イギリスのパンの種類や特徴を、発祥や伝統など歴史的な観点から紹介!
街並みやファッションなど、おしゃれな国としてのイメージが強いイギリスですが、料理の評判はいまいち。
パンに至っては、どんな種類があるのかピンと来ないという方も多いのではないでしょうか?
イギリスは階級社会や紅茶の文化など、ほかの国々とはひと味違う特徴のある国です。
そんなイギリスには、実は伝統的なパンがたくさん存在します。
ここでは、イギリスのパンの種類や特徴について紹介したいと思います。
イギリスの食文化とパン
美食の国が数多くあるヨーロッパのなかで、イギリスの食文化は少し違った評価を受けていました。
まずは、イギリスの食文化とパンについて解説します。
イギリスの食文化
ヨーロッパにはフランスやイタリアなど、美味しい食べ物で有名な国がたくさんありますが、“イギリスの食べ物はまずい”という話を、誰もが一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
でも、イギリスの食べ物がまずいというのはもう過去の話。
なぜそのようなイメージがついてしまったのか、現在のイギリスの食べ物事情も含めて紹介します。
イギリスの人は食に関心がなかった
イギリスの有名な食べ物と言えば、まず思いつくのがフィッシュアンドチップス。
イギリスを代表する食べ物ですが、ほかに有名な食べ物で思い浮かべるものと言ったら、ローストビーフくらいでしょうか?
フィッシュアンドチップスやローストビーフ以外に、これと言って特別なグルメがあるわけでもなく、長年、イギリスの食べ物はまずいというイメージが、私たちのなかにあったのではないかと思います。
このようなイメージがついてしまったのには、イギリスでは食に関心を持つ人が少なかったことが一つの原因とも言われています。
理由としてはさまざまな説が考えられていますが、次のようなことが考えられています。
- おしゃれな街並みやファッションに突出しており、食に関心を持たなかった。
- 16世紀から17世紀にかけて、イングランド国協会のなかで勢力を持っていた改革派のピューリタンは、禁欲主義を掲げており、食に関心を持つことを許さなかった。
- 第二次世界大戦中、イギリスでは配給制度がとられていた。このような配給制度は1939年から1952年まで続き、食材が限られていたなかで思うように料理をできる人が少なく、食に関心を持てなかった。
都市部への人口の増加
18世紀後半にイギリスで起こった産業革命以降、急速な工業化によって社会は豊かになり、人口が増加しました。
農村部からも都市部に人が流れ、自給自足をおこなう人が少なくなってしまい、料理をするために食材を手に入れるのが難しくなってしまいます。
都市部にいる労働者たちにとって、食事は栄養補給のための行為という概念で、楽しむという感覚があまりなかったのです。
野菜なども少なく、手早く食べることのできるパンやオートミールを食べる人が多くなっていきます。
イギリスの人達にとって、パンは持ち運びしやすく手軽にお腹を満たすことができる食べ物という認識が強かったのです。
食材を過剰に加熱する
経済的には発展していったイギリスですが、当時下水道設備のなかったイギリスの衛生環境は最悪なものとなり、コレラが大流行します。
コレラの原因は、下水から土壌に汚水が流れ込み、悪い空気にさらされていることだと考えられていました。
このような悪い空気は「瘴気(しょうき)」と呼ばれており、人が瘴気を吸うことによって体液のバランスを崩し、病気になると考えられていたのです。
当時は細菌が病原体となるという考え方がなく、多くの病気の原因が瘴気であると考えられていました。
しかし、これにはさまざまな学者が異を唱えるようになり、病気には目に見えない菌やウイルスの存在があることが確認されるようになります。
その後、細菌学者のコッホが、コレラの原因はコレラ菌であることを発見しました。
汚水が原因となっていること自体は間違っていませんでしたが、この時にようやく飲み水に含まれている細菌が原因であったことがわかったのです。
菌の発見によって、疫病対策として人々は食材を過剰に加熱するようになったと言われています。
