モラセスシロップとは?黒糖やモルトシロップとの違いは?代用は可能?
パンのクラストに焼き色や艶を出したり、クラムを茶色く色づけするために使われるモラセスシロップ。
主にベーグルのケトリングの工程や、黒糖パンの色づけに使われています。
また、イギリスではジンジャーブレッドやクッキーの色付けに使うなど、伝統的なパンやお菓子にも使われてきました。
このように古くから使われてきたモラセスシロップは、黒糖やモルトシロップなどの他の糖類と比べても、パンに色がつきやすく、コクや旨味が強いのが特徴です。
今回は、モラセスシロップを使う理由や、黒糖やモルトシロップとの違いについて詳しく解説していきたいと思います。
モラセスシロップとは?
モラセスシロップは、サトウキビやテンサイから砂糖(ショ糖)を精製するときに出る副産物です。
純度の高い砂糖を精製する過程で出る不純物であることから、廃糖蜜とも呼ばれています。
しかし、廃糖蜜という名前はあまり印象が良くないため、日本では「モラセス」または、単に「糖蜜」と呼ぶのが主流です。
モラセス(molasses)というのは英語で、ラテン語のmellaceusが語源となっており、モラセスは「蜂蜜のような」という意味があります。
砂糖と比べたモラセスシロップの利点
砂糖を精製したあとの残りかすとも言えるモラセスシロップですが、砂糖と比べてモラセスシロップには利点も多くあります。
ここではモラセスシロップの利点について説明したいと思います。
栄養価が高い
精製された純度の高い砂糖と比べて、モラセスシロップは不純物が多く、独特のクセや風味があります。
しかし、このなかにはさまざまな栄養素が含まれているのです。
モラセスシロップはショ糖35%、転化糖を20%ほど含み、ミネラルが10%ほど含まれています。
精製された砂糖はほとんどがショ糖であるため、モラセスシロップは砂糖と比べるとミネラルやビタミンが豊富。
鉄分なども豊富なので、特に女性に嬉しい栄養価の高い食品です。
・モラセスシロップはミネラル、ビタミン、鉄分が豊富
旨味がある
また、この不純物には苦みや渋みなども多く含まれています。
そのままでは食べにくいのですが、苦みや渋みのなかに旨味があるのが特徴です。
・モラセスシロップは苦味、渋み、旨味がある
製パンにおけるモラセスシロップの役割
モラセルシロップには、砂糖とは違う特徴がありますが、製パンにおいても砂糖とは違った役割があります。
次は、モラセスシロップの役割について紹介したいと思います。
モラセスシロップが焼き色や艶を与える
モラセスシロップは、クラストに焼き色や艶を与えます。
もちろん砂糖でも同じような効果はありますが、モラセスシロップの方がより高い効果を期待できます。
少し詳しく説明しましょう。
モラセスシロップは、焼き色や艶出しの目的としてケトリングという作業でよく使われています。
ケトリングとは、成形したパン生地を焼成前に茹でる工程のことです。
このとき使うお湯のなかにモラセスシロップを入れておくと、生地の表面に糖がコーティングされ、焼成時に濃い茶色の焼き色と艶が出ます。
パンの焼き色は、アミノ酸と炭水化物分子の反応によって淡い褐色になるメイラード反応や、糖が165℃以上の加熱で濃い茶褐色になる、カラメル化によるものです。
ケトリングをおこなうときにお湯のなかに糖類を入れておくと、焼成時にカラメル化がおこり、とてもきれいな焼き色がつきやすくなるのです。
ケトリングはモラセスシロップ以外の糖類でも代用することは可能です。
しかし、果糖の割合の多いモラセスシロップは、砂糖よりもカラメル反応が起こりやすく、より焼き色がつきやすいのです。
・モラセスシロップは砂糖よりも焼き色がつきやすい
モラセスシロップが茶色く色のついたパンに仕上がる
モラセスシロップはサトウキビから砂糖を精製したあと、残りの糖分を遠心分離して作ったものです。
遠心分離する作業は何段階にもおよび、モラセスシロップは不純物が濃縮され、非常に濃い茶色をしています。
これをパン生地に混ぜて作ると、しっかりと色のついた茶色のパンにすることができます。
・モラセスシロップはクラムを茶色にする
モラセスシロップには独特の風味や旨味がある
不純物が多いことで、独特の風味や旨味、苦みがあります。
パン生地の材料として使うととてもコクのある、味のあるパンに仕上がるのです。
酵母も1種類の菌で作られたドライイーストより、数種類の菌を集めた天然酵母の方が雑味があり、より旨味やコクが出ます。
複数の不純物が濃縮されたモラセスシロップは、ほぼショ糖のみからなる砂糖と比べて、同じように複雑な風味や旨味があると言えるでしょう。
・モラセスシロップは砂糖よりも風味や旨味がある
黒糖とモラセスシロップの違い
モラセスシロップに似ている糖類として、黒糖やモルトシロップがあげられます。
