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低温長時間発酵法とは?メリット・デメリットやオーバーナイト法との違いを解説!

ストレート法よりも低温で、長い時間発酵させる製法の低温長時間発酵法。

時間がかかる分、手間がかかるイメージの方も多いのでは?

実はこの低温長時間発酵法、老化を防いでパンの美味しさを長持ちさせてくれるだけでなく、作業性が良くなって時間の調整もしやすい優れもの。忙しい方にこそおすすめの製法なんですよ。

ここでは、低温長時間発酵法のメリットやデメリットを詳しく紹介していきたいと思います。

さらに、低温長時間発酵法の代名詞として挙げられるオーバーナイト法についても、低温長時間発酵法との違いについて解説していきます。

目次

低温長時間発酵法とは

低温長時間発酵法とは、その名の通り“低温”で“長時間”発酵させる製法のこと。

ストレート法よりも低い温度で、長い時間をかけて発酵させパン作りをおこなう方法です。

しかし、低温長時間発酵法の定義は曖昧ではっきりとしたものはありません。

発酵時間は一般的に1~24時間と幅広く、発酵温度も5℃前後の冷蔵庫でおこなうものから、17℃程度と室温よりやや低めの温度で発酵させる方法まであります。

低温長時間発酵法のメリット

時間をかけてじっくりパン作りをおこなう低温長時間発酵法。

時間と手間がかかるイメージですが、次のようなメリットがあります。

老化しにくい

ストレート法よりも時間をかけて発酵させる低温長時間発酵法では、粉がしっかり水和し、焼成後も水分が蒸発しにくくなります。

水分が蒸発しにくいパンは老化しにくく、しっとりとした状態が続きます。

作業スケジュールが調整できる

発酵に時間がかかる分、その間にほかの作業をおこなうことが可能です。

このような“放置時間”を利用することで、より多くのパンを作ることができます。

また、低温であればあるほど発酵時間も長くなるため、前日の夜に生地を仕込み、当日は日中でも途中からパン作りを進めることができるなど、作業スケジュールの調整も可能です。

