100%中種法とストレート法で作った生地を低温長時間発酵させるのは何が違う?
パンをつくる手法にはいくつか種類があります。
製法を変える事により作り方によって出来上がった時の生地の特徴が大きく変わってきます。
その中から、今回はそれぞれよく使われる方法をいくつかまとめていき、それぞれの特徴を知る事でみなさんそれぞれが自分に向いている方法を見つける参考にしていただければと思います。
今回の記事の意図は、100%中種法はストレート法の生地を冷蔵庫で一晩寝かせること(オーバーナイト法)と勘違いしている方がいらっしゃいましたので、それぞれの製法を詳しく掘り下げてどう違うのかという疑問を明確にしていきたいと思っています。
はじめに結論を述べますと、
「100%中種法」と「ストレート法で作った生地を長時間発酵させる」ことは別物です。
中種法は小麦粉・水・イーストのみを使います。100%中種法でもそれは変わりません。
ストレート法の生地には副材料も含まれるため、100%中種法とは別物です。
ストレート法と中種法
まず、生地を作る際の手法としてざっくり大きく分けますと、ストレート法と中種法という作り方があります。
その中でさらに作り方が分岐していくのですが、今回はストレート法と中種法にフォーカスを当てていきます。
まずはそれぞれの製法の特徴を掴んでいきましょう。
ストレート法
ストレート法とはその名の通り、ミキシングから始まり発酵を経て焼成という流れをストレートに1度の工程で完結させていくというやり方になります。
ホームベーカリーを使うときなんかには、短時間で作ることのできるこちらのストレート法がメインの作り方になると思います。
流れとしては、
- ミキシング
- 一次発酵
- 成形
- 二次発酵
- 焼成
といった感じとなり、一度にパンを完成できるので非常にシンプルです。
出来上がったパンは、発酵時間が比較的に短いために小麦本来の味をしっかりと感じることのできます。
その代わりに気候など環境の影響を受けやすく、手軽で早く作れる反面、老化という時間がたつと起こるパサつきが早く起こりますので早めに消費した方が美味しく食べられます。
ではそれに対して中種法とはどういう製法でしょうか?
中種法
中種法は事前に熟成させた生地(種)を仕込んでおき、本こね生地に加えて混ぜ合わせて作るやり方のことです。
パンを作る前に、発酵種という、ミキシングした生地を低温で長時間かけて少しずつ発酵させることによって、普通のストレート法では再現できない特徴を持った生地を仕込み、それから本こね生地と混ぜ合わせていきます。
中種法の原則として種は50%以上使用することと、熟成させる時間は2時間以上となっています。
工程は、
- 中種作り(小麦粉・イースト・水)
- 本こね生地作り
- 一次発酵
- 成形
- 二次発酵
- 焼成
となります。
中種法は生地が老化しにくい
こちらの方法でつくる種は小麦粉・イースト・水、という非常にシンプルな材料をミキシングし、低温でゆっくりと熟成させます。
この方法で作ると生地が老化しにくく、時間がある程度経ってしまってもふっくら柔らかい食感が持続しやすいのが特徴の製法です。
なぜ新しい生地と混ぜ合わせる?
中種法は、原則として種生地の割合を50%以上を含ませることを言います。
では、なぜ新しい生地と混ぜ合わせるかと言いますと、熟成させた生地と新しい生地では性質が異なるためです。
ストレート法では発酵時間が短ために小麦の味が引き立つようになるのですが、種生地は発酵に時間をかけているため、新鮮な小麦の味は相対的に少なくなります。
中種法は失敗しにくく大量生産向け
熟成させる中種の材料は非常にシンプルで、小麦粉、イースト、水のみを使います。
長時間熟成をするために、余計な材料が入れないことでイーストが栄養を安定的に取り込みやすくしてくれます。
ですので、たくさん作りたいときなどに生地が安定しているために失敗しにくく、大量生産に向いているわけです。
その特徴を利用して、工場などの大量生産するときにはこちらの方法が使われます。
中種法は水和が進む
低温で長時間熟成させると、水分を芯まで取り込む水和という現象がおきます。
時間をかけることで水分が蒸発しにくくパンのしっとり感を長時間保つことができます。
熟成は原則として2時間以上です。
この熟成の時間をどれくらい取るのかによって、生地を調整することができます。
パンの美味しさに影響するのは熟成と水和
この2つの製法を比較して見てわかるのは、パンの美味しさに大きな影響を与えるのは熟成と水和です。
小麦粉を長い時間をかけて水と混ぜ合わせる事により、芯まで水分を吸います。
するとグルテンの結合が強固になり、水分を離しにくくなるのです。
そうなる事で、パンにしっとり感が持続しやすくなります。
また小麦と水を混ぜる事でデンプンを糖に分解し、甘みが増えていきます。
本こね生地となる新しい生地は、小麦本来の新鮮な風味を強く持っています。
そのため、熟成した種生地と合わせることで互いの強みを絡ませて、より多彩な味を作ることができるのです。
この2つの製法をまとめますと、
ストレート生地は、グルテンの芯まで水分を取り込まれないために結合力が比較的にゆるく、小麦の風味が香る口どけのよいソフトな食感となります。
中種の比率が多いほど、もっちり感やしっとり感が増えていき、発酵の熟成した旨味が強い味わい深い食感となります。
割合を少なくするほど新鮮な小麦の風味が際立つようになります。
そして時間をかけて熟成させることで、ストレート法と比べても時間がたっても乾燥してボソボソしにくいパンにすることができます。
100%中種法の副材料を入れるタイミング
先ほど中種法は50%以上を使うとお伝えしましたが、100%中種法も可能です。
そこで疑問が出てくると思います。
中種は、小麦、イースト、水のみでパン生地を作るということで、中種100%の場合、どのタイミングで副材料を投入していけばいいのでしょう?