それぞれモラセスシロップとどのような違いがあるのか見ていきたいと思います。
まずは黒糖とモラセスシロップの違いから説明していきましょう。
黒糖とモラセスシロップの製法の違い
黒糖は、サトウキビを搾り、そのまま煮詰めて作ったものです。
精製されていないため、黒糖も豊富な鉄分とミネラルを含んでいます。
黒糖とモラセスシロップの製法の違いとしては、黒糖はサトウキビをそのまま煮詰めたもの、モラセスシロップはサトウキビから純度の高い砂糖を除き濃縮したもの、ということになります。
よって、モラセスシロップの方が黒糖と比べショ糖の割合が少なく、そのぶん、その他の成分であるミネラルなどが濃縮され、割合としては高くなります。
黒糖よりも、モラセスシロップはさらに栄養価が高いのがわかりますね。
・黒糖はサトウキビをそのまま煮詰めて作る
・モラセスシロップはサトウキビから砂糖を精製した時にできる
黒糖とモラセスシロップの見た目の違い
黒糖はサトウキビを煮詰めたあと、鉄板に流して冷やし固めるため、固形か顆粒状になっています。
その色が黒っぽい色をしているため、黒糖と名付けられたとされていますが、モラセスシロップは黒糖よりもさらに黒いのが特徴です。
また、モラセスシロップは黒糖とは違い、固形ではなく粘性の高い蜂蜜のような形状をしています。
・モラセスシロップは粘性
・黒糖は固形か顆粒状
黒糖とモラセスシロップの製パンにおける仕上がりの違い
黒糖は風味もよく、砂糖と比べて旨味もあります。
パンの材料として使うことで、風味や旨味だけでなくクラムを茶色に色づけることもできます。
しかし、モラセスシロップと比べると、その効果もやや薄い傾向にあります。
モラセスシロップは、サトウキビを搾りそのまま煮詰めて作ったものである黒糖と比べて、不純物の割合がより多いため、より濃い色をしています。
クラムの色づけ、風味や旨味においても、黒糖よりモラセスシロップの方が強く出るのが特徴です。
・モラセスシロップは黒糖よりもクラムに色がつく
・モラセスシロップは黒糖よりも風味と旨味が強い
モルトシロップとモラセスシロップの違い
モルトシロップはフランスパンなどの発酵を助けたり、機械耐性の向上、さらにクラストの色艶を良くする目的で使われています。
ときにモルトシロップは、モラセスシロップと同じような用途で使われることもあります。
それでは詳しく見ていきましょう。
モルトシロップとモラセスシロップの製法の違い
モルトシロップは、大麦を発芽させて粉砕したものに水を加え、麦芽糖を煮出した液体のことです。
一方モラセスシロップは、サトウキビから砂糖を精製したときに出る副産物を濃縮したものです。
モルトシロップとモラセスシロップは、原料から違うということになります。
・モルトシロップは大麦を煮る
・モラセスシロップはサトウキビから砂糖を精製する
モルトシロップとモラセスシロップの見た目の違い
モルトシロップもモラセスシロップも、見た目はよく似ています。
モルトシロップは、茶褐色で粘りがあるのが特徴です。
モラセスシロップも強い粘りがありますが、モルトシロップよりもさらに黒に近い濃い茶色をしています。
いずれにしても粘性が高いので、どちらも扱いづらいのが難点です。
・モルトシロップは茶褐色
・モラセスシロップは黒に近い濃い茶色
モルトシロップとモラセスシロップの製パンにおける仕上がりの違い
モルトシロップを使う主な目的は、イーストの栄養源、機械耐性の向上、フランスパンなどのリーンなパンに綺麗な色艶と焼き色をつけるためです。
ここでは、モルトシロップをパンの材料として使った場合と、ケトリングに使った場合について、それぞれモラセスシロップとの仕上がりの違いを説明したいと思います。
パン生地の材料に使った場合
まずはモルトシロップの役割について少し説明しておきたいと思います。
フランスパンは食事パンとして食べられていることから、材料に砂糖を使いません。
砂糖の入っていないパンは、小麦粉中に含まれるアミラーゼという酵素を利用して、同じく小麦粉中の損傷デンプンをブドウ糖とへと分解し、イーストの餌を作り出しています。
これは砂糖を使ったパンでもおこなわれることですが、砂糖がある場合は砂糖をイーストの餌として利用するため、発酵を十分におこなうことができるのです。
しかし砂糖の入っていないパンでは、発酵が不十分なため、砂糖の代わりにモルトシロップが使われています。
糖はイーストの栄養源として消費されますが、なかでも麦芽糖は最後に消費され残りやすい特性があります。
この残った麦芽糖が、焼成時にメイラード反応を起こしやすくするのです。
モルトシロップはこのように砂糖の入らないパンでもメイラード反応を起こし、クラストに焼き色と艶を出してくれますが、クラムに色はほとんどつきません。
