スウェーデンの伝統的なパンの種類や名前の意味や由来を紹介!
南北に長い地形をしたスウェーデンは、北極にも近く寒さが厳しい地域です。
スウェーデンの主食はじゃがいもですが、実はパンの種類も豊富。
ライ麦を使ったパンや菓子パンなど、さまざまなパンが食べられています。
今回はスウェーデンの伝統的なパンの種類や、名前の意味や由来を解説していきます。
スウェーデンの自然と農業の特徴
スウェーデンの北部は北極に近く、寒冷であるものの、首都ストックホルムのある南東部は森林が多く自然豊かな土地です。
南東部では小麦やジャガイモを栽培し、森ではラズベリーなどの果実や野草、きのこなどがとれます。
スウェーデンの食文化
北部は寒冷で南東部は自然豊かなスウェーデン。
まずはスウェーデンの食文化について紹介します。
北部と南部の違い
北極に近い北部は農地には恵まれず、小麦の栽培には向きません。
寒さに強いじゃがいもやライ麦を栽培して主食にしたり、トナカイなどの肉やニシンをよく食べています。
厳しい寒さのため保存食が多いのが特徴で、酢漬けや燻製、フライなどさまざまな料理で食べられています。
一方、南東部では小麦やじゃがいもを使った料理を、野菜をつけ合わせに食べるのが特徴です。
主食はじゃがいも
スウェーデンの主食はじゃがいもです。寒い地域で育てやすいじゃがいもは、保存もしやすくスウェーデンでは欠かせないものです。
マッシュポテトにしたりフライドポテトにしたり、さまざまな食べ方をします。ミートボールなどに添えて食べられています。
とは言え、食卓にパンは欠かせないもので、朝はパンを食べることが多いです。
ビュッフェ発祥の地
フィンランドのパンを紹介した記事でも書いていますが、スウェーデンはビュッフェ(日本で言うバイキング)形式発祥の地なのです。
このスタイルは「スモルガスボード」と呼ばれ、「パンとバターの(またはオープンサンドウィッチを並べた)テーブル」という意味があります。
自分で好きなようにお皿に取ることを表したもので、スモルガスボードにはさまざまな料理が並びます。
詳しくは後述する「スウェーデンのパン」のルッセカットの項で紹介しますが、スウェーデンのクリスマスは「聖ルシア祭」と呼ばれるものから始まります。
豪華な料理をテーブルに並べ、食事を一度に出すビュッフェ形式で、スモルガスボードの先駆けとなったものです。
ヨーロッパでは19世紀に鉄道が開通し、人の移動が増えたためホテルやレストランが次々と建てられるようになりました。
そのときに集まった多くのお客に、一度に料理を提供できるスモルガスボードはとても重宝されたのです。
1日2回のお茶の時間
スウェーデンには、フィーカと呼ばれるお茶の時間があります。
フィーカの時間には、甘いものをつまみながらコーヒーを飲んで休憩をとります。
フィーカするときには、一人ではなく誰かとおしゃべりを楽しみながら和やかな時間を過ごすのが特徴です。
季節を大切にする
スウェーデンでは季節ごとに食べるパンがあったり、果実や木の実など季節ごとの旬を大事にする風習があります。
スウェーデンのパンとしては日本でも知られるシナモンロールがありますが、「シナモンロールの日」のように、食べ物にまつわる記念日がたくさんあるのです。
スウェーデンのパンの特徴
スウェーデンのパンはどのような特徴があるのでしょうか?
