フランスのパンはなぜその名前に?形の理由とは?意味や由来を紹介!
フランスのパンには多くの種類があり、そのパンの名前や形もとてもユニークなものです。
製造上の理由からその形になったものもあれば、何かの形を模したものまでさまざま。
今回はそんなフランスのパンの意味や由来について紹介していきたいと思います!
パン・トラディショナル
フランスのパンと言えば、小麦粉、水、塩、イーストのみで作られたリーンなパン。
そのなかでも、棒状のパンのことを総称してパン・トラディショナルと呼びます。
日本ではいわゆるフランスパンとして親しまれています。
トラディショナルは「伝統」を意味し、パン・トラディショナルはフランスで伝統的なパンとして、誰もが日常で食べるポピュラーなパンです。
シンプルな材料であるため、小麦特有の風味、甘み、塩味が味わえます。
表面はパリッと焼かれ、皮は薄く中はしっとりしています。
クープが入れられているのが特徴で、気泡は大きく不揃いであるのが良いパンの証とされており、シンプルであるがゆえに、気温や湿度の影響を受けやすく、とても技術がいる難しいパンと言われています。
リーンな生地は、リッチな生地と比べると膨らみにくいのが難点です。
そこでクープを入れることで、内部の湿った生地がむき出しとなり、焼成時にその部分の水分が蒸発しようと膨らみます。
また、余分な水分が出ることで、火の通りが良くなり軽い食感にもなります。
クープを入れた部分が膨らみやすくなるので、パンの長さや形に合わせて、バランスよくクープを入れる必要があるのです。
パン・トラディショナルは、長さや重さなどによって呼び名が変わるのが特徴で、日本でよく見かけるバゲットなどもその一つです。
パン・トラディショナルはバゲットのほかにもさまざまなパンがあるので、紹介していきたいと思います。
パリジャン
正式名称はパン・パリジャン。
パリジャンは「パリっ子」という意味を持つ棒状のパンで、長さは約68cm、重さは約400g、クープの数は5本です。
フランスの首都、パリで誕生したことからこの名前がつけられ、今では略してパリジャンと呼ばれています。
なかのもちもちとした食感のクラムを味わうパンです。
バゲット
長さが約70~80cm、重さが約300~400g、クープの数は6~7本です。
バゲットはフランス語で「杖」を意味します。
パリジャンよりも細長いことから、クラストのカリカリした食感をより味わうことができます。
バゲットが普及し始めたのは20世紀になってから。
そのころ法規制によりパン職人は10時~16時までの労働を禁止されてしまったのです。
それまでのように早朝から従来の丸いパンを焼いていては、時間がかかり朝からパンをお店に出すことができません。
そこで製造時間を短くするために、焼成時間の短い細長いパンを作るようになったのです。
夜遅くから仕込みを始め、次の日のお昼まで働き続けるパン職人の過酷な労働を防ぐために、このような規制ができました。
この法律は今ではなくなりましたが、現在のフランスでは一週間あたりの労働時間を35時間以内と制限していたり、日曜日にお店を閉めている店が多かったりと、パン屋に限らず休暇を多く設け、過酷な労働を防いでいることがわかります。
本サイト宛のメールにて、下記のようにご指摘を頂戴しましたので併せて掲載致します。
今からおよそ200年前のフランスで、朝市で働く人々のために当時のパン職人が『働きながらでも食べやすいサンドイッチ』を作るため、薄いナンやピタパンのような生地で作ることが主流だった当時のサンドイッチを持ちやすく崩れにくいフランスパンで具材を挟むことを考え、それを効率よく大量に作るためにパン窯に入る最大の長さでパンを焼いたことでバゲットが誕生した=フランスパンが細長くなったきっかけである。
インターネットで「フランスの法規制によって朝早くから働くことを禁じられたパン屋が焼き上がるまでの時間を短縮するために細長くした」という説は誤訳が広まったものであると専門家は考えている。
ドゥ・リーブル
ドゥ・リーブルは、パン・トラディショナルのなかでもっとも大きなパンで「2ポンド」という意味です。
1ポンドが約450gなので、このパンは約900gという重さを指しています。
ドゥ・リーブルは長さが約55cm、焼き上がりの重さは850gほどでクープの数は3~4本。
