パンチをする意味とは?パン生地の発酵にどんな効果がある?理由と目的を解説!
パン作りをしていると、パンチという工程がしばしばでてきます。
初めてパンチをおこなったときは、せっかく発酵して膨らんだ生地を潰すという行為に、驚きと同時に抵抗を感じたという人も多いかと思います。
しかし、パンチは作るパンによってはとても大切な工程です。
パンチをする場合とパンチをしない場合では、パンの仕上がりに大きな違いがでてくるのです。
とはいえ、パンチは必要な場合もあれば、必要ない場合もあります。
これにはどういった違いがあるのでしょうか?
ここでは、パンチをする意味と、なぜパンチしないパンがあるのかについて解説していきたいと思います。
パン作りにおけるパンチとは
パンチとは、生地の発酵中に発生した炭酸ガスを、途中で抜く作業のことです。
手のひら全体を使って生地を押さえたり、折りたたんだりしてガスを抜きます。
パンチという名前は、発酵力が強い酵母の生産がまだ普及していなかった時代に、手をグーにしてパンチするように叩き、生地に刺激を与えていたことからその名がつきました。
パン用酵母の研究により、発酵力の強い酵母が普及するようになってやり方が変わってからも、名前だけはそのまま残ったのです。
しかし、パンチは必ず必要な工程ではなく、作るパンによってパンチが必要なものとそうでないものとがあります。
パンチをしない製法は「ノーパンチ」とも呼ばれています。
なぜパンチするのか
パンチにはいくつかの目的があります。
それでは、何のためにパンチをするのか解説していきたいと思います。
大きな気泡を潰して細かい気泡にし、きめ細かい焼き上がりにする
発酵した生地は酵母のアルコール発酵によって炭酸ガスが発生し、大きな気泡がたくさんできています。
このままの状態では、熱による膨張で生地が膨らみすぎ、焼成時に破けてしまうことがあります。
パンチをすることで大きな気泡が分散され細かい気泡になり、細かい気泡は生地全体にまんべんなく行き渡ります。
細かい気泡が生地全体に行き渡ることで、きめ細かい焼き上がりとなります。
グルテンの抗張力を強化し、生地がより膨らむ
発酵し生地が膨らむと、形成されたグルテン膜は引き伸ばされます。
するとグルテンの網目構造は緩み、生地の弾力もなくなってしまいます。
しかし、パンチをすることで生地に適度な刺激が伝わり、グルテンの抗張力が強化され、網目構造はより密な状態へとなります。
網目構造が密であると、発生した炭酸ガスをしっかり包み、より膨らみやすくなるのです。
新たな空気(酸素)を取り込むことでイーストの発酵が強まり、パンがより膨らむ
生地は、酵母のアルコール発酵で生成されたアルコールが充満した状態です。
その状態ではイーストの活性が低下してしまいます。
アルコールを適度に抜き、新しい空気を取り入れることでイーストの活性はスムーズになります。
結果、さらに発酵が進みパンが膨らみやすくなるのです。
生地内の温度を均一にする
発酵段階のパン生地は、中央と端の部分では温度が同じではありません。
そのため、発酵もムラができてしまいます。
パンチをし、生地を折りたたむことで、生地内の温度を均一にすることができます。
パンチの手順
それでは、パンチの手順について説明していきたいと思います。
生地はとても繊細であるため、グルテンの強化や全体を均一にするためであるといっても、力任せにおこなうと生地を傷め、かえってそのあとの工程に支障をきたしかねません。
正しいやり方でおこなっていきましょう。
容器から取り出す
まず、発酵途中の生地を容器から取りだします。
取りだすタイミングは、作るパンの種類によって若干の違いがあります。
たとえば、フランスパンやバゲットなどのあまり捏ねない生地では、発酵の早い段階で容器から取りだします。
フランスパンやバゲットなどに使われる小麦粉は、強力粉よりもグルテンの含有量が少ない準強力粉を使うことが多く、発酵がある程度進んだ状態でパンチをおこなうと生地を傷めてしまうためです。
一方、ミキシングをしっかりおこないグルテンの形成が強い生地は、発酵が進んだ状態でパンチをおこなっても問題ありません。
通常は発酵時間の2/3くらいで取りだします。
取りだした生地は、表面が下になるように台に置きます。
パンチのさいに、折りたたんだ生地のなかに粉が入り込むのを最小限にするため、手粉は少量にとどめます。
押し広げるようにしガス抜きする
中央から外側に向かって軽く叩きながら押し広げるようにし、ガス抜きをします。
決して強く押しつぶさず、拍手するくらいの強さで叩くように押しましょう。
3つ折りにする
奥と手前から折って、3つ折りになるようにしていきます。
まず、奥から生地の1/3を手前に向かって折ります。
次に手前の残りの生地を折り、中心で重なるようにしましょう。
容器に合わせてさらに3つ折りにする
生地を90度回転させます。
容器に合わせた大きさになるように、さらに3つ折りにします。
この場合は、最初に手前から1/3 の生地を中心に向かって折り、そのまま転がすようにして残りの部分を折りたたんでも良いでしょう。
容器に戻して発酵させる
重ね目を下にした状態で容器に戻し、さらに発酵を続けます。
そのあとは通常の工程に戻ります。
パンチでは捏ねてはいけない
パンチをおこなうさいは、生地を捏ねてはいけません。
せっかくできたグルテンの組織が、生地を捏ねることで壊れてしまうためです。
グルテンの組織が壊れてしまうと、ガスの保持ができずにうまく膨らまなくなったり、目の詰まった硬いパンになってしまったりします。
決して捏ねたりはせず、軽くたたくように押すことが重要です。
パンチを強くしすぎたら?