ライ麦を使ったパンが多い
スウェーデンのパンは、小麦粉100%というよりライ麦や全粒粉などの入ったずっしりとしたパンが多いです。
寒い気候のスウェーデンでは、小麦は育ちにくくライ麦などを使ったパンが多く作られています。
南東部では小麦も栽培されていますが、スウェーデン全体で見るとライ麦を使ったパンが主流です。
スパイスが効いている
パンの種類が多いスウェーデンでは、菓子パンも豊富。
スウェーデンの甘いパンと言えば、シナモンロールやカルダモンロールがあります。
ただし、日本で食べるシナモンロールのように甘さはあまり強くなく、シナモンやカルダモンのスパイスが効いているのが特徴です。
ビュッフェで欠かせないクネッケブロート
スウェーデンのビュッフェでは、必ずと言っていいほどクネッケブロートと呼ばれる薄焼きのパンが置いてあります。
クネッケブロートはクラッカーのようにパリパリとした乾パンで、1000年前から作られています。
保存食の多いスウェーデンでは、古くからシーンを選ばず身近なパンなのです。
スウェーデンのパン
ここからは、スウェーデンのパンを紹介していきます。
クネッケブロート(Knäckebröd)
“スウェーデンのパンの特徴”の項でも紹介したクネッケブロートは、クラッカーのような見た目の平たいライ麦パンです。薄焼きにしてパリッとした食感を楽しみます。
形は丸や四角などで、材料にはライ麦がよく使われていますが、ほかにも小麦粉や大麦粉などを使ったさまざまなクネッケブロートがあります。
噛むほどに香ばしく、穀物の風味や甘みを味わうことができ、食物繊維やミネラルが豊富です。
パリッ、カリッと音を立てることを「クナッケン」と言うことから名づけられたパンです。
酵母が入っていないシンプルな平焼きのパンで、1000年以上前には誕生していたと言われています。
スウェーデンでは16世紀から、クリスマスの「聖ルシア祭」ですでに食事を一度にテーブルに並べるスタイルがありましたが、19世紀のスモルガスボードの発展によって、クネッケボードはビュッフェの主食になったと言われています。
現在でも、クネッケブロートはスモルガスボードで欠かせないパンです。
保存が効くので、家庭では常備されています。
ハムやチーズ、ジャムなどをのせてオープンサンドにして朝食に食べたり、オードブルとして食べられています。
トゥンブロード(Tunnbröd)
薄く伸ばした生地を、さらに凸凹の複数の突起がついためん棒を転がして穴を開け、石窯で焼き上げた薄焼きパンです。
凸凹の突起がついためん棒で穴を開けることで、焼いたときに生地が膨らまず、薄焼きの状態に仕上がります。
Tunnは「薄い」、brodは「パン」を意味します。
その見た目から名づけられたパンです。
トゥンブロードは石窯を使って短時間で焼き上げるのが特徴で、昔は石窯のあるパン焼き小屋で地域の人たちが集まり、一年分のパンを焼いていたと言われています。
バターを塗って食べたり、マッシュポテトやソーセージ、サラダなどを巻いて食べます。
具材を巻いたものは、トゥンブローズルッレと呼ばれ、スウェーデンの代表的なストリートフードです。
カネルブッレ(Kanelbulle)
カネルブッレは、いわゆるシナモンロールのことです。
生地を薄く長方形に伸ばし、バターを塗ってシナモンや砂糖をたっぷりまぶしてロール状に巻きます。
巻いた生地を2cmほどの幅にカットし、断面を上にしてパールシュガーをトッピングして焼きあげます。
形は渦巻きだけでなく、三つ編みをねじって成形したものもあります。
また、シナモンだけでなくホールのカルダモンを入れるものもあるなど、さまざまな種類があるパンです。
日本でも馴染みのあるシナモンロールですが、実はスウェーデンが発祥の地なのです。
カネルブッレの誕生は1920年頃。
当初は高級な菓子の扱いでしたが、1950年代になると小麦粉や砂糖の価格が下がり庶民にも広がります。
パン屋やカフェなど、どこにでも置いてあるカネルブッレは、家庭でも作るほど親しまれているパンです。
また、毎年10月4日は「カネルブッレ(シナモンロール)の日」。
1994年に、スウェーデンのホームベーカリー評議会が創立40周年を記念して設立したとされています。
カネルブッレの日は、カネルブッレが大好きなスウェーデン人の間で瞬く間に広まり、この日にはカネルブッレを買ったり自宅で作って食べられています。
牛乳やコーヒーなどと一緒に食べます。
カネルブッレは、特にカネルブッレの日になると多くの人が食べますが、日常的にも人気で馴染み深いパンです。
