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ベーグルはなぜ茹でる?ケトリングの理由とは?モラセスシロップの効果は?作り方のコツを紹介!

パン作りにおいて、他とは少し違った工程のあるパンがあります。

それが、ベーグルです。

ベーグルには、焼成前に「ケトリング」という茹でる工程があります。

ムチムチと引き締まった食べ応えのある生地で、クラストの艶とハリがベーグルには欠かせません。

この特徴あるパンを作るには、ケトリングをおこない、ベーグル生地の表面を糊化させる必要があるのです。

表面を糊化させることで、内部が膨らんでもこれ以上ベーグルそのものが膨らむことはなく、密度の濃いモチモチのパンに仕上がります。

さらに、焼成後はベーグルの表面に艶が出て、ハリのある仕上がりになります。

ベーグル作りの成功は、ケトリングにかかっているといっても過言ではありません。

今回はケトリングについて、詳しく解説していきたいと思います。

目次

焼成前に茹でる「ケトリング」とは

ケトリングとは、焼成前に生地を茹でる作業のことで、主にベーグルを作る工程の一つとして取り入れられています。

kettle(ケトル)は「やかん」や「湯沸かし」の意味なので、ケトリングもケトルと語源が同じであることがわかります。

ケトリングをすると生地に艶とハリが出て、モチモチなパンに仕上がるのが特徴です。

ケトリングの手順

それでは、ベーグル作りの工程として用いられる、ケトリングの手順についてみていきましょう。

大きめの鍋にお湯を沸かす

まず、大きめの鍋に水を入れ沸騰させます。

ベーグル生地を入れたときに、一気に温度が下がってしまうのを防ぐために、十分な量のお湯を用意することが重要です。

火を弱め85~95℃くらいの温度に調節してください。

温度計がない場合は、ブクブク沸騰しない程度、沸々と小さく気泡が出る程度が目安です。

成形したベーグル生地を茹でる

お湯にモラセスシロップを添加します。

2Lのお湯に対して大さじ2杯が目安です。

はちみつや砂糖などでも代用できますが、モラセスシロップが特におすすめです。

この理由については、後述の「モラセスシロップが焼き色と艶を出す」で説明することにしましょう。

成形したベーグル生地の表面を下にして入れ、30秒ほど茹でます。

さらに裏返し、30秒ほどたったら、穴あきのレードルなどを使い速やかに引き上げます。

乾いた布巾などに取りあげて、裏面の水気を切っておいてください。

ベーグル以外のケトリング

ケトリングはベーグル作りの工程として用いられることで知られていますが、実は他にもケトリングをおこなうパンがあります。

それが、タラッリとプレッツェルです。

タラッリ

タラッリは、デュラム小麦粉を配合して作るイタリアのパンで、見た目がベーグルにそっくり。

ケトリングもベーグルと同じようにおこないます。

プレッツェル

ケトリングという名前が使われているにもかかわらず、ベーグルやタラッリと工程に違いがあるのがプレッツェルです。

なんと苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を水に溶かしたものに、プレッツェル生地を浸けてから焼くことで、飴色の焼き色と香ばしい風味が楽しめます。

