オーストリアのパンの種類や特徴を、発祥や伝統など歴史的な観点から紹介!
オーストリアは「音楽の都」と言われる首都ウィーンを中心に、芸術と文化が盛んな国。
ヨーロッパの中央に位置するオーストリアには、他国からの影響を受けたパンが数多くあります。
ここでは、オーストリアのパンの種類や特徴を、発祥や伝統など歴史的な観点から紹介したいと思います。
オーストリアの食文化
13世紀以降のオーストリアは、地方の豪族であったハプスブルク家が権力を握り、オーストリア帝国として栄えていました。
オーストリア帝国はその後、オーストリア=ハンガリー帝国となりオーストリア帝国の支配領土であったチェコやハンガリー、さらには隣国であるドイツやイアリアなどとともに他民族国家となって、これらの国々の食文化の影響を大きく受け、第一次世界大戦まで続くこととなったのです。
また、宮廷文化が中心となり、オーストリアは宮廷料理や菓子などを多く取り入れた食事が盛んとなっていました。
これらは当時、上流階級だけのものであったのですが、ハプスブルク家の衰退によって宮廷料理は庶民階級のものへと変化していったのです。
庶民階級のものとなった宮廷料理や菓子は、今でも多く残っています。
オーストリアのパン食文化
オーストリアはヨーロッパの中央に位置しており、多民族国家でもあったため、オーストリアのパンはヨーロッパの各国に伝わっていき、他国からの影響も多く受けてきました。
イーストの研究や製パンの技術が進んでいたオーストリアでは、基本的にふわふわとしたリッチなパンが多いのが特徴です。
そこに他国からの食文化が交わることにより、多種多様のパンが食べられるようになったのです。
上流階級の食文化の影響で菓子がとても豊富だったオーストリアは、菓子店やパン屋には特権が認められ、同業組合のギルドがほかのヨーロッパの国々よりもいち早く成立されました。
オーストリアのパン
それでは、オーストリアのパンを紹介していきたいと思います。
カイザーゼンメル(Kaisersemmeln)
おもに食事パンとして食べられているリーンなパンで、王冠のような形をしているのが特徴です。
手で折って成形し、王冠のように焼き上げていましたが、今はカイザースタンプという花のような模様をした型押し用スタンプを使って、丸めたパンに切れ込みを入れることができます。
シンプルなものに加え、表面にゴマやケシの実をまぶしたものも多いです。
カイザーゼンメルの名前となっているカイザー(Kaiser)は、「皇帝」を意味します。
見た目が皇帝のかぶる王冠に見えることから、このような名が付けられました。
また、ゼンメル(Semmeln)は「最上級小麦粉」の意味を持つ“Simila”が語源とされており、白く上質な小麦粉をたっぷり使った贅沢なパンであることがわかります。
このカイザーゼンメルは、1730年に神聖ローマ皇帝のヨーゼフ二世とイザベラ妃の結婚式を描いた絵画にも登場し、まさに皇帝のパンの象徴とされていたのです。
別名カイザーロールとも呼ばれ、もともとはオーストリア発祥のパンですが、ドイツでも作られています。
ワッハーワー・ライプヒェン(Wachauer Laibchen)
小麦を主体とした材料に、一部ライ麦粉を混ぜて作るハード系のリーンなパンです。
丸く成形したパンを発酵後に閉じ口を上にして焼くことで、バラの花のような模様に仕上がります。
ワッハーワー(Wachauer)は、オーストリアのドナウ川沿いにある地名で、ライプヒェン(Laibchen)は「小型パン」の意味です。
もともとはオーストリアの個人店で誕生したものが、次第にオーストリア全体に広がっていったものです。
食事パンとして日常的に食べられるパンですが、時間が経つと硬くなりやすいため、パン屋さんでは出来立てからあまり時間の経っていないものが並びます。
ゾンネンブルーメン(Sonnenblumen)
ゾンネルブルーメンは、ヒマワリの種が入った黒パンです。
主原料はライ麦粉で、黒っぽい色を出すためにカラメルを用いることもあります。
ヒマワリの種は、生地に練り込むだけでなく、トッピングとしても使われます。
もっちりとした食感で、噛むほどに香りが立ち込めるパンです。
ゾンネルブルーメンとは、「太陽の花」や「ヒマワリ」を意味し、材料にヒマワリの種を使っていることからこの名が付けられました。
ザルツシュタンゲン(Salzstangen)
カイザーゼンメルと基本材料はほぼ同じで、リーンな食事パンです。
伸ばした生地をくるくると棒状に巻き、岩塩をトッピングして焼き上げます。