酵母の量を減らすことができる

酵母は多く入れるほど発酵力が増しますが、その分イースト臭が強くなります。

特にインスタントドライイーストにおいては、特有の臭いが気になるという方も少なくないでしょう。

低温長時間発酵法では、少ない酵母でも時間をかけて発酵させることで、しっかりグルテンを形成し膨らむことができます。

そのため、使用するイーストの量を最大1/3まで減らすことができます。

ミキシングの時間を短縮することができる

ゆっくり時間をかけて発酵している間に、グルテンは捏ねなくても少しずつ繋がっていきます。

そのため、ミキシングの時間を短縮することができるのです。

小麦の風味を感じることができる

ミキシングの時間を短くすることで小麦粉が空気にさらされるのを防ぎ、小麦の風味が飛びにくくなります。

さらに、長時間の発酵により小麦そのものの風味に加え、熟成した旨味もプラスされます。

低温長時間発酵法のデメリット

老化を防いでパンの風味が良くなり、作業時間の調整がしやすい低温長時間発酵法ですが、次のようなデメリットがあります。

発酵スペースの確保が必要

低温長時間発酵法は、一般的に冷蔵庫などの低温で温度が一定の場所でおこないます。

冷蔵庫で発酵させる場合は、長い時間スペースを占領することになるため、あらかじめ発酵スペースの確保が必要です。

発酵の見極めが必要

低温でゆっくり発酵が進むため、発酵終了のタイミングがややわかりにくい傾向にあります。

低温だから長時間発酵させても大丈夫と、あまりにも放置してしまい発酵が進みすぎると、カビや腐敗の原因になってしまうのです。

低温長時間発酵法の生地

低温長時間発酵法の生地というのに特に決まりはなく、基本的にはどのような生地でも低温長時間発酵をすることができます。

普段使っているストレート法の生地でも、発酵温度や発酵時間を変えて低温長時間発酵法の生地として使用することが可能です。

その場合、イーストを普段使う量の1/2~1/3に減らし、発酵しすぎにならないよう工夫が必要です。

低温長時間発酵法の温度

低温長時間発酵法の温度は、ストレート法よりも低い5~17℃でおこないます。

発酵温度は5~17℃程度

低温長時間発酵法の温度は、5℃から室温よりもやや低い17℃程度と、幅広いのが特徴です。

そのなかでも、5~10℃でおこなうレシピが多いため、冷蔵庫で発酵させるのが一般的です。

5℃以下では酵母は活動を休止してしまうので、低温と言っても5℃以下にはしないように気を付けましょう。

10℃を超えると段々酵母の働きが活発になるため、その分発酵時間を短くして調整します。

酵母による発酵温度の違い

天然酵母には乳酸菌や酢酸菌なども含まれますが、直接発酵に関わる菌はインスタントドライイーストであっても天然酵母であっても、同じ種類の酵母菌です。

そのため、インスタントドライイーストや天然酵母など、酵母の種類による発酵温度の違いはさほどないと考えて良いでしょう。

インスタントドライイーストでも天然酵母でも、発酵は5~17℃の範囲でおこないます。

家庭で低温長時間発酵法をおこなう場合

家庭で低温長時間発酵法をおこなう場合、もっとも適した場所は冷蔵庫です。

この場合、冷蔵庫のなかでも温度が3~7℃と比較的高めの野菜室がおすすめです。

冷蔵室は2~5℃と、低温長時間発酵させるには温度が低く酵母の働きが休止してしまうため、あまり適した場所とは言えません。

また、低温長時間発酵法は5~17℃程度と比較的発酵温度に幅があるので、秋から冬の季節であれば暖房のついていない室温などでも可能です。

温度変化に注意しながら発酵をおこないましょう。

低温長時間発酵法の時間

低温長時間発酵法の発酵時間は、その名の通りストレート法と比べて長時間になります。

しかし、その時間は幅広いため、作るパンの種類や作業環境に合わせて変えると良いでしょう。

発酵時間は1~24時間

低温長時間発酵法の発酵時間は、1~24時間が一般的です。

発酵時間が幅広いのですが、これは発酵温度によって変わります。

温度が高くなるほど発酵は進み、温度が低いほど発酵が抑制されるためです。

発酵時間が長くなるほど、旨味や甘みを引き出しやすくなり、伸展性が高くなります。

パン屋では基本的に冷蔵庫で一晩発酵させることが多いため、発酵時間は12~24時間程度となることが多いでしょう。

ただし、24時間を超えると酵母の働きは弱くなり、カビも生えやすくなるので注意が必要です。

酵母による発酵時間の違い

インスタントドライイーストと比べて、天然酵母はやや発酵力が劣ります。

冷蔵庫などでじっくり時間をかけて発酵をおこなう場合は、どちらも大きな差はなくしっかり発酵しますが、短時間で発酵させたい場合は天然酵母だと低温で十分な発酵を得るのはやや難しくなります。

温度が高くなるほど発酵時間は短くなると説明しましたが、天然酵母の場合はインスタントドライイーストと比べて発酵力が弱いため、やや時間がかかってしまうのです。

低温長時間発酵法の手順

ここからは、低温長時間発酵法の手順について見ていきたいと思います。

STEP1 生地を捏ねる

材料を計量したら混ぜ合わせ、ミキシングをします。

リーンなパンなど、気泡を潰したくないパンの場合は、ミキシングの時間を短縮することも可能です。

STEP2 一次発酵

一次発酵は、一般的には28~30℃で40分おこないます。

しかし、生地の種類によって発酵時間が異なるため、生地が1.5~2倍に膨らむ頃を発酵終了の目安としましょう。

STEP 3 分割

作るパンに合わせて生地を分割します。分割したら、乾燥しないように密閉容器に入れてください。

STEP4 低温長時間発酵

低温長時間発酵は5~17℃程度、1~24時間と幅があります。

作業スケジュールや作るパンに合わせて発酵温度と時間を決めましょう。

STEP5 生地の温度を戻す

冷蔵庫で発酵させた場合は一時間ほど室温に置き、生地の温度が15℃程度になるまで待ちます。

夏以外の季節は生地の温度が上がりにくいため、発酵器などを利用して30℃で一時間放置すると良いでしょう。

STEP6 ベンチタイム

生地はガス抜きして丸め、15~20分ベンチタイムをとります。

水分量の多い生地は、大変柔らかくべたつきやすいので、手粉を多く使って取りだすと良いでしょう。

STEP7 成形

目的のパンに合わせて成形します。

STEP8 最終発酵

最終発酵の方法は、ストレート法などの他の製法と同じようにおこないます。

発酵時間は作るパンによって変わるので、小型のパンであればひと回り大きくなる程度、食パンなど型に入ったパンであれば、容器の8分目になるまで発酵させましょう。

STEP9 焼成

最終発酵を終えた生地を焼成したら完成です。

低温長時間発酵法とオーバーナイト法の違い

低温長時間発酵法として挙げられることの多いオーバーナイト法。

これまで紹介してきた内容は、そんなオーバーナイト法と重複する部分が多いと感じた方もいるのではないでしょうか?