苛性ソーダは劇物ですが、焼成後はパンに残存しません。

劇物である苛性ソーダは、手に入れたり処理をするのが難しいため、重曹で茹でて代用されることもしばしばあります。

本来の苛性ソーダに浸けて行う方法では茹でませんが、これもケトリングと呼ばれているのです。

ケトリングのもつ意味からすると、なぜこの工程もケトリングと呼ばれるのかはわかりませんが、ベーグルとは少し違っているのが特徴です。

ケトリングの役割

それでは、ベーグルを作る工程でケトリングがどのような役割をするのかについて、解説していきたいと思います。

お湯の温度で生地が膨らむ

まず、パン生地は熱を加えることで一気に生地内のガスが膨張し、生地そのものが膨らみます。

このドウがオーブンに入れると、ドウ中のガスの熱膨張、溶存ガスの気化、水蒸気の発生などの諸要素によってドウ内部のガス圧がさらに高まり、はげしい膨張がおこる。

パンはどうしてふくれるか ―製パンの科学― p2

ドウとはパン生地のこと。

このように、オーブンで熱することで膨張するということが、茹でることでも同じように起こるのです。

ここであらかじめ茹でておくことで、焼成時にはほとんど窯伸びせず、これ以上大きく膨らむことはありません。

これは、次の項で説明する生地表面の糊化と合わせた効果により、他のパンのようにふわふわにはならず、モチモチとした食感が実現できます。

生地の表面を糊化させる

ケトリングをすることで、生地表面のデンプンが糊化(α化)します。

デンプンの糊化(α化)とは

糊化はデンプンと水が熱で反応して起こる現象です。

小麦粉中の生デンプンは、β(ベータ)デンプンと呼ばれるもので、この分子構造は規則性のある形を成しています。

しかし、生デンプンに水分を加えて加熱すると、分子は規則性を失い、隙間に水分が入り込みます。

水分を吸って膨張したデンプン粒は、その後崩壊して糊状になるのです。

これをデンプンの糊化といいます。

この時のデンプンはα(アルファ)デンプンといい、糊化のことをα化ともいいます。

デンプンの糊化は、お米を炊いたときにも同じ現象が起こるので、そちらを例にわかりやすく説明しましょう。

生のお米はβデンプンの状態で、これは小麦粉の生デンプンと同じです。

お米に水を加え炊飯すると、デンプン粒に水が入り込み、規則性のあった分子構造が崩壊し、デンプンはαデンプンとなります。これが糊化の状態です。

炊いたお米はもちもちとした弾力があり、粘度があるのが特徴です。

同じことがパン生地でも起こり、ベーグルではケトリングのお湯のなかで加熱することで、生地の表面が糊化するのです。

デンプンの糊化がベーグル生地に与える影響

デンプンの糊化は55℃から始まり、85℃で終了します。

ケトリングをおこなうと、生地の炭酸ガスが膨張してベーグル生地は膨らみます。

しかし、表面が糊化した生地をケトリング後すぐに焼成すると、糊化した部分の水分が蒸発し、デンプン粒が「固化」するのです。

糊化のピークは95℃なので、それ以上の温度で加熱すると、デンプン粒は粘度を失い固体の状態に変化します。

固体となってしまってはこれ以上膨らむことができず、生地はパンパンな状態になるのです。

結果、クラムはモチモチと引き締まった食感に、クラストはハリと艶のある状態に仕上がります。

生地の表面がしっかり水分を吸収する

ケトリングをおこなうと、生地の表面にしっかり水分が吸収されます。

吸収された水分は焼成のさいに一気に蒸発し、クラストに艶が出てパリッとした食感になります。

フランスパンなどでもスチームをあてて焼成することで、パリッとしたクラストに仕上げますが、ベーグルではケトリングの工程で水分を吸収し、焼成で同じような作用が得られています。

デンプンの糊化がケトリングの主な役割であるため、本来これは意図しておこなうものではありませんが、結果的においしいベーグルに仕上がる一つの要素となっているのです。

モラセスシロップが焼き色と艶を出す

さらにケトリングに使われるモラセルシロップが、ベーグルの香ばしい焼き色と艶を出すために、重要な役割を果たしています。

ケトリングには、通常モラセスシロップという糖蜜が使われます。

モラセスシロップとは、サトウキビやテンサイから砂糖を精製するときに出る副産物のことで、結晶化するショ糖を除いた後に残るシロップを、さらに濃縮して作っています。

このようなことから、廃糖蜜とも呼ばれているのです。

糖は165℃以上の熱で加熱すると、濃い褐色に変化するカラメル反応を起こします。

パンの焼き色で起こる褐変反応としてメイラード反応がありますが、メイラード反応はアミノ酸と炭水化物分子が反応し、淡い褐色に変わるものです。

それに対し、カラメル反応は糖のみ必要とし、加熱することで濃い褐色に変化します。

不純物の多いモラセスシロップは、ほぼショ糖である砂糖に比べて、果糖が占める割合が多くなるため、さらにカラメル化しやすいのが特徴です。

このように、モラセルシロップのカラメル化が、ベーグルにさらに濃い褐色と艶を与えてくれているのです。

モラセルシロップは独特の風味はありますが、甘さは少なく不純物が多いため、コクのある味わい深いパンに仕上がるのも特徴です。

お湯の温度が高いとどうなる?

