酵母や酵母エキスなどの発酵分野において、170年もの歴史を持つ『ルサッフル』。
通称“赤サフ”や“金サフ”と呼ばれている製パン用イーストを使ったことがあるという方も多いのではないでしょうか?
パン作りをしたことがある方なら一度は耳にしたことがあるルサッフル。
ここでは、フランスの老舗イーストメーカーである『ルサッフル』の歴史を紹介します。
ルサッフル(LESAFFRE)とは
ルサッフルとは、フランスの発酵および微生物のグローバル企業です。
老舗イーストメーカーとして世界ではシェア率No.1を誇り、これは全体の約24%を占める割合となっています。
フランス国内でのシェア率は、残念ながら調べてもたどり着くことができませんでしたが、フランス発祥であることからより高い割合での使用が考えられます。
ルサッフルのイーストとは
ルサッフルは、世界で初めて家庭で一般的に使われるインスタントドライイーストの販売を開始し、2025年現在で50年が経過しています。
日本ではおもにサフブランドとして通称赤サフ、金サフという名前で知られていますが、世界的にはリロンデルブランドが有名です。
リロンデルブランドは1895年に設立し、特にフランスパンやバゲットの製造に適しています。
ルサッフルの歴史
世界No.1シェアを誇るルサッフルは、誕生から170年もの月日が流れています。
ここからは、ルサッフルの歴史について紹介していきます。
1853年 創業
1853年、実業家のルイ・ルサッフルと後の世界的食品ブランド『Bonduelle』の一族であるルイ・ボンデュエルによって、フランス北部のマルケット・レ・リールで『ルサッフル』を創業しました。
2人ともフランス北部で農業に従事していた家系に生まれ、地元での事業展開として当初は穀物アルコールとジンの製造をおこなう企業として設立されました。
1863年 蒸留所の転換
1863年、フランスのリール北部のマルク・アン・バルールにある製粉工場を買収し、蒸留所へと転換しました。
製粉工場は穀物の加工をおこなう施設であるため、穀物を発酵させてアルコールを製造する工場へと転換するには再構築しやすかったことが伺えます。
この蒸留所は、現在歴史文化遺産に登録されています。
1895年 リロンデルの販売開始
最初はアルコールの製造を主におこなってきましたが、オーストリアの最新の発酵プロセスについて知識を得ると、パン酵母の製造を開始します。
パン酵母の製造を始めた時期については、残念ながら明確な情報が得られませんでしたが、パン酵母の製造を始めた直後の1895年、フランスでリロンデルの販売を開始しました。
リロンデルはパン業界の労働時間や環境の変化に伴い、長時間発酵に適したセミドライタイプのイーストとして開発されました。
リロンデルとは日本語でツバメを意味します。ルサッフルのブランドロゴにもなっているツバメですが、本国でリロンデルは『リロンデル1895』という名前で、現在ルサッフルを代表する商品となっています。
1923年 イーストとモルト事業に注力
1923年、フランス政府が穀物アルコールの購入価格を大幅に引き下げることを決定したことを受け、ルサッフルはこれまでおこなっていたアルコール事業を撤退し、イーストとモルトの事業に注力します。
アルコールを製造する工場からグランデ・マルティー・モデルヌという名前で麦芽工場へと変換しました。
また、マルク・アン・バルールで初めてモラセス(糖蜜)を使用したイーストの生産を開始しました。
1963年 ルサッフルの海外展開を開始
ルサッフルの酵母製品は、ルサッフル4代目への引継ぎ後にアフリカや中東、アジアに輸出するようになり、1963年にはイタリアのイースト工場であるソシエタ・トレンティーナ・リエヴィティ(SocietaTrentina Lieviti)とパートナーシップを締結。
海外展開を開始し、さらなる市場拡大への一歩を踏み出しました。
また、1969年にはフランス・パリで食べられるパンを日本でも焼きたいという職人たちの熱意に応え、日仏商事を創業しました。
1971年 イーストエキスの生産を開拓
メゾン・アルフォールのファウルド・シュプリンガーを買収して、イーストエキス(酵母エキス)という新たな専門分野の開拓をします。
酵母エキスとは、酵母からアミノ酸や核酸関連物質、ミネラル、ビタミン類を抽出したもので、食品に風味を加えるための調味料として利用されています。
酵母や発酵の分野で豊富な知識と技術を持つルサッフルは、単に酵母の生産だけでなく、培った技術を応用し事業の拡大を図りました。
1973年 サフの販売を開始
1973年、世界初のインスタントドライイースト「Saf-Instant」の販売を開始しました。
インスタントドライイーストは、従来の生イーストやアクティブドライイーストのように水に溶かす必要がなく、材料に直接混ぜることができることから製パン業外に革新をもたらしました。
工程を簡略化でき発酵が安定しているため、家庭からプロまで幅広い層に支持され、Saf-Instantはルサッフルを代表する商品となったのです。
1974年 ベーキングセンターを設立
1974年、製パン業界に向けて技術支援を提供し、トレーニングや研究開発の拠点となるようにとベーキングセンター設立がされました。
1970年代の製パン業界は、新しい製法や技術の導入が進み、より高いパンの品質や生産効率の改善が求められていました。
先駆的なベーキングセンターの設立により、ベーカリーや家庭での製パンのニーズが増え、事業分野を拡大します。
2001年 中国に進出
2001年に、ルサッフルは米国のイーストメーカーであるレッドスターイースト&プロダクツ(Red Star Yeast & Products)を買収。
中国に進出し、ミング・グアン・イースト(Ming Guang Yeast)施設を取得します。
1981年からSaf-Instantなどの製品を中国に輸出していたルサッフルですが、ミング・グアン・イーストの取得によって輸出から現地生産へとシフトしました。
2015年 グノーシス(Gnosis)を買収
2015年、ルサッフルはイタリアのバイオテクノロジー企業であるグノーシス(Gnosis)に出資し、2018年に完全買収。買収後「Gnosis by Lesaffre」を設立しました。
グノーシスは1989年に設立された会社で、発酵由来成分などの分野で事業を拡大していました。
そのため、微生物の発酵、酵母や細菌由来成分の回収・精製に関して高い専門技術を持っており、買収によってルサッフルは栄養酵母や発酵由来成分の分野での事情を展開していったのです。
現代 世界的なブランド
2023年にルサッフル社は創業170周年を迎えました。
2024年10月4日、ルサッフル社は大手酵母エキスメーカーの『バイオリジン社』との事業統合により、バイオリジン社の総資産の70%にあたる株式を保有。現在世界的なブランドとなっています。
また、ベーキングセンターは2024年には世界で51か所にもなり、単に技術支援やトレーニングの場としてだけでなく、顧客と近い関係性でコミュニケーションをとり、地産地消の取り組みや廃棄物の削減にも力を注いでいます。
まとめ
2023年には創業170周年を迎えたルサッフル。ルサッフルの歴史は販売用イーストの歴史そのものと言っても過言ではありません。
世界中にベーキングセンターを設け、ベーカリーから家庭にパンの技術支援などを続けパンの普及に貢献し続けています。