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パン作りでの卵黄・卵白の効果と役割は?グルテンや焼成の影響を解説!

基本の材料に副材料を追加することでバリエーションを広げ、長い歴史のなかで数々のパンが生み出されてきました。

副材料のなかでも、卵はパンの老化を遅らせたり、ボリュームを出すことができたり、パンに風味をつけ焼き色を良くする役割があります。

卵は卵黄と卵白に分けられるため、それぞれに違った特性があるのも特徴です。

目次

卵の性質

まずは卵のおもな性質について解説していきましょう。

熱凝固性

熱凝固性とは、熱を加えることによってタンパク質などが変性し、固まる性質のことです。

卵の熱凝固性は、卵黄タンパクや卵白タンパクが熱で固まることを指しています。

それぞれのタンパク質が固まる温度には違いがあり、卵黄は65℃以上から固まり始め、卵白は70℃以上から固まり始めます。

乳化性

乳化性とは、水と油のように、本来混ざり合うことのないものが混ざり合う性質のことです。

2つの液体の一方を微粒化させ、もう一方の液体に分散させて乳化します。

乳化には二つのタイプがあり、水のなかに油滴が分散している水中油滴(O/W)型と、油のなかに水滴が分散している油中水滴(W/O)型があります。

たとえば、牛乳やホイップクリーム、マヨネーズは水中油滴型、バターやマーガリンは油中水滴型です。

乳化するためには分散したまま安定させる必要があるのですが、乳化剤となるものがあることで、元の分離した状態に戻らずに安定した状態を保つことができるのです。

卵には「レシチン」を主成分とするリン脂質が含まれており、乳化性の役割を持っています。

マヨネーズは酢と油を乳化させて作るものですが、卵の乳化性を利用した代表的な食品です。

起泡性(気泡性)

起泡性とは、泡立つ性質のことで、気泡性または起立性ともいいます。

泡立てることによって、卵白の薄い膜が空気を取り込み、気泡膜を作ります。

卵にはタンパク質が含まれていますが、タンパク質は物理的なストレスを与えることによって変性しやすいものです。

泡立てたことで気泡膜ができ、タンパク質が気泡膜をガッチリつかみ強化してくれます。

卵黄の特性

卵の性質として紹介したもののうち、卵黄のもつ特性は「熱凝固性」と「乳化性」です。

凝固性の役割は、卵黄に含まれる卵黄タンパクが熱により変性し、固まることで起こります。

一方、乳化性の役割は、卵黄に含まれるレシチンが乳化剤の役割を果たすことによって起こります。

卵白の特性

卵の性質として紹介したもののうち、卵白のもつ特性は「熱凝固性」と「起泡性」です。

熱凝固性の役割は、卵白に含まれる卵白タンパクが熱で変性し、固まることで起こります。

一方、起泡性は卵白の薄い膜が空気を含むことによって起こります。

パン作りでの役割

パン作りにおいて、卵は副材料として使われています。

パン作りでの卵の役割について紹介していきましょう。

老化を遅らせる

卵の乳化作用によって、デンプンの老化を遅らせることができます。

デンプンの老化を遅らせることは、パンの老化を遅らせることに繋がります。

詳しく解説していきましょう。

生のデンプン(β‐デンプン)は、アミロースとアミノペクチンが「ミセル構造」という結晶構造を作っています。

生のデンプンは水や熱が加わるとミセル構造が崩壊し、水分子がデンプン粒に入り込んで膨潤し、α‐デンプンとなります。

これがデンプンの糊化です。

さらに時間が経つと、再び元に戻ろうとミセル構造を形成しβ‐デンプンとなります。

この状態がデンプンの老化です。

ミセル構造を形成するさいには再び水分が失われていくため、デンプンの老化はパンの老化へと繋がってしまうのです。

パンの老化を防ぐためには、水分を保つこと、すなわちデンプンの老化を遅らせることが重要です。

焼成時に生地中のデンプンは膨潤し糊化します。

糊化したときに、デンプンのなかからアミロースという直鎖状になったブドウ糖が流れ出てきます。

このとき、乳化剤はアミロースと反応して複合体を作り、もう一度ミセル構造を作るのを防いでくれるのです。

グルテン骨格の補強

卵の持つ乳化の役割により生地の伸張性や伸展性が増します。

乳化剤であるレシチンが小麦粉に含まれるグルテンと結合して、滑りが良くなり生地の伸展性が増すのです。

伸展性が増すことで、グルテンの網目構造がしっかり形成され骨格が補強されます。

さらに焼成時には熱凝固性によって卵黄や卵白それぞれのタンパク質が固まり、グルテンの骨格も補強する役割を果たします。

ボリュームがでる(窯伸びがよくなる)

