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なぜフランスパンの気泡は大きい?生地の特性やバゲットの歴史から解説!

クラストがパリパリで硬く、クラムは柔らかくて気泡が大きいフランスパン。

日本では気泡があまり大きくないフランスパンが多いのですが、本場のフランスパンは気泡が大きいのが特徴です。

これほど気泡が大きいパンは、ほかの種類のパンではあまり見かけませんが、なぜフランスパンはこのように気泡の大きいパンになったのでしょうか?

これは、フランスの小麦粉にグルテンが少ないことが関係しているのです。

目次

フランスパンの気泡が大きくなる仕組み

フランスパンに使う小麦粉は、準強力粉や中力粉と呼ばれるもので、パンに使う小麦粉の中ではタンパク質の含有量が少なく、グルテンが形成しにくいものです。

フランスパンの気泡が大きくなる仕組みには、フランスパンを作る工程にさまざまな理由があります。

生地をあまり捏ねない

グルテンの形成が乏しい小麦粉では、せっかくできた気泡を潰してしまわないように生地を必要以上に捏ねません。

また、小麦の風味を活かしたいパンでは、できるだけ空気と触れ合う時間を避けるためミキシング時間も短めにする必要があるのです。

グルテンが弱く、切れてしまう

グルテンが弱いため膜が切れやすく、隣接する気泡とぶつかって大きな一つの気泡になりやすくなります。

これが大きく数の少ない気泡ができる理由の一つでもあります。

また、フランスパンには副材料が入っていないのも、生地の伸展性がなくグルテンが切れやすくなる原因となっています。

直焼きで焼いている

直焼きで焼き上げるフランスパンは、下から熱が一気に加わることで水分が膨張し気泡がさらに大きくなります。

グルテンが弱い生地では、温度の上昇を一気におこなわないとグルテン膜が固まる前に溜め込んだ水分やガスが抜け出してしまうため、パンに一気に火を通すのです。

フランスの小麦はグルテンが少ない

これまでも説明してきたように、フランスの小麦はグルテンが少ないのが特徴です。

それは気泡の形成にも大きく影響しています。

土壌や気候の影響

通常、パンは強力粉で作りますが、フランスパン用の小麦粉は準強力粉や中力粉を使って作ります。

なぜフランスパンは、準強力粉や中力粉が使われているのでしょうか?

どんな食物にも言えることですが、同じ穀物でも土壌や気候の影響で、特徴が変わってきます。

フランスの土壌や気候で育つ小麦は、タンパク質の量が少なく、グルテンの量が乏しいのが特徴です。

小麦粉に含まれているタンパク質の約85%はグリアジンとグルテニンです。

この2つのタンパク質に水を加えて捏ねることで、グルテンが形成されます。

グリアジンは弾力性があるものの伸びにくい性質。

一方、グルテニンは、弾力はありませんが粘着性があり伸びが良い性質があります。

グルテンの形成には双方の性質が必要で、どちらか一方が少なくてもいけません。

しかし、フランスの小麦はグルテンを形成するのに必要なタンパク質の量自体が少ないのが特徴です。

グルテンの量が多い生地は、発酵によって発生した細かく無数の炭酸ガスをしっかり保持することができ、全体的に大きく膨らみます。

フランスパンのようにグルテンが形成されにくい小麦粉では、クラムのきめが細かくふっくらとボリュームのあるパンを作るのは難しかったのです。

そのため、フランスパンのようにボリュームの出ないパンが盛んになったと考えられます。

フランスの小麦粉は灰分の量で分類される

日本では小麦粉をタンパク質の量で分類していますが、フランスでは日本のように強力粉、中力粉、薄力粉と分けられているのではなく、灰分の量で分けられています。

分類はType+数字で表され、数字が大きくなるほど灰分の量が多くなっています。

この分類では、小麦粉はType45からType150まで7つの段階に分けてあり、Type45は灰分の量が0.50%以下、Type150は灰分の量が1.50%以上であることを表しています。

Type65~Type80は日本で言う薄力粉、Type100は中力粉、Type130~Type150は強力粉に該当します。

フランスの小麦粉は全体的にタンパク質が少ないため、このように灰分の量で細かく分類されているのです。

フランスではクラストを楽しむパンとして発展した

グルテンの量が少ないため、フランスでは大きく膨らまず細長いフランスパンが発展します。

フランスのパンは小麦粉、酵母、塩、水を材料とし、油脂や卵、砂糖などの副材料が入りません。

そのため、副材料が入らないほどクラストは硬くしっかりとした食感に仕上がります。

フランスパンのように細長いパンは、縦にボリュームが出にくいため、ほかのパンと比べてクラストの割合が多くなります。

そのため、クラストを味わうことで小麦本来の香りや香ばしさを楽しむパンとして発展したのです。

バゲットが誕生したのは19~20世紀頃

今のようなフランスパン、特にバゲットが誕生したのは19世紀から20世紀にかけてと言われています。

作られるようになったきっかけは諸説あり、法規制で労働時間が短くなったことで早く焼き上げることのできるように細長い形になったとも、フランスにプロシアからの公式訪問があったのを機に、片手で持ちやすい小型のパンを作ったとも言われています。

このような歴史的背景によってフランスパンは誕生し、クラストの割合の多い細長いパンをよりパリパリで香ばしく、楽しめるように工夫していったのです。

現代におけるフランスパン

現代はさまざまな国から食材を輸入することができ、タンパク質の多い小麦粉が栽培できなくても簡単に手に入れることができるようになりました。

しかし、グルテンの少ない小麦粉で作ったフランスパンが、フランスの代表的なパンとなったいま、ふっくらボリュームのあるパンではなく、あえてクラストを楽しむパンがフランスでは作り続けられているのです。

これにはフランスの食文化が関係していると考えられます。

フランスの料理はクリームをベースにしたソースや肉料理、フォアグラなど味の濃いものが主流です。

フランスパンは重厚な料理に合わせて材料は小麦粉、酵母、塩、水とシンプルなもの。

副材料の入らないパンは小麦そのものの味を楽しむことができます。

日本人がお米を主食としているように、フランスではクラストを楽しむフランスパンが食事の中心となっており、定着しています。

フランスの国民食ともなっているフランスパンは、持ち運びしながら手でちぎって食べることも多く、パリパリの食感のクラストが好まれているのです。

唾液の分泌量の違いもパンの好みに関係している

フランス人と日本人では唾液の量が違うと言われています。

日本ではもちもちでふわふわのパンが好まれていますが、これは日本人がフランス人と比べて唾液の分泌量が少ないためと考えられています。

唾液の分泌量が少ないとパンを飲み込みにくいため、もちもちとのど越しの良いパンが多くなったのです。

唾液の分泌量が多いフランス人が食べるパンではこのような必要がなく、パリパリとした食感のパンが好まれていると言われています。

まとめ

今回はフランスパンの気泡が大きい理由について解説しました。

気泡が小さくクラストが柔らかいからといって、決して粗悪品というわけではありませんが、日本でも気泡が大きくクラストが硬いほど、本格的なフランスパンであると認識している方も多いことでしょう。

日本では柔らかいパンが好まれているため、あえて気泡が小さく目の細かいパンを作っていることも少なくありません。生地の特性に加え、その土地の好みや食文化に合わせてパンも作られているのです。

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この記事を書いた人

医療技術系短大卒業後、バイオ系研究室テクニシャンなどを経て、現在はフリーランスのライターとして活動中です。
製パンスクールのプロコースを卒業した経歴を活かし、実践に役立つ製パン知識を、よりわかりやすく科学的にお伝えします。
食育アドバイザー、幼児食インストラクター資格保持。

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