますが、一方でデメリットもあります。

時間がかかる

バシナージュをおこなうことで、オートリーズや長時間発酵などの工程が加わり、通常の作り方で食パンやバゲットを作るよりも多くの時間がかかってしまいます。

思い立ったときに作って、その日のうちに食べるというのは難しくなってしまうのです。

カビが生えやすくなる

バシナージュをおこなって水分をたくさん加えたパンは、カビが生えやすくなってしまいます。

特に食パンは、カットしたときのクラムの表面積が大きいため、手が触れることでカビが生えやすいパンです。

バシナージュによって水分が増え、よりカビが好む環境になるため、カビが生えるリスクが高くなってしまいます。

扁平なパンになる

バシナージュをおこなうということは、高加水になるということ。

水分の多いパンは、気泡が潰れやすく形が整いにくくなります。

そのため、高加水ではあっても、食パンやバゲットの水分はやや控えめにするのが良いでしょう。

食パンの成形をするときは生地が丸めにくいため、作業台にのせてくるくると丸めるのではなく、四隅を折りたたむようにして丸く形を整えるようにしなければいけません。

補足

バシナージュのメリットとして、窯伸びしやすいというのがありますが、これは流動性がある高加水パンの生地にバシナージュをおこなうことで自由水を多く作り、本来扁平になるパンにボリュームを持たせることができるというもの。

通常では扁平になることのない食パンやバゲットでは、バシナージュをおこなう=高加水にすることによって、通常の方法よりも扁平なパンになりやすくなるのです。

まとめ

バシナージュをおこなう方法は、時間や手間もかかり、作ることができるパンも限られてしまいますが、高加水パンにはもちもちした食感や小麦の風味や旨味をより感じることができるなどのメリットもあります。

大量生産が難しいため、個人経営のパン屋や家庭でパン作りをおこなうときに向いている方法ですが、苦労した分できたパンの美味しさは格別です。ぜひ挑戦してみてください。

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この記事を書いた人

医療技術系短大卒業後、バイオ系研究室テクニシャンなどを経て、現在はフリーランスのライターとして活動中です。
製パンスクールのプロコースを卒業した経歴を活かし、実践に役立つ製パン知識を、よりわかりやすく科学的にお伝えします。
食育アドバイザー、幼児食インストラクター資格保持。

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