グルテンの骨格を補強することで、しっかりと炭酸ガスを包み込み外に逃しません。

逃げ場を失った炭酸ガスをしっかり包み込んだグルテン膜は、焼成するとさらに膨張し窯伸びするため、ボリュームのあるパンに仕上がるのです。

クラムに色付けする

卵はクラムにきれいな色付けをする役割もあります。

卵黄にはカロチンなどのカロテノイド系の黄色い色素が含まれています。

卵黄の色は卵によって黄色~オレンジ色とやや違いますが、これは餌の違いによるものです。

トウモロコシを餌に使っている場合は黄色に、パプリカや甲殻類を餌に混ぜている場合は赤色の強い卵黄となります。

卵黄に含まれている色素の影響で、パンは黄色味を帯びたクラムカラーとなるのです。

焼き色(クラストカラー)をよくする

パンはメイラード反応によりクラストの焼き色が茶褐色になります。

メイラード反応は、糖とアミノ酸を加熱したときに起こる褐変反応です。

生地のなかに含まれる糖とアミノ酸がメイラード反応を起こしますが、卵のなかにはアミノ酸が豊富に含まれているためより進みやすくなるのです。

また、焼成前に生地の表面にとき卵を塗ることで、クラストを黄金色にしたり色艶を良くする効果もあります。

この場合はメイラード反応ではなく、カロチンなどの色素によって焼き色が黄金色になります。

さらに卵白に含まれるタンパク質が熱で変性することで、パンの表面に薄い皮膜となり照りがでるのです。

栄養面での補強

卵は完全栄養食とよばれるほど栄養価が高い食品です。

身体の約60%は水でできていますが、残りの40%のうち約20%はタンパク質でできています。

それほどタンパク質は身体に欠かすことのできない栄養素ですが、卵にはタンパク質を構成するアミノ酸が非常に多く含まれているのです。

タンパク質を構成する20種類のアミノ酸
アルギニングリシンアラニンセリンチロシン
システインアスパラギンアスパラギン酸グルタミングルタミン酸
プロリンバリンロイシンイソロイシンスレオニン
メチオニンリジン(リシン)ヒスチジントリプトファンフェニルアラニン

タンパク質を構成するアミノ酸は20種類ありますが、そのうち体内で合成することができないアミノ酸のことを「必須アミノ酸」といいます。

必須アミノ酸は9種類あり、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、フェニルアラニンです。

必須アミノ酸は、体内で作り出すことができないため、食品から摂取する必要があります。

卵のアミノ酸スコアは100

アミノ酸スコアとは、身体に必要な必須アミノ酸の量が、食品中にどのくらい含まれているかを表す指標です。

アミノ酸スコアは100が最大で、100に近いほど身体に必要な必須アミノ酸の量が十分に含まれているということになります。

卵のアミノ酸スコアはなんと100。

小麦粉のアミノ酸スコアは38、野菜は70前後なので、卵が完全栄養食と言われるのは、アミノ酸スコアの高さにあると言えます。

食パンなど卵の入らないパンのアミノ酸スコアは、44と低い値です。

ほかの材料との兼ね合いで計算するのは難しいのですが、ここにアミノ酸スコア100の卵を加えることで、食パンのアミノ酸スコアを上げることができるのです。

旨味や風味をつける

旨味成分とは、おもにグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸のことを指します。

卵にはアミノ酸が豊富に含まれていると説明しましたが、必須アミノ酸だけでなくグルタミン酸やイノシン酸、グアニル酸などの旨味成分と言われるアミノ酸も非常に豊富に含まれているのです。

さらに卵黄には脂質が含まれるため、濃厚な味わいがコクを出します。

また、加熱調理した卵には100~200種類もの芳香族成分が確認されています。

卵を材料に使い焼成すると、卵の風味を感じることができるでしょう。

ただし、時間の経過とともに風味は段々薄くなっていきます。

卵白は量が多いとパサつきやすくなる

卵白は90%が水、残りの10%は水溶性のタンパク質です。

卵白の水分は、水和しにくく結合しない性質があり、パン生地中では自由水として存在します。

自由水は焼成後に蒸発してしまうので、パンの水分が失われパサつきやすくなるのです。

また、卵白のなかに含まれるオボアルブミンというタンパク質は、熱により凝固し、硬くパサパサした仕上がりになります。

卵白の量が多くなるほど、卵白の凝固性によりパサつきやすくなってしまいます。

パン作りにおける卵黄と卵白の適切な比率は?