とても太く、クラムの割合が多いパンです。
ふわふわでサンドイッチなどにして食べられています。
バタール
長さは40~50㎝、重さは約300g、クープは3本です。
バタールとは「中間の」という意味で、バゲットとドゥ・リーブルの中間の太さであることからこの名がつけられました。
バゲットよりも短いバタールは、クラムの割合が多く、もちもちとした食感を楽しめます。
フィセル
フィセルは「紐」という意味。長さは30㎝、重さは120~150gの細いパンです。
細いのでカットせずにそのまま食べます。
バリバリした食感がクラフト好きに好まれ、中心に切り込みを入れウインナーを挟んで食べたり、ガーリックバーターを塗って食べたりするのが主流です。
パン・ファンテジー
リーンなパンのなかでも、パン・トラディショナル以外のパンの総称をパン・ファンテジーと呼びます。
つまり、棒状ではないリーンなパンのことですね。
パン・ファンテジーにはおもしろい形のものが多く、形の違いで食感や味にも変化がでます。
ここからはパン・ファンテジーについて紹介していきましょう。
エピ
エピは「麦の穂」の意味を持ち、バゲットなどの長いパンに深いクープをいくつも入れ、左右交互に倒して作ります。
左右に開くことで、火の通りが良くなりしっかりした硬めの食感に仕上がります。
リーンなパンではクラフトの硬いパリっとした食感が好まれ、なかに具を入れても短時間でしっかり硬い食感のパンに焼き上がるために、このような形にして作られました。
火の通りと、表面積が増えクラストの硬さを堪能できるために、このような製法となったのですが、その結果、麦の穂の形に似ていたことからこの名がつけられ、見た目の良さでも人気となっています。
また、フランスではパンを買ってそのまま広場で食べることも多く、麦の穂の形にしたエピは手でちぎって、取り分けて食べることができます。
フランス人の生活スタイルにもマッチしたパンなのです。
ブール
ブールは「ボール状の」という意味の言葉。重さは約280gで、ブーランジェリーの語源となった歴史のあるパンです。
その名のとおり、見た目はボール状の大きなパンでクラムの割合が多く、クラストはあまり硬くありません。
サンドイッチとして食べたり、中身をくりぬいてシチューを入れて食べたりします。
タバチュール
「煙草入れ」という意味で、丸いパンに帽子が付いたような見た目のパンです。
煙草入れに形が似ていたことからその名がつけられました。
重さは約100g程度。
帽子のような部分は丸く成形した生地の1/3ほどを綿棒で伸ばし、丸い生地の上に重ね、発酵のときに重ねた部分が膨らまないように下にして置き、焼成前に再度ひっくり返してから焼き上げます。
重ねた部分のカリッとした食感と、丸いパンの部分のクラムの軟らかさを楽しむパンです。
シャンピニオン
シャンピニオンはフランス語で「キノコ」を意味します。
丸いパンにキノコの傘が乗ったような形が特徴です。
傘の部分は平たくカリッとした食感に、丸いパン生地の部分はふわふわと軟らかく、タバチュールと同じように二つの食感が味わえるパンです。
手のひらサイズの小ぶりなパンで、重さは50gほどです。
タバチュールの作り方と違う部分は、蓋の部分を独立して成形し、丸い生地の上に重ねているところです。焼成後は平らな傘のように重なっているため、蓋の部分をカットし、パンのなかにシチューを詰めて食べることができます。
クッペ
クッペは「切られた」という意味を持ち、ラグビーボールのような形状のパンの中央に、1本のクープで切れ目を入れて作るパンです。
クッペとは、クープ(coupe)からきた言葉で、この1本の大きな切れ目が特徴的なパンならではの名前なのです。
フォンデュ
フォンデュは「双子」の意味を持ち、中心にくびれを入れたパンです。
くびれは成型のときに中央に棒でしっかり押しつけて入れます。
このくびれを入れることで、焼いて膨らんだときに弾力が生まれ、もちもちの食感に仕上がります。
ヴィエノワズリー
フランスのパンで次に紹介するのがヴィエノワズリーです。
ヴィエノワズリーは菓子パンや焼き菓子のことで、バターや卵、牛乳、砂糖をたっぷり使っているのが特徴です。
マリーアントワネットがフランス国王ルイ16世のもとへ嫁いできたときに、オーストリアからフランスへ渡ってきました。
