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米粉100%パンはなぜ膨らむ?グルテンがないのに小麦粉の代わりになるの?

米粉を使ったパンは今では珍しくなく、パン屋さんやスーパーのパンなど、あらゆる場所で見かけるようになりました。

パン用の米粉が最初に誕生したのは、米どころ新潟県の胎内市。1998年に米粉専用の製粉工場が造られたことから、「米粉発祥の地」として知られています。

しかし、本来パンが膨らむにはグルテンが必要不可欠で、グルテンを含まない米粉ではパンは作れないと思われていました。

巷に溢れる米粉パンはどのようにして作られているのか、グルテンを含まない米粉100%でもパンを作ることができるのかを解説していきたいと思います。

目次

米粉100%でもパンは作れる

従来はグルテンを含まない米粉だけでパンを作ることは難しく、米粉パンとして販売されていても、実際には米粉以外に小麦粉を含んでいたり、添加物で補ったりして米粉のパンを作っていました。

しかし、研究が進み現在では米粉100%でもパンを作ることができるようになったのです。

米粉とは?

米粉は奈良時代に遣唐使によって伝来し、その頃伝来した米粉はおせんべいや和菓子などに使われていました。

米粉は大きく分けるとうるち米から作るものと、もち米から作るものとに分けられます。

さらに製粉方法により多くの種類に分けられ、さまざまな用途に使われています。

原料がうるち米の米粉の種類

うるち米からできた米粉の種類には以下のようなものがあります。

上新粉

うるち米を精白して水洗いし、乾燥後に製粉したものです。

上質で色が白く、歯ごたえがあることから生菓子などに使用されます。

上用粉

うるち米を洗って乾燥させたあと製粉したものです。

上新粉よりもさらに弾力があり、もちっとしています。ういろうに使われています。

原料がもち米の米粉の種類

次に、もち米を原料とした米粉の種類について紹介していきたいと思います。

白玉粉

もち米を水洗いし、石うすで水挽き。そこで沈殿したものを乾燥して作ります。

もち米のデンプン質を取り出して作られていることから、なめらかで伸びがあるのが特徴で、白玉団子や大福餅に使われています。

もち粉

もち米を水洗いし、乾燥後に製粉したものです。

白玉粉と比べさらにきめが細かく、求肥に使われています。

寒梅粉

もち米を蒸して餅にし、焼いて乾燥させたあと粉末にしたものです。

舌触りが良く、落雁に使われています。

みじん粉

寒梅粉と作り方は同じで、寒梅粉よりも粗い粉がみじん粉です。

こちらも落雁の原料として使われています。

道明寺粉

もち米を一晩水につけて蒸し、乾燥させたものを臼で挽き、ふるいにかけた粉です。

大阪の道明寺で作られていたことからこの名が付いたとされ、関西の桜餅で使われています。

上南粉

道明寺粉の粒を焦がさないように煎じたものです。

あられや桜餅、おこしに使われます。

パン用の米粉

パン用の米粉は、上記のさまざまな米粉よりさらに粒子を細かくしたものが使われています。

その原料となる米粉は、うるち米から作られたものも、もち米から作られたものもあり、製造メーカーによってさまざまです。

米粉100%のパンの定義

米粉パンとは、本来小麦粉で作るパンを、米粉を使って作ったパンです。

一口に米粉のパンと言っても、米粉のほかに小麦粉を混ぜたものもあります。

しかし、米粉100%のパンは、材料に小麦粉を含まず、米粉、水、イースト、砂糖、食塩、油脂のみで作るものを指します。

従来は米粉100%パンは作れなかった

従来は、米粉100%のパンを作ることはできませんでした。

それはパンが膨らむことに欠かせないグルテンが深く関わります。

小麦粉に含まれる主なタンパク質は、グリアジンとグルテニンから成り立っています。

この二つのタンパク質は、水を加えて捏ねることで、粘着性と弾力性を持つようになり、グルテンが形成されます。

グルテンは、イーストが作り出す炭酸ガスを包み込む役割を持ち、それにより生地を膨張させます。

グルテンがないとガスが抜けてうまく膨らまないのです。

