天然酵母とは?イーストとの違いは?自家製以外に市販の天然酵母もあるの?
天然酵母を使ったパンは、手間と時間がかかるものの、イーストにはない複雑な香りと深い旨味があり、パン屋さんを始め、最近ではスーパーなどに並ぶ大手製パン会社でも、天然酵母を使用した製品を多く見かけるようになりました。
今回は、そんな天然酵母について詳しく解説していきたいと思います。
天然酵母とは
天然酵母を説明する前に、まずは「酵母」についてお話ししましょう。
酵母は真菌と呼ばれる微生物のことで、穀物や果物、水中や土壌など自然界のあらゆるところに生息しています。
酵母そのものが天然の物なので、実は天然酵母という言い回しは不適切だと考える人も少なくありません。
しかし、実際には天然酵母という商品もあり今では一般化していますので、ここでも便宜上、「天然酵母」として説明していきたいと思います。
パン作りに使われる天然酵母は、こういった自然界に存在する酵母を培養し増やしたもので、酵母だけではなく酢酸菌や乳酸菌などさまざまな微生物を含んでいるのが特徴です。
自家製酵母とは
天然酵母は自家製と市販品とに大別されます。
そのうち自家製酵母は、果物や穀物から自身で酵母を培養したものを指します。
一般的にはレーズン、りんご、いちごなどの果物を用いることが多く、特にレーズンは一年を通して手に入りやすく、発酵力が強いため初心者にもおすすめです。
レーズンを使う場合は、できるだけオイルコーティングされていない物を選びます。
オイルは酵母の呼吸を妨げて発酵しづらくなるためです。
フレッシュフルーツの場合は、なるべく無農薬の物を選び、皮ごと使うのが良いでしょう。
作業工程
自家製酵母を使ったパン作りをおこなう場合は、最初に自家製酵母を作り、その後「元種」というものを作る必要があります。
自家製酵母を作る
煮沸消毒した瓶に、使用する果物や野菜をカットして入れます。
瓶の1/3ほどを目安に入れましょう。
水を蓋から1㎝下まで入れましょう。
このとき使う水は水道水で構いませんが、塩素が発酵の妨げになるので、浄水器に通した水を使います。
浄水器がなければ、湯冷ましを使うか市販のミネラルウォーターを使ってください。
蓋をして室温(25℃~27℃)で放置します。
一日一回は上下返す程度に軽く振り、蓋を開けガスを抜きます。
これを毎日繰り返し、3~5日経つころに泡が立ち始めます。
泡がたったらプラス一日放置し、完成となります。
完成したら冷蔵庫で保存します。
一ヶ月程度保存が可能です。
元種を作る
煮沸消毒した瓶や容器を用意します。
使う分量の自家製酵母と強力粉を1:1の割合で入れ、混ぜます。
混ぜるときに使う菜箸やスプーンも清潔なものを使ってください。
軽く蓋をして室温で放置し、2倍量になるまで発酵させます。
発酵が済んだら、冷蔵庫で一晩寝かせます。
次の日、さらに強力粉と酵母液を加えていきます。
前日作った元種に1:1になるように強力粉+酵母液を加えます。
元種が60gであれば、強力粉と酵母液を30gずつ入れるということです。
同じく2倍量になるように発酵させます。
発酵が済んだら、冷蔵庫で一晩寝かせましょう。
SETP3 と STEP4 の作業をさらにあと1回おこないます。
元種が120gになっていたら、強力粉と酵母液を60gずつ加えることになります。
発酵が十分におこなわれているなら、二回目以降の作業は酵母液ではなく水を使っても構いません。
これで元種の完成です。
パン作りに使うときは、この元種をベーカーズパーセントで30%を目安に使ってください。
元種はどんどん発酵力が落ちていくので、冷蔵庫で保存し、3日以内を目安に使いましょう。
仕上がり
自家製酵母で作ったパンは、発酵力が弱いので、長時間ゆっくり発酵させる必要があります。
そのためあまりボリュームは出ませんが、自家製酵母特有の風味や酸味があり、複雑な味わいが特徴です。
使う果物の種類によっては、果物そのものの風味を感じることもできるでしょう。
市販の天然酵母とは
天然酵母使用と看板に掲げているパン屋さんは、市販の天然酵母を使っていることが多いです。
自家製酵母を作るにはとても手間と時間がかかり、発酵も安定しないため取り扱うのが非常に難しいのです。
市販の天然酵母は、自家製酵母にかかる手間や時間が抑えられ、酵母の複雑な風味や味わいを引き出せるよう製品化されています。
ほとんどの製品が粉末状になっており、手軽に使うことができます。
代表的な市販の天然酵母
