なぜベーグルは穴を開ける?実用的な理由と歴史的な意味を解説!
ヘルシーなパンとして、日本でも専門店があるほど人気のベーグル。
そのまま食べてもベーグルサンドにしても美味しいパンですが、特徴的なのが真ん中に開いた穴です。
まるでドーナツのような見た目ですが、ベーグルに穴が開いているのには、火の通りを良くするためや、永遠の象徴であるリングを表しているなど、実用的にも歴史的にも意味のある理由があるのです。
ここでは、ベーグルに穴が開いている理由について、実用的な理由から歴史的な意味まで解説したいと思います。
ベーグルの穴の実用的な理由
ベーグルに穴が開いているのには、さまざまな理由が考えられています。
そのなかで、まずは実用的な理由から紹介しましょう。
表面積を多くするため
ベーグルに穴が開いている理由として、もっとも有名なのが火の通りを良くするためです。
中心に穴があることで表面積が増え、生地に火が通りやすくなります。
ベーグルは焼く前に茹でて表面を糊化し固める、ケトリングという工程があります。
これはその後の焼成時にこれ以上パンが膨らまないようにし、クラムが詰まったムチッっとしたベーグルにするために欠かせない工程です。
窯伸びしないクラムが詰まった生地は、火の通りが悪いため表面積を増やし、中心に穴を開けておくことで火の通りを良くしておきます。
陳列と運びやすさ
店頭でパンを陳列するうえで、ベーグルは穴の部分を棒に刺していくつも重ねることができ、省スペースでも販売することができるというメリットがあります。
これは、ベーグルに紐を通して運搬していたころの名残とも考えられています。
水分量が少ないベーグルは、元々は保存食として重宝されていました。
運搬方法があまりない頃、保存食のパンを運びやすくするため、中心に穴をあけて紐などを通し、運びやすくしていたと考えられています。
ベーグルの穴の歴史的な理由
前項で紹介したように、ベーグルの穴には火の通りを良くするためや、陳列しやすくするためなど実用的な理由がいくつかありました。
ベーグルの発祥にはさまざまな説があり、穴が開いている理由にもいくつもの説が考えられています。
そのなかには実用的な理由のほかに、歴史的な意味があるものもあります。
プレッツェルが変化してベーグルになったという説
まずは、ドイツのパンであるプレッツェルが変化して、ベーグルになったという説です。
プレッツェルは、日本ではカリカリで水分がほとんどない、おつまみのようなタイプが主流ですが、本場ドイツでは、クラストこそカリカリであるものの、クラムはソフトなパンタイプ。
さらにベーグルのように輪っかのような形をしたパンなのです。
ドイツ人の移民がポーランドに移住したさいに、プレッツェルがベーグルへ変化して広がっていったのではないかと考えられています。
キリスト教のパンと区別するために作ったという説
宗教との関わりも深いと言われているベーグル。
実は、ユダヤ人がキリスト教のパンと区別するために作るようになったという説があるのです。
ユダヤ人はパンを作れない時代があった
ユダヤ教とキリスト教は、思想の違う宗教として相容れない関係でした。
4世紀以降、ローマ帝国の国教とされていたのがキリスト教。
ユダヤ教を信仰するユダヤ人は、キリスト教徒によって長いあいだ迫害を受けていました。
パンは、キリスト教徒にとって「聖体(せいたい)」という存在。
キリストの体の実体と信じられている聖なる食べ物です。
9世紀ごろ、迫害を受けていたユダヤ人は、パンを売買することはおろか、触ることすら禁じられるようになったのです。
キリスト教のパンと区別できるパンを作った
パン作りを禁じられていたユダヤ人。
そこで、ユダヤ人たちはキリスト教のパンとは見た目も製法も違う、まったく新しいものを作ろうと考え、ベーグルが誕生したのです。
通常のキリスト教のパンは、発酵して成形した後に焼成して仕上げるものですが、ベーグルは発酵もほどほどに生地を茹でるという特殊な工程があります。
