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オートリーズの目的とは?なぜフランスパンはオートリーズするか解説!

最初は粉と水を混ぜて焼くだけから始まったパンも、長い歴史のなかで技術が確立され、いまではさまざまな製法があります。

なかでもオートリーズは、パン屋さんでもよく取り入れられている工程のひとつです。

オートリーズをおこなう目的は、酵素の働きを良くし、伸展性を高めるためです。

基本的に作業性を良くするためにおこなわれる工程ですが、プロの職人だけでなく、家庭でも簡単に取り入れることができます。

今回は、そんなオートリーズについて解説していきたいと思います。

目次

オートリーズとは

オートリーズ(autolyze)とは、直訳すると「自己融解」、「自己消化」、「自己分解」の意味です。

人が手を加えることなくグルテンを形成していくことから、この名が付けられました。

オートリーズは製パンの工程のことで、フランスの国立製粉学校名誉教授であるレイモン・カルベル氏によって考案されました。

レイモン・カルベル氏は、日本にフランスパンの技術を普及させたとして「パンの神様」と称されている人物です。

オートリーズの手順

それでは、オートリーズの手順を見ていきましょう。

STEP
粉と水を混ぜる

最初に粉と水を軽く混ぜ合わせます。時間にすると2分程度です。

生地にモルトや砂糖を入れる場合も一緒に混ぜておきましょう。

このとき、イーストや塩は入れません

その理由については、後述する「なぜオートリーズではイーストを入れない?」の項で説明したいと思います。

STEP
生地を15分~30分寝かせる(オートリーズ)

生地を室温で15~30分ほど寝かせます。

基本的には室温でおこないますが、5~10℃の温度のなか長時間でおこなうこともできます。

ただし、5℃未満にはならないようにし、24時間を超えないようにしましょう。

この理由については、後述する「オートリーズの時間は長ければ長いほど良い?」の項で説明したいと思います。

STEP
塩やイーストを加えてミキシングする

オートリーズと呼ばれる工程は、紹介したSTEP1~STEP2にかけての部分です。

オートリーズをおこなったあとは、塩やイーストを加え、ミキシングしていきます。

まずはイーストから先に入れ、混ざるまでしっかりミキシングし、そのあと塩を加え、さらにミキシングしていきましょう。

オートリーズの目的

オートリーズの主な目的は、水和させ酵素の働きを促進し、生地の伸展性をよくすることです。

さらに水和されると自然にグルテンが形成されるので、ミキシング時間を短縮することができます。

それぞれについて解説していきたいと思います。

酵素の働きを促進

オートリーズの主な目的と言えるのが、酵素の働きを促進させることです。

ここで働く酵素とは、アミラーゼとプロテアーゼのことです。

デンプン分解酵素のアミラーゼ

まずはデンプン分解酵素であるアミラーゼについて説明していきましょう。

粉と水を混ぜると、粉に含まれる損傷デンプンが水を吸い、もともと粉に含まれるα-アミラーゼによってデキストリンという多糖類に分解されます。

さらに、デキストリンは粉に含まれるβ-アミラーゼによって麦芽糖に分解されるのです。

タンパク質分解酵素のプロテアーゼ

次に、タンパク質分解酵素であるプロテアーゼについてです。

プロテアーゼの働きにより、小麦タンパクの一部が分解されます。

この小麦タンパクというのが、グルテンの形成に欠かせないグリアジンとグルテニンのことです。

生地の伸展性を良くする

オートリーズをおこなうと、塩の影響を受けずにデンプンとグルテンタンパク質が水を最大限に吸い、酵素の働きを促進させることができます。

アミラーゼの働きで生成した麦芽糖には、生地を軟化させる作用があります。

また、プロテアーゼの作用により小麦タンパクの一部が分解されるため、グリアジンとグルテニンの結合が通常よりも短いものとなり、生地を軟化させるのです。

粉と水が混ざることであらかじめ酵素がしっかり働き、外的刺激を与えることなく分解が進みます。

これが自己融解という意味をもつオートリーズが名前に使われる理由です。

水和とは

水和とは、粒子を水分子が取り囲む現象のことです。

パンでいう水和は、粉の芯まで吸水し、タンパク質の分子と水分子が結合した状態のことです。

なぜ水和するとグルテンが形成されるのか

通常、粉と水を混ぜてミキシングをしていくとグルテンが形成されます。

では、グルテン形成についてここで少し説明しましょう。

一般的にグルテンが形成されると表現するのは、しっかりグルテン膜ができ、パン生地として完成した状態のこと。

しかし、グルテンそのものは、水和した状態で短くてランダムなものがすでに存在します。

というのも、グルテンはグリアジンとグルテニンのタンパク質分子が連なって鎖状になったもので、水と混ぜた段階でグリアジンとグルテニンの分子が結合し、短いながらも鎖状のグルテンタンパク質が形成されるのです。

