インドのパンはなぜ平べったい?インドのパンの特徴や種類を紹介!
日本にも数多くのインドカレー専門店があり、一緒に食べるナンは日本人にとって非常に馴染みのあるパンではないでしょうか?
インドでは、基本的に平べったいパンが主流。インドに平べったいパンが多いのは、無発酵パンが多いためなんです。
ここでは、インドのパンについて特徴や種類を紹介していきたいと思います。
インドのパンとは
日本でもよく知られているナンを始め、インドにはさまざまなパンが存在します。
しかし、ナンのように発酵させて作るパンは実は少数派で、インドのパンのほとんどが無発酵パンなんです。
特に北インドでは、全粒粉やトウモロコシ粉、雑穀粉などの粉と水だけでパンを作り、酵母などは加えません。
酵母を使わない無発酵パンであるため、生地を寝かせる必要はなく、平たく伸ばしたらすぐに焼いて食べるのが特徴です。
また、インドでパンはそのものの味を楽しむだけでなく、食べ物を包み込んで口に運ぶためのものという役割を担っているのです。
このように、インドのパンは全粒粉などを使用した無発酵パンが主流で、日本人の多くが知っているナンは、実はそれほどインドで食べられているパンではないのです。
詳しくは「インドのパン」の項で紹介しますが、ナンは精製された白い小麦粉を使い、専用の窯で焼く必要があるため、家庭では食べずにレストランなどで食べる高級なパン。日常的に食べられているパンではありません。
インドの食文化
広大な土地を持つインドですが、インドの料理は大きく分けると北インド料理と南インド料理に分けることができます。
北インドの食文化
北インドの主食は、材料に全粒粉を使って発酵させずに平たく伸ばして焼いたチャパティなどを中心としたパンです。
夏でも涼しく乾燥した気候の北インドでは、小麦の栽培が盛んで、インダス川流域では5000~4000年前には小麦や大麦の栽培が始まったようです。
穀倉地帯で首都・デリーもある北インドでは、さまざまな種類のパンが食べられています。
パニーニというチーズやギーと呼ばれるバターなど、乳製品やこってりとした汁気のない食べ物が多いのが特徴で、主食のパンと一緒に、豆の煮込み料理などがよく食べられています。
基本的にパンを主食としている北インド。
米も食べますが、主食としてではなくデザートやおかずの材料に使われていることが多いです。
南インドの食文化
南インドの主食は、インディカ米を中心とした米です。
夏には40℃を超える地域がある南インドは、小麦の栽培には向かず稲作が盛ん。
炊いたお米を主食として食べるだけでなく、パンの材料としてもお米が使われています。
南インドのパンは米粉やウラドダール粉をベースにした生地が多く、発酵させたり蒸したりして作るのが主流です。
南インドでは、香辛料のきいたおかずをよく食べており、スパイシーな料理をまろやかにするハーブやココナッツミルク、ココナッツオイルもよく使われています。
熱帯気候で小麦の栽培には向きませんが、野菜や果物の栽培には適しており、よく食べられています。
さらに、ベンガル湾やアラビア海、インド洋に囲まれた土地で魚介類も豊富です。
香辛料を使った料理が多い
香辛料を使った料理は南インドに特に多いのですが、インド全域で食べられています。
16世紀にムガル帝国が誕生すると、帝国中のさまざまな国の影響で食文化が発展しました。
ムガル帝国とは、モンゴル系のイスラーム教国家であるティムール朝の王子「バーブル」によって建てられた、インドのイスラーム王朝のこと。
ムガルは「モンゴル人の」という意味があります。
バーブルは北インドに侵入し、デリーを拠点として帝国を創始しました。
ムガル帝国が全盛期を迎えるのは、第3代皇帝アクバルのころ。
アクバルはイスラーム教とインドの民族宗教であるヒンドゥー教との融和を図ったことで知られています。
ムガル帝国は、16世紀末には北インドの全域を、17世紀末にはインド最南端部を除くインド亜大陸を支配するまでになります。
世界遺産「タージ=マハル」は、ムガル帝国時代に建てられたもの。
ヨーロッパやアジア諸国とも関係を結ぶなど、大きく発展した時代なのです。
何種類ものスパイスを巧みに使った料理もこのとき誕生したのです。
インドでは各家庭で香辛料の種類や組み合わせなど、季節や体調に合わせて選びます。
香辛料は保存料や薬として利用されていたり、消化を促進するなど健康増進としても役立てられているのです。
また、インドにはアーユルベーダという古代インドの伝統医学があります。
サンスクリット語で、アーユルベーダは生命科学の意味。
健康で長生きをするために、治療よりも予防に重点を置く考え方です。
アーユルベーダは、香辛料の使い方などの食生活にも大きく影響を与えています。
インド料理と言えばカレー?