モルトシロップを使う最大の効果は、フランスパンに麦芽のもつ香ばしい風味とクラストの焼き色と艶を与えることと言えるでしょう。
一方、モラセスシロップをパンの材料として使う場合、主にクラムに茶色の色をつけるために使われます。
色つけと同時にモラセスシロップ独特の風味とコクも出すことができます。
色づけ以外の効果としては、通常のパンに使う砂糖の役割と同じであるため、イーストの餌として発酵を十分におこない、保湿効果もあることからふわふわのパンに仕上がります。
・モルトシロップはクラストに焼き色と艶を与える
・モラセスシロップはクラムに茶色の色をつける
ケトリングに使った場合
艶出しの目的で言えば、モラセスシロップの代わりとしてモルトシロップが使われることもあります。
しかし、前述の「モラセスシロップが焼き色や艶を与える」の項でも説明したように、ショ糖よりも果糖の方がよりカラメル化が起こりやすく、しっかりとした色に焼き上がります。
麦芽糖であるモルトシロップは、2分子のブドウ糖からなるものです。
そのため、果糖を多く含むモラセスシロップを使う方が、より効果が高いことがわかります。
・モラセスシロップはモルトシロップよりも焼き色がつきやすい
モラセスシロップを使うパン
それでは、モラセスシロップを使う代表的なパンを紹介していきたいと思います。
ベーグル
モラセスシロップを使う代表的なパンと言えばベーグルです。
ベーグルの製法において、ケトリングは欠かせない工程です。
ケトリングのお湯のなかにモラセスシロップを入れることで、焼成後のベーグルにきれいな焼き色と色艶が生まれます。
モラセスシロップを入れる量は、2Lのお湯に対して、大さじ2杯が適量です。
ベーグルのケトリングに使用する糖は、モラセスシロップが手に入らなければ砂糖や蜂蜜、モルトシロップで代用することもできます。
しかし、前項でも説明したように果糖の割合の多いモラセスシロップは、よりカラメル化を起こしやすいのが特徴です。
ケトリングでは、やはりモラセスシロップを使うのがおすすめですよ。
・モラセスシロップは焼き色がつきやすいためケトリングでもおすすめ
黒糖パン
黒糖パンでは、ケトリングではなくパンの材料としてモラセスシロップを使います。
黒糖パンはその名のとおり黒糖だけで作る場合もありますが、黒糖だけで作ると、色がやや薄く、風味やコクが足りないのです。
黒糖では少し風味が物足りなく感じるものの、モラセスシロップを使うとグッと風味が増します。
モラセスシロップはとても粘性が高く混ざりにくいため、あらかじめ材料の牛乳または水とよく混ぜて使用します。
モラセスシロップは日本では飼料として使われることが多く、海外のようにクッキーや伝統的なパンなどに使っていた歴史もありません。
ベーグルや黒糖パン以外に使い道がなく、食品としてはあまり作られていないのです。
基本的には輸入品であるため手に入りにくく、扱いづらいことから、市販の黒糖パンには黒糖と色や風味を補うためのカラメル色素を使っている場合があります。
しかし、黒糖パンのもつ独特の風味とコクはモラセスシロップならでは。
スーパーなどにはなかなか売っていないため、家庭で使うには製菓材料店などで購入するといいでしょう。
・モラセスシロップは黒糖よりも風味が強い
・黒糖パンには黒糖よりもモラセスシロップが向いている
プンパニッケル
プンパニッケルは、ドイツ発祥の代表的なライ麦パンです。
ライ麦パンの一般的な製法としては、モラセスシロップは使いません。
しかし、北ドイツのナッツを多く使ったライ麦パンには、モラセスシロップが使われています。
北ドイツのライ麦パンの代表とも言えるプンパニッケルは、黒に近い濃い茶色をしていて、モラセスシロップでこの色を出しています。
プンパニッケルを作る場合も、目的は黒糖パンと同様、色づけと独特の風味やコクのためです。
プンパニッケルは北ドイツの伝統的なパンで、日本とは違いモラセスシロップも手に入りやすいです。
ヨーロッパでは古くからモラセスシロップとのかかわりがあり、薬としての位置づけで使われていました。
積極的に作られていたモラセスシロップは、次第にお菓子などにも使われるようになったのです。
そのため、基本的には他の糖で代用されることはありません。
粘性の高いモラセスシロップを使う場合は、あらかじめ水に溶かしておき、材料に混ぜて使われます。
・プンパニッケルは色付けと風味付けにモラセスシロップを使う
まとめ
今回はモラセスシロップについて紹介しました。
なかなか使い道が限られるものですが、ベーグルの焼き色や艶出し、黒糖パンのしっかりした茶色と風味を出すには欠かせないものです。
モラセスシロップを材料として加えるパンは、黒糖パンが代表的ですが、食パンやロールパンなどその形状に制限はありません。
なかなか使い道のない材料だからこそ、さまざまなパンにアレンジし、使いきりたいものですね。