ほかにも、キャラウェイシードやアニスシードなどをトッピングすることもあります。
岩塩の塩気が効いていることから、ビールのおつまみとして、ハムなどと一緒に食べられてきました。
ザルツ(Salz)はドイツ語で「塩」、シュタンゲン(Stangen)は「棒」の意味です。
細長く棒のように成形し、塩をトッピングしていることからこの名が付けられました。
ヌスボイゲル(Nussbeugel)
ナッツをたっぷり使い、卵やバターを使ったリッチなパンです。
大きくV字に曲がっているのが特徴で、表面に卵黄を塗って焼き上げるため、焼き色は強く所々にヒビが入っています。
サクサクとしたクッキーのような食感が特徴です。
ヌス(Nuss)は「曲がった菓子」、ボイゲル(Beugel)はスキーの「ボーゲン」のことを指しています。
V字に曲がった見た目からこのような名前が付けられました。
菓子としておやつに食べられているパンです。
ヴィエナー・クーゲルフップフ(Wiener Gugelhupf)
甘く、とてもリッチな菓子パンです。
結婚式などのお祝いの席や、クリスマスや祭事で食べられています。クグロフの型で焼き上げるのが特徴です。
ヴィエナー(Wiener)はオーストリアの首都「ウィーン」の意味、クーゲルフップス(Gugelhupf)のクーゲルは「僧侶の帽子」、フップスは「ビール酵母」を意味します。
名前の由来は諸説ありますが、見た目が僧侶の帽子のようであることや、もともとはビール酵母を使って発酵させていたことからきている説、陶器職人のクゲルから名前をとって名づけられたという説があります。
クーゲルフップスはフランスでは「クグロフ」と呼ばれているパンで、日本ではクグロフの呼び名の方が有名ですが、クグロフはオーストリアをはじめドイツやフランス、スイスなどヨーロッパ各国で食べられており、その土地によって呼び名が変わります。
もともとはオーストリアが発祥とされており、マリーアントワネットの大好物で、オーストリアからフランスへ嫁入りしたときに持ち込んだと言われています。
クランツクーヘン(Kranzkuchen)
シート状に伸ばした生地に、ヘーゼルナッツフィリングなどを折り込み、ねじって棒状やリング状にして焼き上げた甘い菓子パンです。
仕上げにアプリコットジャムやフォンダンなどを塗り艶よく仕上げます。
クランツ(Kranz)は「花輪」、クーヘン(Kuchen)とはパウンドケーキのような焼いたケーキのことです。
クランツクーヘンの発祥については、残念ながら調べてもわかりませんでしたが、ドイツ語であることからドイツのパンの影響を大きく受けたパンであることが考えられます。
ヴィエナーブリオッシュ(Wiener Brioche)
ふんわりとしたリッチな菓子パンです。
ドーナツ型をしているパンで、おもに朝食やおやつとして食べられています。
ヴィエナー(Wiener)はオーストリアの首都「ウィーン」の意味。
ブリオッシュはバターや卵、砂糖などをたっぷり使ったリッチなパン生地のことです。
宮廷料理の文化があるウィーンでは、リッチな菓子がたくさん食べられていました。
キプフェル(Kipferl)
ヴィエナーブリオッシュの一種で、別名ヴィエナーブリオッシュ・キプフェルとも呼ばれます。
ヴィエナーブリオッシュがドーナツ型であるのに対し、キプフェルは三日月の形をしているのが特徴です。
キプフェル(Kipferl)は「クロワッサンの形」を意味する言葉です。
その名の通り、見た目はクロワッサンのように三日月の形をしています。三日月はイスラム教の象徴でもあり、オスマン帝国(トルコ)の旗印にも使われています。
オスマン帝国がハンガリーを攻めた後、ハンガリーで誕生したと考えられ、その後オーストリアのウィーンに伝わったと言われています。
今ではウィーンのパンとして認知されているパンです。
トプフェンブフテル(Topfenbuchtel)
ジャムやクリームを包んで成形した小型の丸パンを天板に敷き詰め、隣同士くっついた状態で焼き上げる菓子パンです。
日本でも”ちぎりパン”が人気となりましたが、同じようにちぎって食べるパンです。
ブフテル(Buchtel)は、「本」の形を意味する言葉です。
本を広げたような見た目から、このような名前が付けられています。
まとめ
オーストリアのパンは、ヨーロッパのさまざまな国の影響を受けて、多種多様のパンがあることがわかりました。
それぞれのパンのはっきりとした発祥については、情報が少なくわからないことが多かったのですが、リッチなパンが多く、オーストリアの宮廷料理や菓子文化が大きく残っていることがわかります。