後塩法とは?メリット・デメリットやオートリーズとの違いを解説!
塩をミキシングの初めから入れずに、途中から入れる後塩法。
なかなか馴染みのないパンの製法ですが、小麦粉への水和が進むなど生地の調整をするのに便利な方法です。
ここでは後塩法のメリットやデメリットに加え、同じく塩を初めから入れないオートリーズとの違いについて解説していきたいと思います。
後塩法とは
後塩法はパンの製法の一つで、「こうえんほう」または「あとじおほう」と読みます。
後塩法は、その名の通り後から塩を入れる製法のこと。
通常、塩は小麦粉やイーストなどと同時に一番最初から材料のなかに入れてミキシングしますが、後塩法では塩を最初から加えず、パン生地をある程度捏ねてから加えます。
製パンにおける塩の役割
後塩法の大きな鍵となる塩ですが、塩はパン作りに欠かせない材料の一つ。
製パンにおける塩の役割には、次のようなものがあります。
生地を引き締める
塩の役割として代表的なのが、生地の引き締め効果です。
小麦粉にはグリアジンとグルテニンというたんぱく質が多く含まれています。
グリアジンは水に溶けないとされていますが、塩の存在下では水に溶ける性質に変化するという研究結果が報告されています。
水溶化したグリアジンは塩の存在によってすぐに凝集し、グルテニンと強い相互作用をおこして生地の密度が高くなるのです。
これが、塩が生地を引き締めるという表現に繋がっているのです。
発酵を抑制する
塩には発酵を抑制する作用もあります。
それにはいくつかの理由があり、その一つは塩を入れることで酵素の活性が抑制されるということです。
酵素の活性が抑制されると、生地の発酵スピードが遅くなるのです。
発酵を抑制するもう一つの理由は、浸透圧の影響です。
塩を入れると、浸透圧によってイーストの体内の水分が外に出てしまうため、イーストは発酵能力を失います。
そのため、パン生地の発酵を抑制することになるのです。
パン作りでは、このような塩の性質を利用して、発酵をコントロールすることができます。
パンに味をつける
塩を加えると、味の対比効果や相乗効果によってパンの食味が向上します。
パンに塩が入っていないと、何だか味気ないものになってしまうのですが、塩を加えることでパンを美味しくすることができます。
後塩法の目的
生地を引き締めたり、発酵をコントロールしたりする役割のある塩。
そのような役割のある塩を後から入れる後塩法の目的には、次のようなものがあります。
生地を柔らかく仕上げる
塩を初めから入れる製法では、塩によってグルテンタンパクの分子間の距離が縮まり、生地が引き締まって小麦粉への吸水が阻害されてしまいます。
しかし、塩を後から入れる後塩法では、塩を入れる前のミキシングで小麦粉の水和がスムーズに進み、吸水を調整することができるのです。
吸水の調整によって十分に水和させた生地は、伸展性を高くし機械耐性に優れた生地に仕上げることができます。
作業を効率化する
後塩法では水和がスムーズに進むため、ミキシング時間を3割ほど短縮することができます。
ミキシングを短くした生地は、同じく機械耐性に優れています。
後塩法の効果・作用
後塩法にはどのような効果や作用があるのでしょうか?
小麦への水和が良くなる
塩を加えることによって、グリアジンとグルテニンが強い相互作用をおこして生地の密度が高くなり、小麦粉の水和が抑制されます。
そのため、初めに塩を入れない後塩法では、小麦粉の水和が抑制されることなくスムーズに進むのです。
ミキシングを短縮できる
ミキシングは、グルテンをうまく形成するために重要な工程です。
粉と水が混ざり、捏ねることでしっかりとしたグルテン膜が形成されます。
ところが、前述の「小麦への水和が良くなる」の項でも説明したように、グルテンは粉と水が混ざり水和が進むことで、ある程度自然に形成されます。
塩を加えた生地は塩の引き締め効果によって密度が高くなり、水和が抑制されると言いましたが、塩を初めに入れない後塩法では水和がスムーズに進み、グルテンが形成されやすくなるのです。
そのため、水和が進んだ後塩法の生地はミキシング時間を短縮することができます。
後塩法の手順
次に、後塩法の手順について見ていきましょう。
後塩法の手順にはさまざまな方法がありますが、ここでは一例として参考にしてみてください。
STEP1 計量
まずは計量の段階で注意が必要です。
後塩法では塩は後から入れるため、計量したらほかの材料とは混ぜずに別にしておいてください。
油脂は後塩法に関係なく別にしておきます。
※高加水のパンの場合、初めから全量水を入れると生地が非常にベタベタしてしまいます。この場合、水はベーカーズパーセントで2%ほど、混ぜずに取り分けておきましょう。
STEP2 ミキシング
塩、油脂以外の材料を入れてミキシングします。
生地が繋がってきたら塩を入れ、さらにミキシングします。
材料の水を取り分けている場合は、塩を入れたタイミングで一緒に入れましょう。
1~2分ミキシングをしたら、最後に油脂を入れてさらにミキシングし、グルテンの膜が破れないようになったらミキシングの完了です。
ミキシングは生地の様子を見ながら進めますが、塩を最初から入れる方法と比べ、最終的に時間を3割ほど短縮できます。
ミキシング後は、いつもの方法で進めていきましょう。
後塩法のメリット
後塩法には、次のようなメリットがあります。
作業時間の短縮
後塩法の目的の項目でも説明したように、後塩法を用いることでミキシングの時間を短縮することができます。