付け合わせの野菜は歯ごたえがないほど茹でられ、このような味を重要視していない調理法では、お世辞にも美味しいとは言えなかったのでしょう。
調理段階で味付けをほとんどしない
さらに、イギリスの料理は調理段階ではほとんど味付けをせず、食卓で自分好みに塩やソースなどの調味料をかけて調整するものが多いのです。
イギリス人は、調理されたものをこのようなスタイルで美味しく食べていたのですが、外国人にとっては馴染みのない文化であり、レストランで出されたものを完成品として認識している人がほとんどでした。
そのため、調味料をかけずに食べて味気ないと感じてしまったのです。
料理としての評価が高くなかったのには、食材に香辛料や出汁などをあまり使用せず、味気ないために、外国人からまずいというイメージがついたことも原因と考えられています。
現在のイギリスの食事
イギリスは日本のように周りを海に囲まれた島国。魚介類が豊富に手に入ります。
さらに牧草地が多いため、畜産業も盛ん。乳製品や肉類も豊富と、実は食材にとても恵まれた環境なのです。
植民地時代の影響もあり、他国の料理が食べられるようになると、徐々に食への関心も高まっていきます。
特に近年は、イギリスの食事がまずいというイメージを払拭するために、各大使館などでさまざまな試みが始まり、イメージ改革をおこなっています。
他国の料理が食べられるようになり食に関心を持つ人が増えた今、イギリスの食べ物がまずいというのは、もう過去の話と言って良いでしょう。
紅茶の文化
マイナスなイメージの多いイギリスの食文化ですが、イギリスにはどの国にも負けないほどの紅茶の文化があります。
薬として飲まれていた
イギリスで紅茶が飲まれるようになったのは、16世紀からです。ポルトガルから伝わってきました。
当時、紅茶は薬として飲まれていました。
もともと、東洋ではお茶は万病に効く飲み物として飲まれており、イギリスでも最初は緑茶を中心に万病に効く薬として飲んでいました。
徐々に同じ目的で紅茶が飲まれるようになっていったのです。
その後、嗜好品として飲まれるようになりますが、今でもイギリスではうがい薬代わりに紅茶を使う人も多いのです。
当時は、紅茶の効能は科学的には証明されていなかったのですが、現代の研究によって、紅茶に含まれるテアフラビンやタンニンには殺菌効果があり、風邪予防に効果的であると言われています。
砂糖入りの紅茶
薬として飲まれていた紅茶ですが、1662年にポルトガルから嫁いできた女王がきっかけで嗜好品へと変化します。
女王はポルトガルから茶葉や砂糖を大量に持ち込んで、贅沢に嗜好品として飲む習慣があり、徐々に上流階級の人達にも喫茶の習慣が広まっていったのです。
産業革命後の労働者の間でも、砂糖入りの紅茶は毎日のエネルギー補給に重宝され飲まれるようになっていきます。
アフタヌーンティーの習慣
アフタヌーンティーは、午後に紅茶と一緒に軽食やおやつを摂る喫茶文化のことです。
アフタヌーンティーでは、スコーンやお菓子、サンドイッチなどが並びます。
今では日本でもホテルラウンジなどでお馴染みのものですが、イギリスでのアフタヌーンティーは、かつては上流階級の人達の社交の場としての役割があったのです。
アフタヌーンティーは15時から17時ごろに楽しむもので、現在は一般の人達にも広まっています。
夕食の時間となる18時頃に始まるミュージカルやコンサートを観るために、軽食を摂ってお腹を満たしておく人が多かったのです。
ジャムやチャットニー作りが盛んに
イギリスでは、夏でも比較的湿気が少ないため過ごしやく、一年中温かい飲み物を飲んでいます。
アフタヌーンティーの文化に加え、豊富な農産物のおかげもあってジャムやチャットニー作りが盛んとなります。
チャットニーとは、野菜や果物を酢や砂糖、スパイスなどでピューレ状に煮詰めたもの。
日本ではチャツネと呼ばれており、ハムやチーズの付け合わせ、サンドイッチの具として食べられています。
イギリスでは、前述したような労働者にとって持ち運びしやすいパン、喫茶文化によって甘いパン菓子やサンドイッチ、ジャムやチャットニーを塗って食べるパンなどが多く広がっていったのが特徴です。
イギリスの小麦粉とパン
イギリスの食文化から見えるパンの特徴について紹介してきましたが、ここからはイギリスの小麦粉の特徴とパンについて紹介してきたいと思います。