しかし、グルテンは小麦粉にしかなく米粉には含まれていません

そのため、小麦粉の量は減らせても、全く小麦粉を入れずに米粉だけでパンを作ることはできなかったのです。

従来の米粉パンの作り方

では、従来の米粉パンはどのようにして作られていたのかを見ていきましょう。

従来の米粉パンの作り方では、パンを膨らませるため材料に小麦粉を混ぜるか、グルテンや増粘多糖類を加える必要がありました。

また、パン専用米粉と呼ばれるものは販売されていましたが、これも小麦粉は入っていないものの、グルテンや増粘多糖類が添加されているものです。

小麦粉を加えることやグルテンなどの添加物を加えることで、通常の小麦粉のパンとあまり変わらない工程で作ることは可能です。

しかし、お米は水分を多く含むものやあまり含まないものなど、品種によってとても差があり、膨らみやすさや食感などに大きく違いがでやすいのです。

現在は米粉100%でも作れる

かつてはグルテンや増粘多糖類を添加して作っていた米粉パンですが、現在はさまざまな研究により技術が確立され、このような補助材料を使うことなく、米粉100%のパンを作ることができるようになりました。

世界初の米粉100%パンの誕生

山形大学工学部の研究室で、世界で初めて米粉100%のパンが完成しました。

米粉100%のパンはプラスチック工学を応用して作られたのです。

プラスチックは数種類の原材料を合わせることにより、1種類では得られることのない特性が現れることがあります。

さらに発泡スチロールなどに代表されるプラスチックの発泡材は、溶かした原材料に炭酸ガスを混ぜて発泡させて作っています。

これを製パンに応用し、米粉は低粘度の米粉と高粘度の米粉を合わせ、発泡に適した粘度を実現し、ミキシングと発酵の状態を最適な状態でおこなうようにし、きれいな膨らみが実現したのです。

参考文献:論文『グルテンを用いない米粉パンの製造技術』

日本調理科学会誌 Vol. 50,No. 1,1~5(2017)〔総説〕 * 山形大学大学院有機材料システム研究科 グルテンを用いない米粉パンの製造技術

米麴を使った製法技術

米粉100%のパンの難題は、生地の膨らみが不十分であることです。

しかし、米粉に米麴を添加して前発酵をおこなっておくことで、米麴を添加しない米粉と比べて2倍以上もパンが膨らむことが突き止められました。

米粉に米麴と水を添加し混ぜたものを、55℃で6時間以上前醗酵することで、米麴を添加しない米粉に比べて、パンの膨らみが2倍程度向上する

米麹を用いた100%米粉パンの新たな製法技術 | 農研機構

さらに、麹が発酵しているときの米粉の酵素活性においては、プロテアーゼという酵素の活性が生地の膨らみとともに向上していることがわかり、20~25%のアミロース含有量の米を使用した米粉を使った場合、膨らみと食感が最も良いという結果が出たのです。

麹醗酵中の米粉における酵素活性を測定したところ、プロテアーゼ活性が醗酵時間の経過とともに上昇し、パンの膨らみの向上と相関が見られる

米麹を用いた100%米粉パンの新たな製法技術 | 農研機構

アミロース含量の影響について検討した結果、15%程度以上のアミロース含量の米で膨らみが、20~25%程度のアミロース含量の米で膨らみと食感の両方が良好である

米麹を用いた100%米粉パンの新たな製法技術 | 農研機構

参考文献:特許5713255

ホームベーカリーでも米粉100%パンが可能に

これは農研機構が広島大学との共同研究により明らかにしたもので、微粒子型フォームの原理を利用し、米粉100%のパンでも生地が膨らむことを可能にしました。

微粒子型フォームとは、洗顔フォームが泡立つ原理のことで、通常水と空気は混ざらないものの、フォームを形成することで分散できるというものです。

これを利用し、炭酸ガスを米粉のデンプン質が取り囲み、ガスが抜けることなく石鹸の泡のように生地を膨らませることができます。

この技術にはデンプンの損傷が少ない米粉を使う必要があり、製粉の過程で二段階製粉をおこなうか、酵素処理をしてデンプンが損傷しないようにする必要があるため、専用の米粉を用意しなければいけません。