インド料理と言って、まず思い浮かべるのはカレーではないでしょうか?
ところが、インドには本来カレーというものはないのだとか。一体どういうことなのでしょう?
カレーというのは、ソースという意味のタミル語の「カリ」が由来の言葉。
それをイギリス人が英語に取り入れ、イギリスがインドを植民地にしていた頃にインドの汁物や煮物に対して使っていました。
インドの煮込み料理は日本のカレーのようにとろみのついたものは少なく、さらさらとした汁物か、反対に汁気のないものが多いです。
このような料理を、私たち日本人は香辛料の効いたカレーだと思っているのですが、本当はそれぞれに名前がついているのです。
インド人は自分たちの食べる料理をカレーとは言いませんが、観光客向けの店では○○カレーというように、汁物や煮物の料理をカレーと名づけています。
ちなみに、日本のカレーは実はインドから来たものではなく、明治時代にイギリス海軍が持ち込んだという説が有力です。
イギリス海軍は船の上でクリームシチューを食べたかったのですが、牛乳は日持ちがしないため積むことができません。
その代わりとして、インドの香辛料を使ってシチューと同じ具材を煮たのが日本のカレーになったと言われています。
食事には必ず甘いものを食べる
インドでは主食のパンまたは米とサンバルという野菜と豆の煮込み、スープなどに加え、食事に必ず1品は甘いものを取り入れるのが特徴です。
お米で作ったお菓子などが主流で、最初に甘いものを食べることで辛い料理も一口目がマイルドに感じ、その後の食事が食べ進めやすくなります。
また、客人には甘いものでもてなさないと失礼にあたると考えられています。
インドのパンの特徴
インドのパンは、薄く伸ばして焼く無発酵パンが多いのが特徴です。
精製された白い小麦粉は贅沢品で、日常的にはアタという全粒粉を使ったパンが食べられています
インドでは、都市部を除くとパンを売っている場所は少ないため、家庭で毎食のようにパンを焼いています。
このようなことからも、家庭で食べるパンはすぐに作ることができる薄焼きの無発酵パンが主流となっているのです。
インドにも食パンのような発酵パンはありますが、日本で食べる食パンよりやや小ぶりで、8枚切りよりも薄くカットするのが特徴です。
その理由はインドがイギリスの統治下にあったからだと考えられます。
日本の山型食パンは別名イギリスパンと言い、イギリスの食パン(ティンブレッド)が由来となっています。
しかし、イギリスの食パンは実は日本の山型食パンよりも小さく、厚みも1cm以下にカットしてカリカリにトーストして食べるのが主流です。
インドでは、このようなイギリスの影響を受けた食パンが食べられています。
インドのパン
インドのパンは平べったい無発酵パンが多いのが特徴ですが、発酵パンにも人気のパンがたくさんあるんですよ。
ここでは、インドのパンを無発酵パンと発酵パンに分けて紹介したいと思います。
また、パンの名前の表記については、北インドで主に使われているヒンディー語がメインですが、インドにはヒンディー語のほかにも21もの公用語が使われています。
そのため、一部のパンにはヒンディー語以外の表記も含まれています。
インドの無発酵パン
チャパティ(चपाती)
インドの家庭で日常的に食べられている無発酵のパン。
アタ粉という小麦全粒粉に塩と水のみで生地を作り、発酵させずに丸く薄く伸ばした生地をフライパンなどで焼いて作ります。
あっさりとしながらもコクがあるのが特徴です。
北インド地域の家庭で、日常的に食べるパンとして欠かせないチャパティ。
そのため、インドの女性は結婚前に母親からチャパティの作り方を習い、作れるようになっておきます。
チャパティは右手を使って一口大にちぎり、煮込み料理などをつけて食べます。
パンを一口大にちぎってから食べるというテーブルマナーは、このようなチャパティの食べ方からきているようです。
焼きたての熱い状態で、手で一口大にちぎってカレーと一緒に食べます。
屋台でカレーと一緒に売られていて、朝食に食べる人も多いです。
甘さのないシンプルな生地なので、どんな具材のカレーにも合わせやすいパンです。
ロティ(रोटी)
チャパティと同じく、アタという小麦全粒粉を使用した無発酵のパンです。
材料が同じで、チャパティとロティは同じものという考えもありますが、地域によってさまざまな考え方があるようです。
ロティとは、サンスクリット語で「パン」の意味。
そのため、一つのパンの名称としてだけでなく、パンの総称としてロティと呼ぶこともあります。
