高加水パンとは?特徴は?作り方のコツをこね・発酵・成形・焼成の各工程で紹介!
水分量が多く扱いづらいものの、シンプルで濃い旨味が味わえる高加水パン。
日本でも人気のブーランジェリーでは、高い加水率でパンを作っているところが少なくありません。
高加水パンは老化を遅らせ、次の日でもしっとりとしたクラムが持続するのも魅力の一つ。
今回は、そんな高加水パンについて解説していきたいと思います。
高加水パンとは
高加水パンは、一般的なパンに比べ材料に使う水分量が多いパンのことです。
通常のパンの水分量は65~70%なのに対し、高加水パンの水分量は80%以上と非常に水分の多いパンです。
パン・ド・ロデヴ
高加水パンの代表としては「パン・ド・ロデヴ」があげられます。
フランス南部の小さな街「ロデヴ」から名付けられたパンです。
日本では知名度が低くあまり普及していないのですが、とても水分量が多く、本来の高加水パンと言えばロデヴのこと、と言っても過言ではないでしょう。
日本で普及した高加水パン作りの先駆け「シニフィアン・シニフィエ」
日本で高加水パンが普及したのは、シニフィアン・シニフィエの志賀勝栄シェフによる影響が大きいでしょう。
シニフィアン・シニフィエは、世田谷区にある人気のブーランジェリー。
シンプルで本場さながらのパンでありながら、栄養素を考えた健康に良いパン作りにこだわっています。
シニフィアン・シニフィエのパンは、高加水で低温長時間発酵が特徴。
低温長時間発酵のパイオニアとしても知られ、全国にファンを持つお店です。
志賀シェフの作る高加水パンは多くのシェフに影響を与え、ここで修業したシェフによりさらに高加水パンが広がり、全国に普及しています。
高加水パンのメリット
人気の高加水パンですが、ここからは高加水で作ることでのメリットを紹介したいと思います。
- しっとりとした食感
- 老化を遅らせる
- 香りや旨味を引き出す
しっとりとした食感
高加水パンは水分を多く含んでいることから、しっとりもちもちしたパンに仕上がります。
のど越しの良さも高加水パンの魅力で、ハード系のパサパサしたパンが苦手という人にも食べやすいパンです。
みずみずしくじゅわっとしたくちどけが楽しめます。
老化を遅らせる
高加水パンは老化を遅らせることができます。
老化とは、パンの水分が抜けパサパサになってしまうことです。
一般的に卵や油脂などを使ったリッチなパンは、老化が遅く賞味期限が長いと言われています。
反対に卵や油脂などの入らないリーンなパンは、老化が早く賞味期限も短くなります。
しかし、フランスパンやバゲットなどの老化が早いリーンなパンでも、高加水パンにすることで老化を遅らせ、賞味期限を長くすることが可能なのです。
香りや旨味を引き出す
高加水パンは、少ない酵母で低温長時間発酵させて作るため、香りと旨味が引き出されます。
発酵は低温長時間であるほど熟成し、香りと旨味がでます。
また、低温長時間発酵の場合、イーストは少量しか使う必要がないため、イーストの独特な香りもほとんどないのです。
高加水パンのデメリット
しっとりもちもちの食感で香りと旨味を感じることができ、賞味期限も長くなる高加水パンですが、高加水パンならではのデメリットもあります。
- 作業効率が下がる
- 形が扁平になる
- カビが生えやすい
作業効率が下がる
高加水パンは水分量が多いためべたつきやすく、手でまとめるのがとても困難です。
生地はとてもゆるく作業性が悪くなるため、工場での大量生産には向いていません。
さらにくっつきにくくするために、手粉を多く必要とします。
形が扁平になる
高加水パンは生地がとても緩く、流動性のある生地であるため、焼成後の形が扁平になりやすいのです。
高さを出したいパンでは、さまざまな工夫と熟練の技が必要になります。
カビが生えやすい
水分量が多く、カビが生えやすくもなります。
特にカットしたパンは、カビが生えないように適切に保存する必要があります。
高加水パンの作り方とコツ
高加水パンは加水率によって作り方に差があります。
今回は、高加水パンの代名詞とも言えるパン・ド・ロデヴを、水分量90%(ミキシング用70%、バシナージュ用20%)の作り方で紹介したいと思います。
ミキシング
最初に小麦粉と70%の水を混ぜます。
残り20%の水はバシナージュ用に取っておきましょう。
ミキシングを行う前に粉と水をざっと混ぜ、15~30分ほど休ませておく「オートリーズ」という方法をとると、グルテンがほぐれ生地が伸びやすくなります。
オートリーズは英語で「自己融解する」という意味を持ち、自然にグルテンが形成される様子を表しています。
水分が多く、捏ねるというよりも混ぜる作業に近い高加水パンでは、生地がなかなかまとまりません。
オートリーズを取り入れることによってグルテンが形成されやすくなり、作業効率が上がることが期待されます。
オートリーズ後に、酵母を入れミキシング、さらに塩を入れミキシングしていきます。