イギリスの小麦粉の特徴
イギリスの小麦粉は粗挽きで灰分が多いのが特徴。
日本の小麦粉と比べてやや灰色をしています。
灰分が多いということは、ミネラル分が多いということ。
健康的ではありますが、小麦粉の品質としては上等とは言えないのです。
グルテンの量が少ない
さらに、イギリスの小麦粉はたんぱく質の量が少ないため、形成されるグルテンの量が少ないのが特徴です。
食パンなどを作るには、決して作りやすいものとは言えなかったのです。
国内の小麦粉のうち、パン用に使用できる小麦粉の割合も1割程度という状況でした。
かつては輸入に頼っていた
上質な小麦粉が少なかったため、かつてはカナダなどからグルテンの含有量が多く、品質の良い小麦粉を輸入してパン作りをおこなっていました。
グルテンの多い小麦粉を使うようになって、イギリスパンなどの窯伸びが必要なボリュームのあるパンでも、たくさん生産できるようになったのです。
グルテン粉末で補っている
徐々に国内での小麦粉の生産が増えてくると、輸送にお金のかかる輸入小麦はあまり使われなくなっていきます。
イギリス国内で生産した大量の小麦粉から、グルテンやデンプンなどを抽出し、添加用として使用するようになります。
グルテンを添加することで、グルテンの少ない小麦粉でもパン作りができるようになっていったのです。
小麦粉の種類
イギリスの小麦粉は、実は種類が非常に豊富。
細かく分類されているのですが、日常的に使う小麦粉は大きく3種類に分けることができます。
プレーンフラワー(Plain Flour)
日本でいう薄力粉と同じ用途で使われているのがプレーンフラワー。
お菓子作りを始め、パンやさまざまな料理に使われています。
ただし、たんぱく質の含有量は約10%と、日本の小麦粉のなかでは中力粉に該当する量です。
セルフレイジングフラワー(Self-raising Flour)
セルフ(self)は「自分自身」、レイジング(raising)は「上がる、増える」という意味。
つまり、勝手に膨らむという意味の小麦粉です。
その理由は、セルフレイジングフラワーに含まれている膨張剤。
時間をかけずさっとお菓子を作るイギリスでは、小麦粉にあらかじめベーキングパウダーなどの膨張剤が含まれているものがあるのです。
ベーキングパウダーを入れて作る、スポンジ状のお菓子などに使われています。
ストロングフラワー(Strong Flour)
ストロングフラワーは強力粉のことです。
たんぱく質の量は13%前後の商品が多いため、イギリスではストロングフラワーを使ってパンを作ります。
イギリスの小麦粉から見たパンの特徴
イギリスの小麦粉は灰分が多く粒子が粗いため、小麦粉の風味を強く感じやすいシンプルなパンが多い傾向にあります。
イギリスの強力粉が小麦粉のなかで占める割合は非常に少なく、ほんの1割程度。
甘いお菓子がたくさんあり、おやつや軽食として食べているイギリスでは、強力粉を使って作るパンの種類はさほど多くなく、中力粉に該当するプレーンフラワーで作ったパン菓子が多いのが特徴です。
イギリスのパン
アフタヌーンティーのあるイギリスでは、おやつや軽食に適したパンがたくさんあります。
紅茶に合うのはもちろん、持ち運びしやすいパンや、中力粉の性質を活かしたパン菓子が作られているのです。
ここからは、イギリスの代表的なパンを紹介していきます。
イングリッシュマフィン(English muffin)
専用のリング型で焼き上げる円盤状のパン。
表面にはコーンミールが付いています。
ハンバーガーバンズのように厚みがあり、上下水平に手やフォークで割って食べます。
そのままトーストすると、割った断面が粗くサクサクに。水分が多くもちもちとした食感で、目玉焼きやチーズ、ハムなどをトッピングし、食事パンとして親しまれています。
一般的に食べる直前にトーストをすることから、焼きはあまく、白いのが特徴です。
イングリッシュマフィンはイギリスだけでなく、アメリカでも食べられているパンです。
イングリッシュマフィンとは、おもにアメリカでの呼び名。
イギリスでは「マフィン」が正式な呼び名なのです。
イングリッシュマフィンは19世紀頃のイギリスで、貴族に遣えていたパン職人が、まかないとして作るようになったのが始まりです。