この技術を利用し、タイガーが製品化したホームベーカリーが発売され、専用の米粉を使うことにより一般家庭でも米粉100%のパンを作ることが可能になりました。

農研機構は、広島大学との共同研究により、米のデンプン粒が醗酵で生じるガスを取り囲んで「微粒子型の泡」を形成し、この構造を安定化させることで、生地の膨らみが維持されるメカニズムを明らかにしました。
このメカニズムを用いて、農研機構とタイガー魔法瓶が共同開発を行い、技術の実用化に成功しました

米粉100%パンの共同研究成果が農林水産省選定の「2017年農業技術10大ニュース」に入選 │ タイガー魔法瓶株式会社

参考文献:論文『Development of gluten-free rice bread: Pickering stabilization as a possible batter-swelling mechanism.(グルテンフリー米粉パンの開発:生地が膨らむメカニズムはピッカリング安定化と推定される) 』

農研機構食品研プレス(米粉パン・広島大学)_HP掲載用.pdf

米粉100%のパンの作り方

米粉100%パンはさまざまな方法で作ることが可能になりましたが、ここでは専用のホームベーカリーで作業工程が公開されている、微粒子型フォームを応用した方法で紹介していきたいと思います。

材料について

従来のグルテンを添加した方法では、水のベーカーズパーセントは約63%と通常の小麦粉を使ったパン生地とあまり変わらない量で作ることができました。

しかし、米粉100%のパンに使う水は、ベーカーズパーセント約93%ととても水分量が多くなります。

作り方の特徴

米粉100%のパンの材料は水のベーカーズパーセントが非常に高いため、とてもどろどろした生地になります。

ミキシング

生地へ空気を極力含まないようによく攪拌し、澱粉粒を水相へ均一に分散させます。

グルテンを添加した生地と違い、グルテンの形成はありません。

成形(成型)

ミキシングした生地は、そのまま成形へと移ります。

しかし、生地がどろどろして成形することはできないので、型に流し込む必要があります。

二次発酵

40℃で20~25分発酵させます。

焼成

180℃で15~20分焼きます。焼き型によってはさらに時間を調整しましょう。

米粉100%で作る意義とは?

米粉100%のパンが作られるようになったことで、小麦粉を使ったパンでは成し得なかった大きな意義があります。

アレルギーでも食べられる

現代はアレルギーの人が多く、国民の3人に1人は何らかのアレルギーを持っていると言われています。

小麦も食物アレルギーの症例数が多いことから、法令で規定する特定原材料5品目のうちの一つとして、食品表示が義務付けられています。

このように症例数の多い小麦アレルギーの人でも、米粉100%のパンの開発により小麦粉でできたパンと遜色ないパンが食べられるようになりました。

セリアック病などの患者

グルテンはアレルギーの原因となるだけではありません。

グルテンが原因で起こる自己免疫疾患の一つに、セリアック病というものがあります。

セリアック病は腹痛や下痢などの消化器症状を引き起こすほか、貧血や筋力低下などを引き起こします。

セリアック病の治療法としては、現段階ではグルテンを含まない食事を摂るグルテン除去法が一般的なため、小麦粉を摂取することができない患者にとって、米粉100%のパンは貴重な存在なのです。

食料自給率の向上

国内の米の自給率は年々減り続けており、昭和50年代に110%あった自給率も、現在は96%ととなり、深刻な問題として取り上げられています。

一方でパンの需要と供給は増え続けており、パンの原料を米粉へ変えることで、少しでも米の自給率を上げることへ繋がると考えられています。

冒頭でもお伝えした米粉発祥の地とされる新潟県胎内市でも、この深刻な問題を打破するべく、パン専用米粉の普及へと乗り出したのがきっかけです。

まとめ

米粉100%パンの開発は、米粉でパンが作られるようになってからも、多くの研究施設が挑戦し続けてきました。

米粉100%のパンは小麦粉やグルテンを添加することがないため、パンの製造には欠かせないグルテンの形成がありません。

グルテンの形成がなくても炭酸ガスを逃がさないようにするため、分野を超えた技術の応用が、現在の米粉100%パンの実現へと繋がっているのです。

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この記事を書いた人

医療技術系短大卒業後、バイオ系研究室テクニシャンなどを経て、現在はフリーランスのライターとして活動中です。
製パンスクールのプロコースを卒業した経歴を活かし、実践に役立つ製パン知識を、よりわかりやすく科学的にお伝えします。
食育アドバイザー、幼児食インストラクター資格保持。

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