地域によっては、アタではなくほかの種類の小麦粉を使っている場合もありますが、前述のとおりチャパティとロティは一般的には同じ材料であるため、同じ食べものを地域によって呼び名を変えていたり、形の違うパンの名称として使われていたりもします。
普通のロティは家庭で作って食べますが、タンドール窯で焼くロティはタンドーリー・ロティと呼ばれ、お店でないと食べられません。
チャパティと同じく、焼きたてを右手で一口大にちぎって食べます。
日常的に食べられているシンプルなパンで、さまざまなカレーと相性が良いです。
プーリー(पूरी)
プーリーは、チャパティの生地を油で揚げたパンです。
小さな円盤状に伸ばし、やや低温でじっくりと揚げます。
少し低めの温度で時間をかけて揚げることで、生地は空気を含んで良く膨らみ、香ばしくサクサクとした食感となります。
北インドで主食として食べられている揚げパン。
来客時のおもてなしやお供えとして使われたり、副菜やデザートを添えてお祝いの席でも登場します。
手でちぎって野菜やレンズ豆などのあっさりしたカレーと一緒に食べます。
屋台でカレーと一緒に売られていて、朝食に食べる人も多いです。
また、儀式のときにもよく食べられています。
パーニープーリーというスナックとしての食べ方も人気。
プーリーの生地を小さく丸めて油で揚げ、中身が空洞の球状になったら油から上げ、上部に穴を開けます。
そこに、パーニーと呼ばれるソースを流して食べるのです。
パーニーには甘酸っぱいものと辛いものがあり、プーリーのなかにもジャガイモや豆などの具材を入れることもあり、さまざまな食べ方を楽しむことができます。
パラーター(पराठा)
インド式のクロワッサンと呼ばれているパン。
直径30cmほどの円盤に伸ばしたチャパティの生地に、ギーと呼ばれる油脂を塗り、小麦粉をふって半分に折るという作業を2~3回ほど繰り返し、何層にもして焼き上げます。
家庭ではフライパンで何度も返しながら焼きますが、レストランなどではこの形に限らず、タンドール窯を使って焼くこともあります。
プレーンで食べることもありますが、中にじゃがいもやカリフラワーなどさまざまな具材を挟んで食べることもあります。
腹持ちが良く、朝食として食べられています。
子どものお弁当として持たせることもあり、人気のパンです。
インドの発酵パン
ナン(नान)
インドのパンの中では珍しく、精製された白い小麦粉にイーストを使って発酵させた生地を使用しています。
大きな木の葉のような形や円盤状などに伸ばし、窯で焼きます。
バターなどの油を使っているため、あっさりとしながらもコクがあるのが特徴です。
ナンはペルシャ語で「パン」の意味です。
インドのパンの代表というイメージのあるナンは、実はインド発祥のパンではなく、正確にはイラン発祥のパンです。
インドのほかに、アフガニスタン、パキスタン、イランなどでも食べられており、ペルシャ文化の影響を受けた地域ではパンのことをナンと呼びその種類や形も様々。
日本で見かける木の葉のような形は、インド周辺の国で見られるもので、インドでは丸い形が一般的です。
イランでは今から8000年も前から食べられているペルシャ料理のひとつで、ムガル帝国がインド一帯を支配していたころにイランから持ち込んだと言われています。
全粒粉などを使ったパンを食べることの多いインドでは、白い小麦粉は贅沢品。
そのため、ナンはもともと庶民が食べるものではなく、北インドにあるパンジャーブ地方で宮廷料理として食べられていました。
ナンを焼くにはタンドールと呼ばれる大きな壺のような形をした窯が必要で、窯の内壁に張り付けて高温で焼きます。
家庭で作ることはなく、レストランで食べるか購入して食べるのが一般的です。
庶民も食べるようになった今でも、現地では高級パンの位置づけで、結婚式などのお祝い事でも欠かせないパンです。
ナンは焼きたての熱い状態で、手でちぎって食べます。
スパイス料理との相性が良く、おもにカレーと合わせて主食として食べます。
プレーンなナンの他にも、なかにニンニクやバターを入れたもの、ケシの実やゴマをトッピングしたものも人気です。
クルチャ(パンジャーブ語:ਕੁਲਚਾ)
ナンと同じ生地でなかに具材を詰めるか、トッピングをして焼いたパンです。
手のひらサイズに薄く伸ばして焼く場合や、大きく広げて焼いて4等分ほどに切って食べられています。
チーズをたっぷり包んだクルチャは、まるでピザのようなパンです。
マイダという精製された白い小麦粉を使用しているのが特徴。
発祥はマイダが生産されるインド亜大陸と言われており、おもに北インドのパンジャーブ地方で食べられています。