通常、Mサイズの卵は卵白が56%、卵黄が32%、卵殻が12%で構成されています。

卵白は90%が水分でできており、焼成時に水分として飛びやすいです。

さらに乳化性がないうえ、タンパク質の凝固でパサパサしやすくなるので、パンにおける卵白の重要性はさほど高くありません

卵白の起泡性においてもお菓子作りでは重要となるものの、発酵によってガスを包み込んで膨らむパンではあまり必要としないのです。

卵黄と卵白の比率は卵白が60%を超えないこと

全卵で使用することはあっても、あえて卵白の割合を増やして使うということは基本的にありません。

卵殻を除いた卵黄と卵白のおおよその比率は4:6なので、これを超える卵白の割合にならなければ問題ありません。

卵はサイズによって量が変わりますが、卵黄の量はほとんど変わらず卵白だけが増えます。

そのため、サイズの大きい卵を使う場合は卵白の比率が卵全体の60%を超えないように卵黄を加え調整した方が良いでしょう。

ただし、ここで注意が必要なのが、粉に対して卵白が10%を超える場合です。10%を超えてくると、パサパサのパンになってしまいます。

卵の量を変えたくない場合、卵白を減らし卵黄の量を増やすなどして調整する必要があります。

卵ありと卵なしのパンの違いは?

レシピによっては卵が入るパンもあれば入らないパンもあります。

卵ありのパンと卵なしのパンでは、どのような違いがあるのでしょうか?

卵ありの場合

卵が入っているパンは、乳化作用によって、生地が滑らかになり伸展性が良くなります。

起泡性やグルテン骨格の補強により、窯伸びしやすくボリュームのある仕上がりになるのも特徴です。

菓子パンや総菜パン用の生地、ブリオッシュなどのリッチなパンでは特に卵のコクや香りが大事な特性となっています。

卵なしの場合

卵が入らないパンではボリュームがあまり出ず、卵の風味や香りはありません。

クラムやクラストの色も薄めになるのが特徴です。

フランスパンなどのリーンなパンは、卵を入れずに作ります。

油脂を入れることもなくほとんどミキシングすることのないフランスパンは、小麦本来の味を活かしてシンプルな材料で作られます。

食パンも小麦の風味を味わうため、基本的に卵を入れずに作るパンです。

卵黄に含まれるレシチンには伸展性を良くする効果がありますが、食パンの場合は油脂が同じ役割を果たし、砂糖が焼き色を付けます。

さらに食パンはパンチをおこなうことで窯伸びしやすくし、卵を入れずともボリュームのあるパンに仕上がります。

卵を入れ忘れたらどうなる?

本来卵を入れるレシピに卵を入れ忘れると、生地がべたつきやすくなり作業性が悪くなります。

さらに、焼成時は窯伸びしにくくなるため、ボリュームのないパンに仕上がるのです。

クラムの色は白っぽく、クラストも焼き色があまりつかないパンになってしまいます。

卵は副材料なので、卵を入れ忘れてもパンとしては成立しますが、本来の求める仕上がりとは違うパンになってしまうでしょう。

まとめ

パンに卵を入れるのは、卵黄の役割を目的とした理由が多いということがわかりました。

実際には卵黄だけを使ってしまうと、卵白だけが余ってしまうので、ほとんどのパンは全卵を使用して作られています。

自宅で卵黄と卵白の比率を調整する場合に、どうしても卵白が余ってしまったら冷凍しておくと良いでしょう。

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この記事を書いた人

医療技術系短大卒業後、バイオ系研究室テクニシャンなどを経て、現在はフリーランスのライターとして活動中です。
製パンスクールのプロコースを卒業した経歴を活かし、実践に役立つ製パン知識を、よりわかりやすく科学的にお伝えします。
食育アドバイザー、幼児食インストラクター資格保持。

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