オートリーズで伸びやすい生地となった後、塩を入れることでグルテンが引き締まります。
グルテンが引き締まることで、生地に艶と弾力ができるのがわかります。
オートリーズの利点は作業効率が上がることだけでなく、粉が水分をしっかり吸収し、老化を遅らせる効果もあります。
バシナージュ(足し水)
残りの水20%を加えてミキシングし、水が生地に入り込むよう混ぜます。
バシナージュした分は、生地に水和しているわけではなく、再度ミキシングすることで切断されたグルテンの間に入り込み、水和しない自由水となります。
この自由水があることで、焼成したときに蒸発し膨らみ、窯伸びしやすくなるのです。
高加水パンを作る場合にはとても有効な方法です。
一次発酵
1時間ほど発酵させます。
その後パンチをし、冷蔵庫に入れ12時間発酵させます。
低温で長時間発酵させることで旨味が増します。
シンプルであるからこそ、小麦粉や塩など素材の旨味が引き立ちます。
発酵が終わったら40分ほど室温に置き、さらにパンチをします。
再び40分ほど置いておきましょう。
砂糖や油脂を含まないハード系のパンは膨らみにくいため、パンチをすることで生地にボリュームと弾力がでます。
さらにここで一度ガスを抜いて酸素を取り込むことで、酵母の働きが活性化し、発酵を促進します。
流動性のある高加水パンでは、このパンチの工程は非常に重要で、グルテンを繋ぐのにも欠かせません。
水分量が多く折りたたむことが難しいため、ヘラやスケッパーなどを使って生地の端を少量持ち上げ、中央に向かって折りたたむようにします。
この作業を生地全体で繰り返します。
決して気泡を潰さないようにし、あまり触らないよう注意しましょう。
分割
生地を台に出して分割します。
台は多めに粉を振っておき、生地を置いたらその上からも粉を振りかけておきます。
手粉をしっかり使い、素早く優しく扱うようにしましょう。
分割したら成形せず切りっぱなしで布どりしていきます。
二次発酵
30分ほど二次発酵させます。
焼成
焼く直前にクープを入れ、200℃で30~35分焼成します。
クープを入れることで生地が良く膨らみ、ボリュームが出やすくなります。
高加水のパンは、生地がダレやすいためスチームを使い高温で焼くことで中の水蒸気を飛ばし一気に生地が膨らみます。
クラストがしっかりバリっとした食感となり、クラムはムチムチになります。
パンの特徴に合わせて加水率を変える
高加水パンでも、作るパンによって加水率を変える必要があります。
高加水パンでも比較的水分が少なめであれば、パンの形状や気泡を維持したパンが作れますし、水分をたっぷり使ったパンは形状が崩れやすいため、パンの形状や気泡が変化してもいい場合に使います。
パンの形状や気泡を維持したい場合
パンの形状や気泡を維持したいが、中はしっとり仕上げたいという場合には、高加水でありながら加水率をやや少なめにする必要があります。
代表するパンには以下のようなものがあります。
バゲット
バゲットは成形が難しく、加水率80%までにするのがコツです。
それ以上増やすと生地は扁平になりやすく、熟練の技が必要になります。
食パン
食パンも高加水で作ることができますが、こちらも加水率80%ほどにしておくのが良いでしょう。
食パンは成型したときに生地に厚みがあるため、パンチを丁寧におこなうなどし、特に膨らみを助ける工夫が必要です。
パンの形状と気泡が変化してもいい場合
高加水パンは扱いづらく、慣れないと成形する必要のあるパンは難しいものです。
そこで、次はパンの形状を気にせず、気泡が変化してもいいパンについて紹介したいと思います。
加水率もグッと上げることができ、いずれも加水率90%でも作ることができます。
見た目にこだわらないことが、おいしく作るコツとも言えるでしょう。
チャバタ
チャバタはイタリアのパンで、水を入れすぎてしまったパンを捨てずに平たいまま焼いてみたところ、おいしかったということから誕生したと言われています。
元々失敗から生まれたパンなので、形状などは決まっていません。
リュスティック
フランスのパンで水分量が多いため、分割後に成形せずそのまま焼くのが特徴です。
リュスティックとは「素朴」や「野趣」を意味し、切りっぱなしで大胆に作ります。
パン・ド・ロデヴ
ルヴァン種とイーストを合わせて作るのが特徴で、とても旨味の強いパンです。
高加水パンの代表として知られ、リュスティック誕生のヒントにもなったパンです。
まとめ
今回は高加水パンについて解説しました。
高加水パンは作業効率が悪く生地の扱いが難しい反面、少ない酵母で長時間発酵させるので多少の時間のずれは特に気にする必要がありません。
慌ただしい製パンの作業場では余裕をもって製造スケジュールに組み込むことができるでしょう。
また、作業効率の低さから大量生産の工場ラインには取り入れにくく、個人店での扱いが主になります。
その分、個性を出せるパンとなることでしょう。