その後、製法がアメリカに伝わり、アメリカでも定番のパンとなっていきます。
しかし、前述のとおりイングリッシュマフィンのイギリスでの呼び名は「マフィン」。
当時アメリカにはカップケーキ状のお菓子にマフィンと呼ばれるものがあり、それと区別するために「イングリッシュマフィン」と呼ぶようになったと言われています。
イギリスパン(English Bread)
蓋をせずに焼いた山型の食パンのことです。ただし、イギリスパンは日本での呼び名。
イギリスではホワイトブレッドやホワイトローフ、ティンブレッドと呼ばれています。
イギリスでは食パンを薄めにスライスして食べるのが主流で、日本でいう10枚切りほどの厚さにしてトーストにしたり、サンドイッチにしたりして食べています。
日本の食パンと比べて砂糖や油脂が少なめで、あっさりとしており、トーストするとサクッと歯切れの良い食感が特徴です。
イギリスパンの誕生は、コロンブスがアメリカ大陸を発見した頃に遡ります。
長い航海で持ち運びしやすく、分けやすいパンとして作ったのが始まりだと言われています。
サンドイッチ(Sandwich)
お庭に出てティータイムを過ごすことも多いイギリスでは、軽食としてサンドイッチを食べることも。
サンドイッチ発祥の地であるイギリスには、サンドイッチの専門店が多数存在します。
サンドイッチの発祥については諸説ありますが、なかでも有名なのが、モンタギュー家の第4代サンドイッチ伯爵である、ジョン・モンタギューの話。
18世紀後半、賭博にはまっていたサンドイッチ伯爵は、カードゲームをしながらでも食事が摂れないかと、パンに肉などの具材を挟んだものを作らせたということです。
この食べ物が伯爵の名前にちなんでサンドイッチとなったとか。
ただし、この話には信憑性がなく、あくまで一説として語り継がれています。
アフタヌーンティー文化で軽食を食べることの多いイギリスでは、菓子のほかにサンドイッチが食べられるようになりました。
なかでも人気だったのが、きゅうりのサンドイッチ。
具はきゅうりだけのシンプルなサンドイッチですが、ビネガーに漬けて酸味の効いたきゅうりとパンに塗った濃厚なバターの組み合わせは、貴族たちを虜にする美味しさだったのです。
当時のきゅうりは、手に入りづらい高級食材。
イギリスの貴族にとって、きゅうりのサンドイッチを食べることはステータスでもあったのです。
トースト・サンドイッチ(Toast sandwich)
定番のサンドイッチに加え、イギリスにはトースト・サンドイッチなるものがあります。
トースト・サンドイッチとは、一枚の食パンをトーストし、バターを塗って塩こしょうをした別の食パン2枚で挟んだサンドイッチのこと。
なんと、“パンをパンで挟んだ”サンドイッチなのです。
トースト・サンドイッチの発祥は、ヴィクトリア朝時代にまで遡ります。
作家であるビートン夫人著書の『家政読本』という本に、トースト・サンドイッチの原型となったレシピが掲載されているのです。
『家政読本』は、家庭運営の手引書で、ベストセラーとなっています。
当時、消化器官の弱い人はできるだけ淡白な食事が良いと考えられていました。
『家政読本』では、パンだけの淡白なサンドイッチに加え、食欲増進の目的で加熱調理して細かく裂いた肉や、薄切り肉を少量加えたものなどをアレンジレシピとして紹介し、病人食として広めていったのです。
ソーセージロール(Sausage roll)
ソーセージロールは、ソーセージをパイ生地で巻いて焼き上げたもので、イギリスでは定番の食事パンです。
ソーセージと言っても、腸詰ではなくひき肉を丸めて成形したもの。ミートパイに近いものなのです。
ソーセージロールはピクニックに持って行く定番のパンであり、手で持って食べやすいことからテイクアウトやランチとして持ち歩くのにも非常に重宝します。
イギリスではスーパーなど、どこでも購入することができるパンです。
温かい状態でも冷めた状態でも食べられており、ミニサイズに作ったソーセージロールは、パーティやビュッフェでもたびたび登場します。
ソーセージロールがいつどのように誕生したのかは、残念ながら文献を見つけることができませんでした。