とはいえ、慣れないうちはパンチの力加減がわからないこともあります。
もちろんパンチでは捏ねてはいけませんので、捏ねてグルテンが壊れてしまった生地は、パンとして仕上げるのは困難です。
しかし、少しパンチを強くしすぎたと感じる程度であれば、パンチのあとの発酵を少し長めにとり、成形のときに生地を緩めに成形するとよいでしょう。
パンチを強くしすぎた生地は、グルテンの形成が強くなりすぎています。
発酵を長めにとることで、発酵が通常よりも進みグルテンの一部が切れ、強くなりすぎたグルテンの形成が緩みます。
さらに生地を緩めに成形することで、生地へのダメージを最小限にすることができるのです。
パンチするパンとパンチしないパンの違いとは
それでは、パンチするパンとパンチしないパン、どのような違いで使い分けるのかを見ていきましょう。
パンの種類による使い分け
もっとも一般的な使い分けは、パンの種類によって使い分ける方法です。
これはおもに材料による違いで、パンチするパンとパンチしないパンを区別しています。
パンチするパン
パンチするパンとして一般的なのは、リーンなパンです。
リーンなパンのリーン(Lean)とは、「簡素な」という意味を表しています。
リーンなパンは油分の少ないことが特徴で、基本的に小麦粉、水、イースト、塩などのシンプルな材料で作ることが多いです。
リーンなパンは油脂や砂糖が少なく膨らみにくいため、パンチをおこない発酵を手助けする必要があります。
リーンなパンとして代表的なものには、フランスパンやバゲット、山型食パンなどがあります。
ノーパンチのパン
ノーパンチのパンとして一般的なのは、リッチなパンです。
リッチなパンのリッチ(Rich)とは、「豊かな」、「濃厚な」という意味を表しています。
つまり、卵や牛乳、砂糖やバターなどの副材料を多く使ったパンのことです。
油脂や卵が入ったリッチなパンは、膨らみやすいためパンチをせずに作ることができます。
リッチなパンで代表的なものには、菓子パンやクロワッサンなどがあります。
発酵時間の長さによる使い分け
製パンの基本的な製法は、ストレート法という方法です。
ストレート法は、全ての材料を一度に入れて捏ねる作業時間の短い製法ですが、発酵時間は40~90分と、作るパンによって倍以上も差があります。
この発酵時間の違いによっても、パンチするのかパンチしないのかを使い分ける必要があります。
パンチするパン
発酵時間の長いパンでは、基本的にパンチをおこないます。
発酵時間が長くなると、そのぶん生地にアルコールが充満している状態が長く続きます。
新しい空気を取り入れるために、発酵に一時間以上かかる場合は、パンチをおこなった方が良いでしょう。
ノーパンチのパン
一時間以内の発酵時間で作るパンは、イーストも多く使われており、発酵力が十分あるためパンチをする必要はありません。
目指すパンの仕上がりによる使い分け
パンチするかしないかは、基本的にはリーンなパンとリッチなパンによる使い分けや、発酵時間の長さによる使い分けがほとんどです。
しかし、それ以外にも目指すパンの仕上がりによって、パンチをするかしないかを使い分けることもあります。
パンチするパン
粉の風味を出したいときや、リッチなパンでもボリュームを出したいときには、パンチをおこなうことがあります。
また、バターが多く膨らみにくい場合などにも、パンチをおこなうと膨らみやすくなります。
ノーパンチのパン
本来パンチをすることの多い食パンでも、焼成後のクラムの引きを重視したい場合にはパンチをおこないません。
また、レーズンやナッツなどの配合が多いなど、中に入れるフィリングの重量が重いときにも、パンチはおこないません。
まとめ
今回はパンチをする意味について解説しました。
パンチするパンとパンチしないパンでは、仕上がりに大きく違いがあります。
パンチをするパンなのか、パンチをしないパンなのかという常識だけにとらわれず、どのようなパンに仕上げたいのかによっても、パンチの有無を決めることもあります。
同じ材料のパンでも、工程の一つ一つが仕上がりに少しずつ違いがでます。
パンチ一つとってもその差は顕著で、パンの仕上がりは職人の裁量にかかるともいえるでしょう。