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イーストのレシピを天然酵母に置き換える際の元種の計算方法を解説

パン作りに慣れてくると、製法や材料などさまざまな部分でこだわりたくなった経験はありませんか?

こだわりたい部分としては、酵母もその一つですよね。

普段イーストを使って作っていたパンも、天然酵母に置き換えて作ることができます。

天然酵母に置き換えると、イーストを使ったときにはない「元種」というものを作る製法があります。

ここでは、イーストのレシピを天然酵母に置き換える際の、元種の計算方法を解説したいと思います。

目次

元種とは

元種とは、市販の天然酵母や自家製酵母の培養液に小麦粉を加え、数日かけて育てたものです。

元種を作ることである程度酵母に力を持たせ、パンの発酵種として使用します。

酵母液をそのまま使ってパンを作る製法は、所謂ストレート法になりますが、元種を使って作る製法は発酵種法の一種となり、あらかじめ一部の生地を発酵させておくことで酵母の発酵を安定させることができます。

自家製酵母で元種を作る手順

まずは自家製酵母で元種を作る手順について紹介しましょう。

STEP1 自家製酵母の酵母液と強力粉を混ぜる

煮沸消毒した瓶やアルコール消毒した容器を用意します。

酵母液と強力粉を1:1の割合で加え、菜箸やスプーンなどを使ってよく混ぜます。

このとき使用する菜箸やスプーンは、清潔な物を用意しましょう。

STEP2 発酵させ、冷蔵庫で一晩寝かせる

軽く蓋をして室温に放置し、2倍の量になるまで発酵させます。

発酵が済んだら、冷蔵庫で一晩寝かせてください。

STEP3 次の日、さらに酵母液と強力粉を加える

次の日、さらに酵母液と強力粉を加えていきます。

前日作った元種に、1:1になるように酵母液+強力粉を加えます。

たとえば、元種が60gのときには酵母液と強力粉をそれぞれ30gずつ加えると良いでしょう。

STEP4 再び発酵させ、冷蔵庫で一晩寝かせる

再び2倍の量になるように発酵させます。

発酵が済んだら、冷蔵庫で一晩寝かせましょう。

STEP5 STEP3とSTEP4をもう一度

STEP3とSTEP4の作業をさらにもう1回おこないます。

たとえば、このとき元種が120gになっていれば、酵母液と強力粉をそれぞれ60g加えると良いでしょう。

この段階で発酵が十分におこなわれているなら、二回目以降の作業は酵母液ではなく水を使っても構いません。

STEP6 元種の完成

発酵させ2倍の量に膨らんだら、元種の完成です。

イーストを元種に置き換えるには

レシピのイーストを元種に置き換えるには、次のことを守らなければいけません。

元種は30%の分量が必要

天然酵母でパンを作る場合、元種はベーカーズパーセントで30%の分量が必要です。

正確には30%でないといけないというわけではなく、作るパンの種類などによっても変わります。

少なすぎると発酵が弱く、多すぎると過発酵になりやすくなったりするのです。

フランスパンなどのリーンなパンは、少ない酵母でゆっくり発酵させ、小麦などの風味をより感じやすくさせます。

一方、菓子パンなどのボリュームが必要なパンは、多めの酵母を使って一気に発酵させボリュームを出します。

基本的には30%で作り、パンの種類で変える場合も10~40%の範囲にはおさまるようにするのが良いでしょう。

材料の分量調整が必要

元種を作るには、酵母液と小麦粉が必要です。

イーストを元種に置き換える場合は、元のレシピの水や小麦粉から、元種として使う酵母液の分量(水分)と小麦粉の量を減らして調整する必要があります。

イーストを元種に置き換える時の計算方法

イーストを元種に置き換える時の計算方法を紹介します。

ここでは、ベーカーズパーセントで30%となるように元種を使う想定で計算してみましょう。

計算方法

必要な元種の分量は、レシピのベーカーズパーセントで30%となるので、次の計算式で導き出すことができます。


必要な元種の分量 = レシピの粉の量 × 0.3


さらに、イーストを元種に置き換えた場合は、そのぶん元種によって増えた水分と粉の量を元のレシピから減らす必要があります。

元種は基本的に酵母液:強力粉=1:1で作るので、元種を作るのに使用する酵母液と強力粉の分量は、それぞれ計算で導き出した元種の分量から2で割った値となります。

このぶんを、レシピの水の量と粉の量からそれぞれ減らしましょう。

パンの材料としての水と粉の量は、次のように計算します。


材料として必要な水の量 = 元のレシピの水の量 - 導き出した元種の量 ÷ 2


材料として必要な粉の量 = 元のレシピの粉の量 - 導き出した元種の量 ÷ 2


実際のレシピでの計算

それでは、元種をベーカーズパーセントで30%用意するときに必要な計算を、実際のレシピに照らし合わせておこなってみましょう。

イーストを使った食パンのレシピ

材料分量(g)ベーカーズパーセント(%)
強力粉450100
砂糖22.55
92
スキムミルク92
イースト92
油脂22.55
31570

STEP1 必要な元種の分量を導き出す

このレシピの強力粉は450gです。

必要な元種の分量は、次のような計算で導き出すことができます。


必要な元種の分量 = 450g × 0.3

必要な元種の分量 = 135g


必要な元種の分量は、135gとなります。

レシピのイースト9gを、元種135gに置き換えましょう。

STEP2 元のレシピから元種で増えた分の水と粉の量を減らす

計算で導き出した元種の分量は、135gでした。

元種は酵母液:強力粉を1:1となるように作るので、必要な元種が135gの場合には、それぞれ2で割った値となる酵母液67.5gと、強力粉67.5gが含まれているということになります。