ナポレオン戦争中には都市部でとても人気になっていたという話があり、少なくとも19世紀前半には誕生していたことがわかります。
バースバン(Bath bun)
イギリス南西部にあるバースという町で名物なのが、バースバンです。
アフタヌーンティーなどでお茶のお供として親しまれ、シトラスピールやドライフルーツを練りこんだ生地を丸く成形し、表面にカランツやあられ糖をまぶして焼いたパンです。
実はこのパン、もともとは医師がリウマチ患者のために考案したもの。
消化器官を整えるのに効果的であるとして、糖液に漬けたキャラウェイシードをたっぷりと使用していました。
ところが、キャラウェイシードは何度も糖液でコーティングして作るため、バースバンは非常に手間のかかるパンだったのです。
ロンドン万博の際には、材料が安く大量生産できるようにと、もともとバターを入れていたところを安価なラードに変え、手間のかかるキャラウェイシードではなくシトラスピールやドライフルーツを使ったパンに変化していったのです。
サリー・ラン(Sally Lunn)
サリー・ランも、バースバンと同じくバースの名物パン。
バースバンの一種として分類されています。
バターや卵をたっぷり使ったリッチな生地で、柔らかく風味豊かなのが特徴。
見た目は丸くて大きなブリオッシュのようですが、食事と合わせて食べることも多いパンです。
1680年、フランスから亡命したSolange Luyonという菓子職人の女性が作っていたものが始まりと言われています。
名前の由来にはさまざまな説があり、一つは、この菓子職人の女性の名前が訛って、サリー・ランという名前がついたという説。
もう一つは、ブリオッシュなどのフランスのパンがベースとなっていることから、フランス語で太陽と月を意味するソレイユ・エ・リュンヌ(Soleil et Lune)が語源となり、訛ったのではないかという説が考えられています。
パンのクラストの黄金色と、白いクラムとのコントラストから太陽と月を連想し、このような名前が付いたのではないかと言われています。
スコーン(Scone)
アフタヌーンティーでよく食べられている定番のお菓子。
クロテッドクリームやジャムをのせて、紅茶と一緒に食べます。
スコーンの側面は、焼いて膨らんだときに生地が裂けて、粗くゴツゴツとしています。
本場のレシピでは、生地にバタークリームを使うのが定番。
しっかりとしていながらも、なかはしっとり、ふんわりとしています。
スコーンはスコットランド発祥のお菓子です。
スコットランドのスクーン城にあった「スクーンの石(別名、運命の石)」をイメージして作られたのではないかと考えられています。
この石はスコットランド王家の守護石となっており、代々のスコットランド王は、このスクーンの石の上で戴冠式をおこなっていました。
ショートブレッド(Shortbread)
ショート(short)は「もろい、サクサクとした」という意味があり、ショートブレッドはバターがたっぷり入ったクッキーの一種として扱われています。
その形はさまざまですが、タルト型に大きく作ってケーキのように焼き、放射状にカットして食べる「ペチコートスタイル」が主流。
ほかには、長方形で一口サイズのものなどもあります。
ショートブレッドは、スコットランド発祥の伝統菓子です。
もともとは高価なお菓子であったため、お祝いの場で食べられていました。
1542~1567年のスコットランド女王のメアリーも、好んで食べていたと言われています。
現在では日常的なお茶菓子として親しまれていますが、スコットランドでは新年の最初の来客「First foot」に振る舞う食べ物でもあります。
ホット・クロス・バン(Hot cross bun)
甘い菓子パンで、スパイスやドライフルーツが入っています。
パンの上には、アイシングを使って白い十字に模様を描いているのが特徴です。
ホット・クロス・バンズとも呼ばれています。
ホット・クロス・バンの上部にある白い十字模様は、イエス・キリストの受難を表しており、おもにグッドフライデーに食べられています。
グッドフライデーとは、聖なる金曜日と言われる日で、キリストが十字架にかけられた日。
1361年のグッドフライデーに、修道士が十字模様の入ったパンを作り、人々に配ったことが始まりと言われています。