そのままでも美味しいクルチャですが、チャナマサラという豆の煮込み料理と一緒に食べるのが、パンジャーブ地方の代表的な食べ方で、おもに朝食で食べられています。
バトゥーラー(भटूरा)
大きく膨らんでなかに空洞があるのが特徴的な揚げパン。
ナンと同じ材料で作った生地を30分ほど寝かせ、分割して丸めたら、食べる直前に丸く伸ばして油で揚げます。やや厚みがありもっちりとした食感が特徴です。
北インドのパンジャーブ地方では、結婚式の料理としてよく振る舞われています。
インド全域で朝食として食べられています。非常に食べ応えがあり、辛いカレーと相性が良いです。
また、「チョーレー」と呼ばれるひよこ豆のカレーと一緒に食べるのが主流で、一緒に盛り付けた料理は「チョーレーバトゥーレ」と呼ばれています。
パパド(पापड)
レンズ豆やヒヨコ豆の粉に水、塩、こしょうを混ぜた生地を薄く伸ばして干し、油で揚げたり焼いたりして作ります。
パパドはスーパーなどに売ってある加工品で、基本的に一から手作りをするものではなく加工品を買って家庭やレストランなどの飲食店で最後に加熱だけして食べます。
インド料理を出す海外のお店では、おつまみや前菜として食べられています。
インドでは地域によって食べ方が異なり、北インドでは食後に食べますが、南インドでは料理の付け合わせとして食べられています。
生野菜やグリーンチリを刻んだものにレモンと塩で味付けした、マサラパパドという料理と一緒に食べることも多いです。
ドーサー(दोसा)
米と豆を吸水させてペースト状にし、少しおくことで発酵させた生地をクレープのように焼いたパンです。
薄く焼いてクルクルと巻いており、サクサクとした食感と程よい酸味が特徴です。
インド全域で食べられていますが、元々は稲作が盛んな南インドの伝統料理です。
南インドでは特に主食のひとつとして食べられることが多いです。
ドーサーは、米や豆に付着している乳酸菌や酵母菌によって生地を発酵させて作るパン。
気温の高い南インドでは、常温で発酵させます。
特に乳酸菌による発酵が強く、乳酸発酵によって得られる乳酸によって酸味のある味わいとなります。
乳酸菌の発酵が主なため、クレープ状に焼いたドーサーは発酵パンと言えど大きく膨らむわけではありません。
クレープをくるくると巻いたような形状をしているドーサーですが、薄く焼いて具をのせた後にくるくると丸めて食べることもあります。
また、レンズ豆などを煮込んで作るサンバルというカレーや、ココナッツチャツネというココナッツを使った香辛料の効いたディップなどの副菜と一緒に食べられています。
イドゥリー(इडली)
ドーサーと同じく米とウラドダールという白レンズ豆をペースト状にし、発酵させた生地を原料とした具のない蒸しパンです。
蒸す際は、金属製やシリコン製などのイドゥリー型に生地を8分目程流し入れて蒸し上げます。
非常に柔らかいのが特徴です。
イドゥリーは主に南インドで主食として食べられています。
その発祥については、おおまかにはインド亜大陸とされていますが、詳細についてはさまざまな説があり、タミル・ナードゥ州やカルナータカ州、さらにはインドネシアなどはっきりしたことはわかっていません。
ヨーグルトを入れて作るレシピもありますが、基本的にはドーサーと同じく、米や豆に付着する乳酸菌と酵母菌による発酵によって作られています。
朝食や軽食として食べられており、ドーサーと同じようにサンバルというレンズ豆などを煮込んで作るカレーや、ココナッツチャツネというココナッツを使った香辛料の効いたディップを添えて食べます。
ウッタパム(ஊத்தப்பம்)
ドーサーと同じ材料で作りますが、薄いクレープ状に焼くドーサーに対し、ウッタパムは厚みがあり、インド風お好み焼きとも例えられています。
もちもちとした食感が特徴です。
ドーサーやイドゥリーと同じく、南インドでは主食として食べられており、酸味のある具材を混ぜて焼いたり、付け合わせとして添えて一緒に食べられます。
気温の高い南インドでは、このような酸味のある具材を組み合わせたパンが多く、さっぱりとした味が好まれます。
主食としてはもちろん、軽食としても食べられています。
サンバルというレンズ豆の煮込み料理やチャツネという酸味のあるディップと一緒に食べられることが多いです。
まとめ
広大な土地を持つインドでは、北インドと南インドでも食文化に違いがあります。
基本的にはアタという全粒粉を使った無発酵パンが食べられており、発酵パンにもほかの国々とは一線を画すものが多くあります。
意外にも、ナンはインド発祥のパンではなく、インドでもそれほど食べられているパンではないことがわかりました。