市販の天然酵母は使用方法も仕上がりもさまざま。
代表的なものをいくつか紹介したいと思います。
ホシノ天然酵母
有限会社「ホシノ天然酵母パン種」の製品で、商品名も「ホシノ天然酵母パン種」として販売されています。
お米由来の酵母で、国産米、国産小麦、麹や水を用いて培養・製品化した醗酵種です。
白神こだま酵母
株式会社「サラ秋田白神」が販売する製品で、世界自然遺産「白神山地」のブナ原生林から採取し、分離培養された酵母です。
添加物を一切加えない自然のままの酵母です。
あこ酵母
有限会社「あこ天然酵母」が販売する製品で、ホシノ酵母の創始者に師事し、天然酵母作りに長年携わってきた酵母職人によって生み出された天然酵母です。
作業工程
市販の天然酵母は、製品によって使い方が違います。
それぞれ見ていきましょう。
ホシノ天然酵母
酵母に対し2倍量となる30℃の温水を用意します。
そこへパン種を少しずつ入れながら、ダマにならないようにきれいに撹拌します。
28℃で24時間静置しましょう。
ぷくぷくと泡が出て日本酒のような香りがしたら完成です。
冷蔵庫で6~8時間以上寝かせてから使います。冷蔵庫で保管し、1週間以内に使い切りましょう。
白神こだま酵母
白神こだま酵母は他の製品に必要な「種起こし」が不要。
粉に対し、2%の白神こだま酵母を用意し、3倍量の温水に溶かすだけで使用することができます。
味噌のような香りが特徴です。
あこ酵母
酵母の2倍量となる40℃の温水を用意し、清潔な容器のなかで撹拌します。
27~30℃で24時間静置します。
お酒のようなにおいがしたら完成です。
出来上がったら冷蔵庫で保存します。
こちらも1週間ほどで使い切るようにしましょう。
仕上がり
次に、それぞれの天然酵母を使ったさいの、仕上がりについて見ていきましょう。
ホシノ天然酵母
冷めてもしっとりとした仕上がりになります。
ふわふわボリュームのあるパンというよりは、むっちりとした固めの仕上がりで、噛みしめるほどに複雑な酵母の香りと、天然酵母特有の酸味、優しい甘さが楽しめます。
白神こだま酵母
乳酸菌の混入がなく、一般的な天然酵母にある酸味がほとんどありません。
焼き上がりは華やかな香りがし、酵母に多く含まれるトレハロースの働きにより、油脂を入れなくてもしっとりと柔らかく仕上がります。
ホシノ天然酵母と比べるとボリュームが出やすいのが特徴です。
あこ酵母
天然酵母特有の酸味やクセはあまりなく、小麦粉の風味を生かすことができます。
ボリュームも出やすく、柔らかい仕上がりになるため、とても使いやすい酵母と言えるでしょう。
イーストとの違い
イーストは日本語で「酵母」を意味します。
酵母にはさまざまな種類がありますが、イーストはパン作りに適した酵母である、サッカロミセス・シルヴィシエという菌だけを純粋培養したものです。
天然酵母という言葉の存在で、イーストは人工的に作られたものと誤解されがちですが、イーストは決して人工のものではなく天然の生き物ということになります。
イーストは発酵に優れた菌のみを純粋培養しているため、安定した製パン工程を得ることができます。
1種類の菌だけを使って発酵させるため、風味としては雑味がありません。
一方、天然酵母は発酵力が劣るものの、1種類だけではなくさまざまな菌が含まれるため、雑味が生じます。
こういった雑味が旨味となり、味わいに面白さがでるのです。
作業工程
イーストには、生イーストやドライイースト、セミドライイースト、インスタントドライイーストなどがあり、使うイーストの種類によって作業工程も異なります。
生イーストは5~6倍のぬるま湯で溶かしてから使い、ドライイーストはぬるま湯に溶かし砂糖を加え、予備発酵させてから使います。
一方、セミドライイーストやドライイーストは、そのまま生地に混ぜて使用することができます。
仕上がり
使うイーストによってはイースト臭がするものがあります。
基本的には粉の風味を生かした生地に仕上げることができ、とても発酵しやすくボリュームのある生地になります。ふわふわとした食感も特徴です。
まとめ
いかがでしたか?
自家製酵母や市販の天然酵母は、イーストに比べると扱いが難しく、特に自家製酵母は時間と手間がかかることがわかりました。
しかし、天然酵母には特有の複雑で芳醇な香りや、旨味を感じることができます。
簡単にはいかないからこそ、できたときの喜びは大きく、自分で育てる酵母には大きな魅力があるともいえるのではないでしょうか。