フランス語でウィーンはヴィエンヌ(Vienne)。
オーストリアのウィーンが発祥であることから、ヴィエノワズリーはウィーン風の菓子パンという意味で名づけられたのです。
それでは、ヴィエノワズリーにはどのようなパンがあるのか紹介していきましょう。
クロワッサン
日本人にもなじみがあり人気の高いクロワッサン。
ふわふわとした食感でありながら、皮はパリパリ、バターの香りとコクが味わえます。
クロワッサンの誕生は17世紀のこと。
フランス発祥のパンだと思われていますが、実は当時のオスマン帝国に勝利したウィーンの人々が、オスマン帝国(現在のトルコ)の国旗の三日月をかたどって作り、食べたことが始まりなのです。
ウィーンの兵士たちのために、夜通しパンを作っていたパン職人の一人が、オスマン帝国の包囲下にあったウィーンで、密かにトンネルを掘り進める音を聞きます。
これはトルコ軍によるもので、パン職人がこのことを報告し、ウィーンが大軍に勝つことに繋がったのです。
このパン職人の功績を讃え、彼が三日月型のパンを作りみんなで食べることで、勝利を祝ったと言われています。
ところで、日本で見かけるクロワッサンはひし形で、三日月の形をしたものはあまり多く見かけません。
クロワッサンには2種類あり、ひし形をしたものはクロワッサン・ブールというバターを多く使ったクロワッサン。
ブールは「バター」を意味しています。
一方、三日月の形をしたものはクロワッサン・オルディネールと呼ばれ、バター以外の油脂を使っています。
オルディネーブルは「通常の」という意味です。
最初に誕生したクロワッサンはこのクロワッサン・オルディネールの方で、日本人が思い浮かべるバターの香り高いリッチなパンのイメージとは少し違います。
バターを使ったクロワッサンは20世紀に入ってから作られるようになり、使っている油脂がわかるように形を変えて区別するようになったのです。
バターを使わないクロワッサン・オルディネーブルは、クロワッサン・ブールと比べ価格が抑えられていることから、それぞれのニーズに合わせ、パン屋では両方のクロワッサンを置いているところも少なくありません。
ブリオッシュ・ア・テット
バターをたっぷり使ったブリオッシュにはいくつか種類があり、なかでも代表的なのがブリオッシュ・ア・テットです。
カップ型に入れて作るパンですが、だるまのような形をしており、型に入った部分はしっとり、頭のような丸い部分は焼き目がしっかりつき、香ばしい香りが楽しめます。
だるまのような形をしたブリオッシュ・ア・テットですが、テットはフランス語で「僧侶の頭」の意味。
この形の見た目から、キリスト教の僧侶の頭という意味の名前がつけられました。
「パンがなければお菓子を食べればいいのに」というマリーアントワネットの有名な言葉がありますが、これはフランス語のQu’ils mangent de la brioche!(ブリオッシュを食べればいいのに)が原文です。
その“お菓子”とは、ブリオッシュのことを指していたのですね。
パン・オ・ショコラ
ショコラはチョコレートのこと。
つまり、パン・オ・ショコラはチョコレート入りのパンという意味で、四角いクロワッサン生地のなかに、二本のチョコレートが詰められているのが特徴です。
パン・オ・ショコラは1830年代にオーストリア出身のパン職人が、パリでクロワッサンのなかにチョコレートを入れて売っていたことが始まりと言われています。
最初はクロワッサンのように三日月の形だったものが、徐々に形を変え現在の四角い形へと変化したのです。
パン・オ・ショコラは北フランスでの呼び名で、同じフランスでも南フランスではショコラティーヌと呼ばれています。
しかし、パン・オ・ショコラはフランス南西部のガスコーニュ地方が発祥地と言う説もあり、この地方ではショコラティーヌと呼ばれていることから、なんと2018年に、フランスの食品関連の法律修正案の一つに、フランス全土でショコラティーヌという呼び方に統一すべきだという案が出されたのです。
結果的には、この案は議会のレベルにあたらないと却下されましたが、郷土の伝統的なパンとして誇りを持っていたガスコーニュ地方の人々にとって、それほどショコラティーヌの呼び名は譲れないものだったのです。
パン・オ・レザン
レザンはフランス語で「レーズン」、つまりパン・オ・レザンはレーズン入りのパンという意味です。