カルデムンマブッレ(Kardemummabulle)
シナモンロールであるカネルブッレのカルダモン版が、カンデムンマブッレです。
カネルブッレには少しカルダモンを加えることもありますが、カンデムンマブッレはカルダモンのみで作ります。
カンデムンマブッレに使うカルダモンはホールのものを挽いて使うことが重要で、カルダモンの香りが強く爽やかに広がります。
形も似ているカネルブッレとカンデムンマブッレ。
カネルブッレはパールシュガーをトッピングしていることが多いのですが、カンデムンマブッレはグラニュー糖をトッピングして区別してあることが多いです。
Kardemummaは「カルダモン」、bulleは「菓子パン」を意味しています。
人気のカネルブッレのアレンジとして作られるようになったのが、カンデムンマブッレ。
カネルブッレと同じくスウェーデンを代表する菓子パンで、パン屋やカフェには必ずと言っていいほど置いてあります。
シナモンロールとして知名度の高いカネルブッレと比較すると、他国ではあまり馴染みのないパンですが、スウェーデンではカネルブッレに引けを取らない人気となっています。
牛乳やコーヒーなどと一緒に食べます。
カネルブッレと同じく、日常的におやつとして食べられています。
ルッセカット(Lussekatter)
ルッセカットはスウェーデン風のサフランパンのことです。
バターや牛乳などが入ったリッチなパンで、サフランで色付けしているため、ほんのり黄色をしています。
棒状にした生地をS字に成形し、渦のなかにレーズンをトッピングして焼き上げます。
ルッセカットとは「ルシアの猫」という意味。
S字の形は猫のしっぽの形を表しているという説や、古代の模様を表しているという説があります。
名前の由来については、実ははっきりとはわかっていません。
猫に化けた悪魔から子供たちを守る魔よけの目的や、悪魔が配っていたパンを悪魔の猫と呼んでいたことに対し、ルシアが配るパンを「ルシアの猫」と呼ぶようになったという説などがあります。
ルッセカットは、12月13日におこなわれる「聖ルシア祭」では欠かせないパンです。
16世紀にグレゴリオ暦が改定されるまで、北半球の一年でもっとも夜が長い冬至の日は12月13日でした。
聖ルシア祭は、光の聖人である「ルシア」を祝う“光の祭り”なのです。サフランで黄色に色付けしているのも、暗闇を照らす光を表現しています。
スウェーデンでは、クリスマスの始まりのイベントとして聖ルシア祭がおこなわれています。
聖ルシア祭では、早朝に白いドレスを着て「聖ルシア」になった女の子と、星の使いになった男の子が教会から歌いながら行進し、家々や病院などを回ってルッセカットを振る舞います。
また、スウェーデンではクリスマスの始まりのことを「ユール」と呼び、聖ルシア祭ではユールボードと呼ばれるたくさんの料理がビュッフェ形式で並びます。
スウェーデンでは、クリスマスの時期が始まるとジンジャークッキーなどと合わせて食べられています。
ルッセカットは、コーヒーやホットワインと一緒に食べるのが人気です。
セムラ(Semla)
セムラはスウェーデンを代表する菓子パン。
パンに切れ込みを入れ、中にはアーモンドクリームと生クリームを挟みます。
見た目はシュークリームのようですが、パン生地にはカルダモンを使用していたりとスパイスが効いており、見た目ほど甘くはありません。
セムラはスウェーデンの伝統的な菓子パン。
キリスト教ではイースターの45日前から断食に入る風習があります。
断食に入る前に栄養をつけるために、断食前の火曜日に食べていたのがこのセムラです。
この日はFettisdagen(フェッティスダーゲン)と言って「脂肪の日」や「太っちょの日」などと表現され、セムラの日と呼ばれています。
イースターは毎年日付が変わるため、セラムの日も年によって違います。
現在ではクリスマスが終わってから、イースターまでの間に日を問わず食べるようになり、セムラは春の訪れを告げる食べ物となっています。
クリスマスが終わって1月に入ると、街にはセムラが売られるようになります。
この時期のフィーカ(お茶休憩)では、セムラが定番。コーヒーと一緒にフィーカして楽しみます。
まとめ
スウェーデンには、ライ麦を使ったシンプルな味のパンや、シナモンやカルダモンなどのスパイスを使用したパン、菓子パンなどさまざまな種類のパンがあります。
季節や風習を大事にするスウェーデンでは、パンの名前のついた記念日や、お祝いで食べるパンもたくさんありますね。主食はじゃがいもですが、パンは食卓に欠かせない食べ物なのです。