ケトリングは温度管理が非常に重要で、お湯の温度が高すぎると、生地が十分に膨らまないまま一気に表面が糊化してしまいます。

焼成で窯伸びがしないので、ここである程度窯伸びの役割を果たしておく必要があるのです。

ここで膨らむことなく糊化してしまうと、中身が詰まった生地になってしまいます。

さらにパンパンにハリが出ることもないため、焼成後はシワのあるクラストになるでしょう。

デンプンの糊化は55℃から始まり、85℃で終了します。

お湯に入れる前の生地表面の温度は低いので、やや高い85~95℃に設定しておくと、表面温度はデンプンの糊化に最適な温度になります。

決してやってはいけないのが、ブクブク沸騰させること。

沸騰しているということは、100℃であるということですが、一気に糊化してしまい生地が膨らむ間もありません。

できるだけ95℃を超えないようにしておきましょう。

お湯の温度が低いとどうなる?

お湯の温度が低いと、今度は糊化が十分におこなわれません

さらに温度が低すぎるというのは、生地も十分に膨らまないのです。

膨らみの足りない生地は、ハリや艶のない仕上がりになります。

最低でも85℃になるようにしましょう。

長めに茹でるとどうなる?

ケトリングは生地の表面のみを糊化させることが目的なので、必要以上に茹でると内部まで糊化されてしまいます。

内部まで糊化された生地は、焼成後にクラストが厚くなってしまい、さらにシワになりやすくなります。

お湯から取りだす作業は慌ただしいですが、1分以上は茹でないように注意しましょう。

短めに茹でるとどうなる?

また、短めに茹でるのも、表面の糊化が目的の上では不十分です。

糊化が不十分だと艶のない仕上がりになります。

さらに焼成時に窯伸びしてしまい、モチモチとしたベーグルらしい食感が失われてしまうのです。

表面が十分糊化するように、30秒はしっかり茹でるようにしましょう。

ケトリング後に焼成まで時間が開くとどうなる?

ケトリング後は、素早く焼成に入る必要があります。

すぐに焼成せずそのまま置いていると、生地の熱が下がってしまい、生地がしぼんでしまうのです。

しぼんでしまうと、焼いたときにシワになる原因となってしまいます。

さらに、シワができるとハリがなく艶もなくなってしまいます。

作業をスムーズに進めるために、必ずオーブンの予熱が完了してからベーグルを茹でなければいけません

ベーグル作りはスピード勝負。

しっかりと準備を整えたうえでケトリングをおこなうことが大切なのです。

まとめ

今回は、ベーグルを焼成前に茹でる工程である、ケトリングの理由について解説しました。

ケトリングを行うことで生地表面のデンプンが糊化し、ベーグル独特のムチムチとした食感が生まれます。

そこには糊化だけでなく、生地の膨らみやモラセルシロップによる焼き色など重要な役割が含まれています。

他のパンとはひと味違うベーグルのおいしさは、ケトリングなしでは出せるものではありません。

少し手間のかかる工程ですが、ケトリングの役割を十分に理解し、製パンに役立てていってくださいね。

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この記事を書いた人

医療技術系短大卒業後、バイオ系研究室テクニシャンなどを経て、現在はフリーランスのライターとして活動中です。
製パンスクールのプロコースを卒業した経歴を活かし、実践に役立つ製パン知識を、よりわかりやすく科学的にお伝えします。
食育アドバイザー、幼児食インストラクター資格保持。

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