実際、低温長時間発酵とオーバーナイト法は何が違うのでしょうか?

発酵時間の違い

低温長時間発酵法は発酵時間に幅があり、1時間と比較的短い場合も含まれるため、その日のうちに発酵から焼成まで完了することがあります。

一方で、オーバーナイト法は、「夜通し」の意味の通り、捏ね上げた生地を冷蔵庫で一晩発酵させ焼き上げる製法です。

低温長時間発酵法と大きく違うのは、必ず次の日に焼き上げているということです。

発酵温度の違い

発酵時間と同様、低温長時間発酵法は発酵温度も幅広いのが特徴です。

一方、一晩かけて発酵させ次の日に焼き上げるオーバーナイト法は、冷蔵庫で発酵させるのが基本です。

低温長時間発酵法に向いているパン

低温長時間発酵法はさまざまなパンに向いている製法です。

特にパン屋では、リーンなパンや折り込み生地のパンでよく使われています。

リーンなパン

リーンなパンとは、副材料がほとんど入らないシンプルなパンのこと。

おもにフランスパンなどがこれにあたります。

リーンなパンは、酵母の餌となる砂糖が少ないため、ゆっくり時間をかけて発酵させる低温長時間発酵法が向いています。

また、長時間の発酵によって生地の熟成した旨味も得やすくなったり、グルテンがある程度自然に形成されるのです。

その分、ミキシングの時間を短縮することができ、小麦の風味が飛びにくく、気泡を潰さず大きなまま残すことができます。

時間をかけてたくさん吸水することができるため、高加水パンを作る場合にも非常に向いている製法です。

リッチなパン

リーンなパンにおすすめの製法として挙げられる低温長時間発酵法ですが、副材料がたくさん入ったリッチなパンにもおすすめです。

卵や油脂、砂糖などの副材料が多く入ったリッチなパンは、生地がべたつきやすい傾向にあり、温度が高くなるほど油脂の影響で柔らかくなります。

低い温度で発酵させることで生地の温度が下がり、適度に締まって扱いやすくなるのです。

折り込み生地のパン

低温長時間発酵法は、クロワッサンやデニッシュに使われる折り込み生地のパンにもぜひおすすめしたい製法です。

折り込み生地は、生地の間にバターを挟んで何層にも折り込んでいくため、生地とバターの硬さを同じにしておくのがコツ。

低温で発酵させることでバターが溶けにくく扱いやすい生地となります。

特に冷蔵庫で発酵させるのが良いでしょう。

低温長時間発酵法に不向きなパン

低温長時間発酵法は、しっとりとした仕上がりになるだけでなく、時間に余裕ができてとても便利な製法ですが、向いていないパンもあります。

ライ麦パン

残念ながら、低温長時間発酵法にはライ麦パンはあまり向いていません。

ライ麦パンの生地に多く含まれる乳酸菌や酢酸菌が、長時間の発酵によって増殖し、酸味が強すぎるパンになってしまうためです。

どうしてもライ麦パンを低温長時間発酵法で作りたい場合は、低温長時間発酵法のなかでもできるだけ高めの温度で発酵時間を短めに設定するか、ライ麦の配合を20%以下に抑えて作るのがおすすめです。

まとめ

低温長時間発酵法は、老化しにくく小麦の風味を感じやすくなるなど、パンの品質の向上に一役買っています。

また、時間の調整ができるため、パン作りに何時間も付きっきりになる必要がなく、忙しい方にこそおすすめの方法なのです。

オーバーナイト法とも非常によく似ていますが、オーバーナイト法は低温長時間発酵の一種という認識でいると良いでしょう。

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この記事を書いた人

医療技術系短大卒業後、バイオ系研究室テクニシャンなどを経て、現在はフリーランスのライターとして活動中です。
製パンスクールのプロコースを卒業した経歴を活かし、実践に役立つ製パン知識を、よりわかりやすく科学的にお伝えします。
食育アドバイザー、幼児食インストラクター資格保持。

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