ミキシングにかかる時間を短縮することで、パン作り全体の作業時間の短縮に繋がります。
成形がしやすい
塩には生地の引き締め効果があります。
後塩法では最初の段階では塩を入れていないため、生地は緩み柔らかい状態となります。
後から塩を加えてやや引き締まっても、十分に伸展性のある成形しやすい生地となるのです。
膨らみを抑えることができる
後から塩を入れることで、生地に勢いが出ずパンのボリュームが抑えられます。
一般的にはパンは窯伸びしてボリュームのあるものが良いと考えられがちですが、フランスパンなどのリーンなパンにおいては、その限りではありません。
窯伸びしてボリュームが出るほど、パンは空気をふんだんに含み、味が薄くなってしまうためです。
リーンなパンはシンプルな材料ゆえに、小麦の風味を感じることが大切。
生地の味が薄くなってしまうことは避けたいのです。
後塩法のデメリット
後塩法のデメリットについて紹介します。
大きな効果が得られにくい
後塩法があまり普及していない理由の一つともなっているのが、大きな効果が得られにくいことです。
後塩法で作ったパンは、風味が飛びにくく機械耐性に優れていると言われていますが、その違いは分かる人には分かるという程度。
ほかにもさまざまな製法があるなかで、それほど重要視されている製法とは言えないのが現状です。
そのため、ほかの製法と合わせて利用されることが多いでしょう。
後塩法に向いているパン
後塩法に向いているパンについて紹介しましょう。
リーンなパン
後塩法には、フランスパンのようなリーンなパンがおすすめ。
ミキシングの時間が長くなると、空気に触れる時間が長くなり小麦の風味が飛んで味がうすくなってしまいます。
その点、ミキシングの短縮ができる後塩法なら、小麦の風味が飛ぶことなく、さらに水和によって旨味も増すため、パン生地そのものを楽しむリーンなパンに向いています。
後塩法はパン屋で使われている?
後塩法によるパンの品質の違いは、実はほんの僅かなものと言われています。
味をとても敏感に感じ取れる人でないとわからないかもしれません。
それゆえに、具材がたくさん乗ったような菓子パンや調理パンには不向きと言えます。
そのため、大手製パン会社などではあまり使われておらず、個人店でも現代においてあまりメジャーな製法とは言えないのです。
しかし、イースト発酵食品の冷凍生地の製造法として、冷凍耐性を上げる方法にジアセチル酒石酸モノグリセライドとL-アスコルビン酸の併用に加え、後塩法の適用が特に良い結果を出すという発明も出ています。
後塩法とオートリーズの違い
最初から塩を入れないという点で、後塩法と似た製法として比較されるのがオートリーズ。
パン屋さんでも使われることの多い製法です。
後塩法とオートリーズの違いについて見ていきましょう。
オートリーズとは
グルテンは生地を捏ねるだけでなく、粉が水を吸った状態でも形成されます。
この性質を利用したのがオートリーズです。
ミキシング前に材料をざっと混ぜただけの状態で30分水和させることで、酵素が活性化され伸展性が高い生地となります。
生地の伸展性の高さにおいては、後塩法とオートリーズの性質は似ており、二つの製法を組み合わせて使われることもあります。
塩を入れないのはミキシング前だけ
オートリーズでは、最初に粉と水のみを軽く混ぜ、30分間水和させます。
水和をおこなった後は、塩を含めた残りの材料を加え本格的にミキシングを開始するのです。
途中までミキシングをおこなってから塩を加える後塩法とは、塩を入れるタイミングが違います。
塩のほかにイーストも入れない
オートリーズは、最初に粉と水のみを混ぜて30分水和させる方法です。
そのため塩を入れない場面では、塩だけでなくイーストも入れません。
オートリーズでは水和のために30分と長い時間放置しますが、ミキシング前に生地が発酵するのを防ぐため、この段階ではイーストも入れないのです。
後塩法と中種法の違い
次に、後塩法と中種法の違いについて見ていきましょう。
中種法とは
中種法は粉や水、酵母などの材料の一部を先に混ぜて発酵させ、その後残りの材料を全て加えてもう一度ミキシングをおこなう製法のことです。
機械耐性が高くなるため、機械での生産となる大手製パン会社などでよく取り入れられている製法です。
同じく機械耐性が高くなる後塩法は、品質としては中種法で作った生地に似た仕上がりとなります。
ミキシングを2回おこなう
中種法では2回に分けてミキシングをおこなうため、ミキシングの工程に時間がかかります。
ミキシングの短縮を目的とした後塩法とは、ミキシングの時間が大きく違います。
ボリュームのあるパンに仕上がる
また、中種法の生地は熟成した味わいにはなるものの、小麦本来の風味は感じにくくなるのが特徴。
伸びが良く柔らかい生地で、グルテンがしっかり形成されるため、ふっくらとしたボリュームのあるパンに仕上がります。
ボリュームを抑えたいパンに向いている後塩法とは、反対の目的で使うのが中種法です。
日本ではこのようにふっくらとボリュームのあるパンが好まれる傾向にあるため、リッチなパンや食パンを多く作る大手製パン会社などでメジャーとなっている製法です。
まとめ
なかなか馴染みのない後塩法ですが、いつもより塩を入れるタイミングを遅くするだけと、その手順は単純なものです。
パンの風味をより引き立てたいという方は、家庭でも簡単に取り入れることができる製法なのでぜひ試してみてはいかがでしょうか?