さらに見た目も真ん中に穴が開いているため、「パンではない」と言い逃れできる抜け道があったのです。
当時のベーグルは、茹でた状態で販売されており、購入後食べる直前に家のオーブンで焼くというスタイルのものでした。
今ではその一連の流れが、ベーグル作りの完成までの基本の工程となり、茹でて焼いたものが販売されるようになったのです。
ベーグルはユダヤ人にとって特別なパンになった
さらに、ユダヤ教にとってもっとも重要な日とされるのが、安息日である土曜日です。
この日は礼拝をおこなう日でもあります。
ベーグルは東欧のユダヤ人の言語であるイディッシュ語でbeigenと言い、「曲がる、お辞儀をする」という意味があります。
貧しいユダヤ人は、普段はライ麦を使った黒パンを食べていましたが、白パンであるベーグルを礼拝のときに神への感謝を込めながら食べていたのです。
ユダヤ教ではさまざまな厳しい決まりがあり、肉類と乳製品を一緒に食べてはいけないという決まりもありました。
そのため、材料にミルクやバターを使っているパンと肉料理を一緒に食べることができなかったのです。
これは、親と子を一緒に食べてはいけないという教えで、同時に肉料理と卵なども食べることができませんでした。
ベーグルに乳製品も卵も油脂も入っていないのは、食事と一緒に食べられるように工夫されたためと考えられています。
ふたたび迫害を受けベーグルも作れなくなった
その後、ベーグルは長い年月をかけ、一般的な食べ物として広がっていくのですが、1929年の世界金融恐慌をきっかけに、ユダヤ人はふたたび迫害を受けることになります。
当時、ユダヤ人はベーグルベンダーというベーグルの屋台でベーグルの販売をおこなっていました。
しかし、迫害を受けることになると、ベーグルベンダーは、特別に免許を持った人しか営業することができなくなりました。
ユダヤ人がパンの販売をおこなうのに不利な条件をつけられたのです。
これによって、一時、ベーグルは東欧から姿を消してしまうことになります。
馬のあぶみを模して作ったという説
ベーグルの輪っかのような見た目は、乗馬のときに足をかける馬具の「あぶみ」を模して作ったという話があります。
これは、オーストリアのウィーンのパン職人によって誕生したという説です。
1683年に、オーストリアがトルコ軍に攻められたさい、ジョン・ソヴィエスキー王子(のちのポーランド国王)がトルコ軍の侵略を阻止したとされています。
そのことに敬意を表し、パン職人の一人が、ジョン・ソヴィエスキー王子にあぶみを模したパンを献上したのです。
このときのパンが、ベーグルであったと言われています。
ジョン・ソヴィエスキー王子は当時、乗馬を趣味としており、馬に対して非常に愛着がありました。
そこで、王子の乗っていた馬のあぶみを模して、ベーグルを作って献上したのです。
オーストリアでは、あぶみのことをビューゲル(Beugel)といい、ベーグルの名前の由来になったとも考えられています。
永遠を表して作ったという説
ベーグルはドイツ語で「リング」や「ブレスレット」という意味があります。
1610年のクラフク市の条例では、ベーグルは妊婦さんにお祝い品として贈られていたと言われています。
リングの形は端と端が繋がった形状で、生から死までを繰りかえす永遠の象徴とされていました。
固く焼き上げたベーグルを、乳児用の歯がためやおしゃぶり用として贈り、お守りとしていたのです。
まとめ
ベーグルに穴が開いている理由については、ベーグル発祥そのものにさまざまな説があるため、明確ではありません。
いずれにしてもユダヤ人とのつながりの深い食べ物であることには変わりなく、長い歴史のなかで大切な存在であったと考えられます。
最近ではサンドイッチにしやすいようにあまり穴が開いていないベーグルもあり、ベーグルの穴も変化しています。
たとえ形が変化しても、「永遠」の意味があるように、ベーグルは昔も今も変わらず愛されるパンであり続けるのでしょう。