この時点では短くランダムに並んでいるため、生地にはならず濃い液状となっています。

このように水和でもグルテンは形成され、最初は短い鎖状のグルテンタンパク質も、ミキシングすることで分子が連なって長い鎖状となり、規則性のある状態になります

長いタンパク質分子が粘着し絡みあうことでパン生地となるのです。

オートリーズの効果

では、オートリーズをおこなうことでどのような効果が期待できるのか、説明していきたいと思います。

作業性の向上

伸展性を良くすることで、生地がまとまりやすくなります。

その結果ミキシングの時間を短縮することができ、作業性の向上に繋がります。

特に加水率が高い生地や、タンパク質含有量の少ない粉を使うときはグルテンが形成されにくく、ミキシングに時間がかかるものです。

しかし、オートリーズをおこないしっかり水和させることで、伸展性が高くなり扱いやすい生地にすることができます。

また、すでにデンプンが麦芽糖にまで分解されているので、イーストを入れたときに酵母のもつ酵素がすぐに麦芽糖に働き、発酵がスムーズにおこなわれるのです。

仕上がりの向上

ミキシング時間が短縮できると、生地が酸素にさらされる時間が減少し、小麦のもつ風味が残りやすくなります。

また、酵素が小麦粉のデンプンを十分に糖に変えているので、甘みや旨味がでます。

しかし、このような味の変化は明らかな違いがあるとは感じにくく、消費者にとってはあまり区別できません。

そのため、オートリーズの効果は作業性の向上が主であると言えるでしょう。

オートリーズするパンの種類

オートリーズは、もともとフランスパンを作る工程として誕生したもので、基本的にはリーンなパンでおこないます。

しかし、作業性の良さから油脂などを入れるリッチなパンでも使われています。

フランスパンやバゲットなどのリーンなパン

オートリーズはフランスで誕生した技法です。

そのため、フランスパンの作業性の向上を目的としており、べたつきやすいパンに適しています。

フランスパンは、気泡は大きく数が少ない方が噛み応えがあり、特有の食感になります。

しかし、ミキシング時間を長くすればするほど、気泡は細かくたくさん入り、柔らかいパンになってしまうのです。

また、空気に触れれば触れるほど、生地は白っぽくなり、小麦の風味も飛びます。

できる限りミキシングを少なくしたいフランスパンにとって、とても画期的な方法なのです。

食パンなどのリッチなパン

今では日本でもオートリーズの技法が広がり、食パンにも応用されています。

特に加水率の高い場合や、タンパク質含有量の少ない国産小麦を使う場合でも、作業性が良くなりボリュームが出やすくなるためです。

なぜオートリーズをする必要がある?

レイモン・カルベル氏は、オートリーズは時間を短縮して工業生産するのに効果的な方法であるとして発案し、広めていきました。

  • ミキシングを極力減らしたい。
  • 発酵をすぐにスタートしたい。
  • 伸展性を出すのが難しいリーンなパンでも、効率よく伸展性を出したい。

このように作業性を向上させる方法として、今では欠かせない技法となっているのです。

オートリーズは絶対に必要?

オートリーズは必ずしも必要な工程ではありません。

初めからオートリーズという工程があったわけではなく、作業性の向上を目的に考えられたものです。

そのため、オートリーズをしなくてもパンを作ることはできます。

なぜオートリーズではイーストを入れない?

オートリーズは、室温だと最低15分以上放置しておくことになります。

そのため、イーストはオートリーズ後に入れます。

イーストをこの時点で一緒に入れてしまうと、ミキシング前に生地が発酵してしまうからです。

オートリーズでは塩も入れない

塩にはナトリウムイオン(陽性)と塩素イオン(陰性)があり、グルテニンの荷電部分に集まります。

それにより荷電部分同士が反発しにくくなり、タンパク質が結合しやすくなるのです。

そのような性質から、塩には引き締め効果がうまれます。

しかし、発酵前に生地を緩めて伸展性をよくするオートリーズの目的とは反するものです。

そのため、十分に伸展性を高めたオートリーズ後に入れる必要があるのです。

なぜオートリーズにモルトシロップを入れる?

必ずしもオートリーズそのものに、モルトシロップが必要なわけではありません。

オートリーズをおこなうのが、フランスパンに多いからです。

しかし、モルトシロップには酵素の働きを促す効果があり、オートリーズ後ではなくオートリーズの段階で入れることには意義があります。

食パンの場合は副材料が入るものが多いので、フランスパンやバゲットなどのリーンなパンとは、少しオートリーズ前後の材料を入れるタイミングが違います。

砂糖や脱脂粉乳は粉と水を混ぜるときに一緒に入れておき、油脂はオートリーズをおこないさらにミキシング後、ある程度グルテンが形成されてから加えます。

オートリーズでグルテンができるならミキシングは不要?

これまで解説してきたように、オートリーズで完全に生地が出来上がるわけではありません。

水を加えた生地は、グルテンタンパク質がランダムに並んだ状態で、短い鎖状となっています。

ミキシングしていくことで、グルテンタンパク質はさらに分子が連なり、長く規則的になります。

だんだん繊維が絡まり強化された状態となって、しっかり弾力のある生地に仕上がるのです。

オートリーズの時間は長ければ長いほど良い?

オートリーズの時間が長いと酵素が働きすぎるため、伸展性が過度に高まります

伸展性が高まりすぎると、生地が緩み焼成後のパンが扁平なパンになってしまうのです。

5~10℃の温度でも、24時間以上はしない方が良いでしょう。

また、5℃未満の低温では酵素が活性化されません。低すぎる温度にも注意する必要があるでしょう。

まとめ

オートリーズは酵素の働きを促し、伸展性を良くするためにおこなわれる技法であることがわかりました。

作業性の向上は、結果的にパンの仕上がりにも影響します。

簡単で画期的な方法であるのも、多くのパン職人に親しまれている理由でしょう。

家庭でも簡単に取り入れることができるので、フランスパンなど扱いにくい生地でぜひチャレンジしてみてください。

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この記事を書いた人

医療技術系短大卒業後、バイオ系研究室テクニシャンなどを経て、現在はフリーランスのライターとして活動中です。
製パンスクールのプロコースを卒業した経歴を活かし、実践に役立つ製パン知識を、よりわかりやすく科学的にお伝えします。
食育アドバイザー、幼児食インストラクター資格保持。

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