元種の分量は、本来のレシピにはない分量となるため、元のレシピから増えた分の水と粉の量を減らさなければいけません。

最終的に材料として必要な水と粉の量は、次の計算で導き出すことができます。


材料として必要な水の量 = 元のレシピの水の量 - 導き出した元種の量 ÷ 2

材料として必要な水の量 = 315 - 67.5

材料として必要な水の量 = 247.5g


材料として必要な粉の量 = 元のレシピの粉の量 - 導き出した元種の量 ÷ 2

材料として必要な粉の量 = 450 - 67.5

材料として必要な粉の量 = 382.5g


パンの材料として必要な水の量は247.5g、粉の量は382.5gということになります。

元種に置き換えたら発酵時間は長くする

イーストを元種に置き換えたら、本来のレシピの発酵時間よりも長くする必要があります。

イーストは、自然界に存在する酵母の中からパンの発酵に適した単一の菌を選択的に集めたものです。

そのため、発酵がスムーズに進み安定しているのです。

一方、元種に使われる天然酵母は、乳酸菌や複数の菌が存在するため、イーストに比べて発酵力が劣ります。

元種に置き換える場合は、イーストを使った場合よりも発酵時間を長くする必要があります。

ただし、発酵時間というのは、酵母の種類や環境によって大きく異なります。

使用する天然酵母も、市販の天然酵母か自家製酵母かでも発酵力に違いがあるため、どの程度発酵時間を延ばすのかは一概には言えないのです。

時間ではなく発酵状態で見極める

発酵の終了地点は、見た目や弾力で判断します。

一次発酵では生地のボリュームが1.5~2倍程度に膨らんでいることが一つの目安です。

さらに、パンの表面を触って弾力があるのを確かめたり、フィンガーテストをおこなってできた穴が元に戻らないことを確認するなどして、発酵状態を見極めます。

イーストを酵母液に置き換えるには

天然酵母でパンを作る場合、元種は必ず必要な物ではなく、元種を用いることなく酵母液を使って発酵させる方法もあります。

酵母液は30%の分量が必要

酵母液も元種と同様、ベーカーズパーセントで30%の分量が必要です。

イーストを元種に置き換える場合の分量と同じく、パンによって10~40%の範囲で調整すると良いでしょう。

理由については前述の”元種は30%の分量が必要”の項と内容が重複するため、ここでは割愛します。

水分の分量調整が必要

酵母液はほとんどが水分です。

イーストのレシピを酵母液に置き換える場合は、材料からイーストを消し、水の分量から使用する酵母液の分量を減らして調整する必要があります。

イーストを酵母液に置き換える時の計算方法

イーストを酵母液に置き換える時の計算方法について紹介しましょう。

計算方法

適正な酵母液の量は、ベーカーズパーセントで30%なので、元種に置き換える場合と同じく次の計算式で導き出すことができます。


必要な酵母液の分量 = レシピの粉の量 × 0.3


イーストを酵母液に置き換えた場合は、元種と違って酵母液によって増えた水分量のみを元のレシピから減らす必要があります。

パンの材料としての水の量は、次のように計算します。


材料として必要な水の量 = 元のレシピの水の量 - 酵母液の量


実際のレシピでの計算

それでは、実際のレシピから必要な量を計算で導き出してみましょう。

元となるレシピは、元種に置き換えるときの計算方法で使用したものと同じイーストを使った食パンのレシピです。

イーストを使った食パンのレシピ

材料分量(g)ベーカーズパーセント(%)
強力粉450100
砂糖22.55
92
スキムミルク92
イースト92
油脂22.55
31570

STEP1 必要な酵母液の分量を導き出す

まずは必要な酵母液の分量を導きましょう。

強力粉の量は450gなので、粉に対して30%の値が必要な酵母液の分量となります。


必要な酵母液の分量 = 450g × 0.3

必要な酵母液の分量 = 135g


必要な酵母液の分量は、135gとなります。

レシピのイースト9gを、酵母液135gに置き換えましょう。

STEP2 元のレシピから酵母液で増えた水の量を減らす

計算式で導き出した酵母液の量は135gです。

酵母液はほとんどが水分であるため、元のレシピから酵母液で増えた分の水分を減らす必要があります。

最終的に材料として必要な水の量は、次の計算で導き出すことができます。