伝統的にはグッドフライデーにのみ食べられていたのですが、今では一年中食べられています。
クランペット(Crumpet)
スコーンと同じくらい、イギリスのティータイムに欠かせないのがクランペット。
小麦粉に砂糖や牛乳、イーストなどを加えて混ぜ、生地をクランペットリングという専用の道具に流し込んで焼き上げたパンです。
イーストに加え、さらに膨張剤としてベーキングパウダーが使われており、パンケーキを焼く時のように表面にポコポコと穴ができます。
パンケーキとは違ってひっくり返すことはなく、シロップやバターをかけて穴のなかに染み込ませて食べます。
もちもちとした食感が特徴です。
その歴史は古く、イギリス人の祖先にあたるアングロサクソン人が発明したと言われています。
当時のクランペットは、小麦粉だけで生地を作り、平たく焼き上げた硬いクレープのようなもの。
現在のようなもちもちのパンではありませんでした。
ヴィクトリア時代になって生地にイーストを加えるようになり、現在のようなもちもちのパンに変化します。
ヤムヤム(Yum yum)
スコットランド発祥の揚げ菓子です。
揚げパンやドーナツのようなパンで、揚げた生地に粉砂糖を水で溶かして作るグレースアイシングというものをかけて作ります。
パンとデニッシュの中間のような生地でしっとりしており、長方形のものやねじった形のものがあります。
ヤムヤムの由来については不明なことが多く、はっきりわかっていませんが、オランダでクリスマスなどに食べる揚げ菓子が原型となっていると考えられています。
ダービーシャーオーツケーキ(Derbyshire oatcake)
イーストで発酵させて作るパンケーキ。
クランペットと材料が似ていますが、材料にオーツをたっぷりと使ったヘルシーなパンです。
クレープのように薄く焼き上げるのが特徴で、メープルシロップをかけたり、チーズと一緒に食べたりと、甘いおやつとしても軽食としても食べられています。
イギリスのオーツケーキと言うと、本来は塩味のビスケットのようなもの。
オーツを主食としていたスタッフォード地方のパンなのです。
それが徐々にさまざまな地域に広がり、それぞれの地域で独自の変化を遂げていきます。
ダービーシャーオーツケーキも、スタッフォード地方にあるオーツケーキをもとに、東ミッドランズ地方にあるダービーシャー州というところで、17世紀頃に作られたと言われています。
チェルシーバンズ(Chelsea buns)
バターや卵をたっぷり使った生地で、カランツという干しブドウや砂糖を巻き、スライスして焼き上げるシナモンロールにそっくりなパンです。
スライスしたパンを大きな四角い形のバットにいくつも並べ、生地が隣同士くっついた状態で焼くのが特徴です。
チェルシーバンズが誕生したのは、18世紀頃。
ロンドンの南西部にあるチェルシー地域のチェルシー・バン・ハウスというパン屋さんで販売されたのが始まりです。
チェルシーバンズは瞬く間に大人気となり、ロイヤルファミリーにも愛されるパンとなります。
その後、このパン屋さんはロイヤル・バン・ハウスとも呼ばれ、王室御用達となったのです。
コテージローフ(Cottage loaf)
大小、違う大きさの丸いパン生地を重ねて焼いた、雪だるまのような形のパンです。
クラムは非常にきめが細かく詰まっており、ソフトな食感です。スライスしてサンドイッチなどにして食べます。
イングランド発祥の名物パンで、家にオーブンなどがなかった頃に、地域の人々が集まって共同のオーブンで焼いたことが始まりとされています。
一度により多くのパンを焼くために、2つのパンを重ねて焼いたとか。
コテージローフの名前の由来は諸説あり、そのとき焼いていた場所がコテージだったことからコテージローフと名づけられたという説や、パンの形が二階建てコテージのような見た目であることから名づけられたなど、さまざまです。
まとめ
イギリスのパンは、伝統的なパンがたくさんありました。甘いお菓子や手軽に持ち運びができるようなパンが多いのも、イギリスのパンの特徴ですね。
日本でも食べられるパンが増えてきているので、まだ食べたことがないパンをぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。