そのタイミングとは、中種法の項目でも少し触れましたが、あちらは熟成後にストレート生地と混ぜ合わせます。
すなわち熟成が終わった後です。
例えば、ミキシングの後、1~2時間室温で発酵させて冷蔵庫で12時間熟成させます。
そのあとに取り出したものに副材料を混ぜていきます。
中種はなぜ事前に副材料をいれない?
なぜ事前に副材料を入れないのでしょうか?
材料にはそれぞれイーストになんらかの効果を与える特徴があるために、長時間熟成する過程で、それらの材料が安定的な発酵の妨げをしてしまうためです。
シンプルな材料だけで熟成させることでイーストが非常に快適に発酵をすすめてくれます。
中種法は安定させて生地を発酵させるために生まれた方法です。
ストレート法のように材料を混ぜてから熟成させてしまいますと副材料が生地に与える影響を受けて、一定の品質を維持するのが少し難しくなるのです。
この生地の特徴は、長時間かけることによりグルテン膜が強固に結合していきますのでしっかりと弾力のある生地に仕上がり、しっとり感ともっちり感が引き立つ食感に仕上がります。
オーバーナイト法(長時間低温発酵法)
これまでストレート法と中種法についてそれぞれまとめてきました。
ではもう一つ、二つの方法にさらに一つ、加える事によってパン作りの幅が広がります。
それがオーバーナイト法です。
オーバーナイト法とは、長時間低温発酵法とも言い、パンをその日に作りきるのではなくさらに一晩熟成させることです。
とてもシンプルですね。
オーバーナイト法は、パン職人が1日でパンをいくつも作ることが大変だっために、作業を次の日と分ける事で一度で行う作業時間を短くするために考え出された方法と言われています。
グルテンを形成するための方法として
- しっかりとこねる事による圧力での形成
- 時間をかける事で強固にしていく習性を利用する
があります。
オーバーナイト法は、この2の方法を利用するのです。
時間をかけてグルテンが自然に結びついていく特性を利用していくため、ストレート法で作るよりもあまりしっかりとこねる必要がなくなります。
オーバーナイト法(長時間低温発酵法)のメリット
長く発酵させる時間が取れるために、イーストが発酵できる時間が長いために様々なメリットが生まれます。
- イーストが少なくても十分に発酵する
- イーストがデンプンを糖に変えるのでより甘みがでる
- 熟成により味に深みが出る
- 水和ができてしっとりした生地に仕上がる
5度〜10度の間で長時間寝かせる事により、グルテンをしっかりと作り上げていきます。
そうして一晩寝かせてあげて生地温度を15〜20度くらいまで室温で休ませてから再び作っていきましょう。
注意としては、寝かせすぎると雑菌の繁殖や、熟成による酸味が増えるため、やりすぎもよくありません。
なので48時間以内に抑えた方がいいとされています。
このようにオーバーナイト法は作業の手間を減らしてくれるのに、美味しいパンが作れる素晴らしい製法です。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
いつもと同じ材料を使っても、製法を変えるだけで全く仕上がりの違うパンを作ることができます。
それぞれの製法も、実際にはどれもシンプルで気軽に試せそうですよね。
これらの製法をぜひ試してみてパン作りの幅を広げてみてください。