広げたパン生地にレーズンを散らし、ロール状に巻いてカットし、断面を上にして焼いたものです。
パン・オ・レザンは渦巻き状であることから、別名かたつむりのパンとも言われています。
かたつむりは前にしか進まないことから、フランスでは縁起の良いものとされています。
渦巻き状のパン・オ・レザンも縁起の良いパンとして人々に親しまれているのです。
パン・オ・レ
パン・オ・レの “レ”とはフランス語で「牛乳」という意味。
つまりパン・オ・レは牛乳のパンのことです。
水の代わりに牛乳を使っているので、きめが細かくソフトでくちどけの良さが特徴です。
パン・オ・レは、ラグビーボールのような形に成形しクープを入れるのが特徴で、クープの入れ方はさまざまな種類があります。
もっとも主流なのは焼成前にはさみで突起のような切れ込みを入れる作り方です。
まるで恐竜の背中のとげのような突起は、焼くとカリッと香ばしくなり、牛乳の優しい甘さのなかに、突起の香ばしさが広がります。
フーガス
フーガスは南フランスのプロヴァンス地方の伝統的なパンで、平たく伸ばし、葉脈のような切れ込みを入れて焼いたパンです。
ローマ時代、パン窯の温度を計るために、かまどの灰の下で焼いた平たいパンがフーガスの起源と言われています。
しかし、名前の由来には諸説あり、ラテン語でパニス・フォカチウスという「かまどの灰の下で焼いた」という意味の言葉が、フーガスの名前の由来となっているという説と、シダの葉っぱを意味するフランス語が名前の由来となっているという説があります。
しかし、この葉の形をした葉脈のような切れ込みが入ったパンは、フランスでは主流ではなく、日本でよくみられる形です。
本場フランスではフーガスの形に決まりはなく、丸い形や四角い形などさまざま。
切れ込みも規則性がないのが特徴です。
パン・ド・ミ
日本では食パンのことです。
パン・ド・ミの“ミ”とは「中身」という意味で、パンの中身、つまりクラムが多いパンであることを意味しています。
パン・ド・ミには角型や山型、ワンローフなど形はさまざまですが、20世紀初頭のイギリスから伝わったと言われています。
パン・ド・カンパーニュ
カンパーニュとは、「田舎」という意味で、パリ近郊の地域からパリに売りに来ていたことから名づけられたパンです。
果物や穀物から酵母を得るいわゆるルヴァン種と、あまり精製度の高くない小麦やライ麦を使っているため、酸味と旨味が強いパンです。
複雑な味わいで、日持ちがして一日ごとに味の変化を楽しむことができます。
ルヴァン種は手間がかかることから、現在ではイーストを使っていることが多くなってきています。
パン・ド・ロデヴ
ロデヴは、南フランスはラングドック・ルーション地方の小さな町の名前。
この小さな町から誕生したことでロデヴという名がつきましたが、地元ではパン・パイヤスと呼ばれています。
パイヤスとは籠のことで、パン・ド・ロデヴは大きな塊のまま容器に入れ発酵し、端から生地を切り、そのままホイロをとらずに焼き上げるのが特徴です。
この発酵のときにもともと使っていたのが柳製の籠だったのです。水分量がとても多く、取り扱いが難しいため、成形をせずに高温で一気に焼き上げて膨らませます。
パン・オ・ルヴァン
伝統的なパン種であるルヴァン種を使い、発酵し熟成させて作るパンです。
発酵力が弱く重たい印象のパンですが、そのぶん噛みしめるほどに旨味が出てきます。
同じようにルヴァン種を使っていたものの、イーストの普及により製法に変化のあったパン・オ・カンパーニュと違い、パン・オ・ルヴァンのルヴァン種を使った製法は現在も受け継がれ、イーストの添加は小麦粉の0.2%以下しか許されていません。
パン・コンプレ
パン・コンプレのコンプレとは「完全な」という意味です。
小麦をそのまま挽いた全粒分を使います。
小麦を丸ごと全て使うことからこの名がつけられました。
食物繊維やミネラルが豊富で、栄養価が高いのが特徴です。
まとめ
今回はフランスのパンの名前や形の由来について紹介しました。
フランスのパンといっても、長い歴史の中で他の国が発祥であるものや語源となっているものも少なくありません。
しかしそれが伝わり今でもフランスのパンとして残っているのは、フランスの高い製パン技術とフランス人のパンに対する執着心があってこそ。
フランスのパンはとても奥深いものです。