材料として必要な水の量 = 元のレシピの水の量 - 導き出した酵母液の量

材料として必要な水の量 = 315 - 135

材料として必要な水の量 = 180g


パンの材料として必要な水の量は、180gということになります。

酵母液に置き換えたら発酵時間は長くする

イーストのレシピを酵母液に置き換えた場合、発酵時間は長くする必要があります。

これは元種の時と同じ理由ですが、イーストは発酵に適した単一の菌を集めたもので、発酵力が強く非常に安定しています。

一方、天然酵母は複数の菌が混じっているため発酵が不安定になるのです。

天然酵母を使用して作る酵母液は発酵に時間がかかるため、市販の天然酵母であっても自家製酵母でも、元のイーストを使ったレシピよりも発酵時間を長くとるようにしましょう。

元種と酵母液のどちらに置き換えるべき?

元種と酵母液、どちらに置き換えるのが良いのでしょう?

これにはそれぞれにメリットとデメリットがあり、一概にどちらが良いとは言えません。

それぞれのメリットとデメリットをみて、自分に合う方法を選ぶのがおすすめです。

元種のメリット

イーストを元種に置き換える場合には、次のようなメリットがあります。

熟成するので風味が豊かになる

元種を使った場合、培養に長い時間がかかります。

酵母はゆっくり時間をかけて培養するほど熟成し、風味が良くなります。

ボリュームが出やすくなる

元種は酵母液をあらかじめ強力粉と混ぜて発酵させたものです。

そのため、発酵が安定し酵母がしっかり力を持った状態になるのです。

酵母にしっかり力があると、ボリュームのあるパンに仕上がります。

老化を遅らせることができる

元種は、酵母液と強力粉を数日かけて培養しているため、そのぶん粉がしっかり水和している状態になります。

水和が十分におこなわれた生地は、焼成後も水分が抜けにくく老化を遅らせることができるのです。

酵母の活性を確認することができる

酵母液に含まれる酵母の活性は、見た目ではわかりにくいものです。

元種を作ることで、使った酵母液の酵母がしっかり活性しているのかどうかを確認することができます。

元種のデメリット

パンの品質として元種を使ったものはメリットがたくさんありますが、元種にもデメリットがあります。

時間と手間がかかる

元種を使ってパンを作る場合は、パンの材料に合わせる前に元種を作る作業が必要です。

そのぶん、酵母液を直接使ってパン作りをおこなう場合に比べて、時間と手間がかかってしまいます。

酵母液のメリット

次は、酵母液のメリットについてみていきましょう。

短時間でパンを作ることができる

酵母液は、元種を使った場合に比べて比較的短時間でパン作りをおこなうことができます。

これは、元種を作る際にかかる時間を丸々短縮できるためです。

酵母液のデメリット

比較的時間や手間をかけずに作ることのできる酵母液でのパン作り。

元種に比べるとパンがパサつきやすかったり、ボリュームが出にくいなどありますが、デメリットというほど気になるものではありません。

しかし、次の点ではパン作りの失敗にも繋がるため、酵母液のデメリットと言えます。

酵母の状態を確認しにくい

酵母液を使ってパンを作る場合、酵母の活性が十分であるかどうかは、実際にパンを作る時に初めてわかります。

そのため、いざパン作りをしようと酵母液を使っておこなった場合、酵母の活性が不十分であると酵母液そのものが使えないだけでなく、混ぜ合わせたすべての材料が無駄になってしまう恐れがあるのです。

まとめ

イーストを使ったレシピは、元種を使ったパンや酵母液を使ったパンに簡単に置き換えることができます。

少し手間はかかってしまいますが、最初は酵母液よりも元種に置き換える方法で始めるのがおすすめ。

発酵が安定しているため、初心者でも失敗しにくいのが特徴です。ぜひチャレンジしてみて下さいね。

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この記事を書いた人

医療技術系短大卒業後、バイオ系研究室テクニシャンなどを経て、現在はフリーランスのライターとして活動中です。
製パンスクールのプロコースを卒業した経歴を活かし、実践に役立つ製パン知識を、よりわかりやすく科学的にお伝えします。
食育アドバイザー、幼児食インストラクター資格保持。

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