イタリアのパンの種類は?地域ごとの違いや特徴、おいしい食べ方を紹介!
パスタやピッツァなど、イタリアの食べ物は日本人から見ても魅力的なものが多いですよね。
しかし、パンはフランスやドイツのイメージが強く、イタリアのイメージが薄いという方も多いのではないでしょうか?
実は、前菜からメインまでそれぞれにパンが出てくることも少なくないのがイタリア。
イタリアのパンは多くの種類で溢れているのです。
イタリア人にとって、パンは食卓には欠かせない当たり前のもの。日本人にとってのお米のような存在とも言えるでしょう。
ここではイタリアの地域ごとのパンの違いから、特徴とおいしい食べ方を紹介していきたいと思います。
イタリアのパンの特徴
ブーツの形が印象的なイタリアは、国土が南北に長いこともあり、その文化も多種多様。
イタリアの北部では軟質小麦が多く、南部では硬質小麦が多いことからパンの種類もさまざま。
国境付近では、隣接する国の影響で独自のパンが発展し、違いが表れています。
イタリアのパンは、一般的に塩分が少なく味が薄め、水分も少ないものが多いのですが、地域によってその作り方や特徴はさまざまです。
なかには塩が入っていないパンも存在します。
イタリアのパンはほかの料理と一緒に食べることが多く、フランスなどのようにオリーブオイルに浸けて食べるということがあまりないのも、塩が少ない理由の一つと言えるでしょう。
北イタリアのパン
北イタリアはイタリアの北部地域を表す呼び名。
北イタリアに該当するエリアは厳密には決まっていませんが、エミリア=ロマーニャ州より北部を北イタリアと明記することが多いです。
土地が肥えて古くから農作物の栽培に恵まれているため、繊細で柔らかい軟質小麦の栽培が盛んです。
また、南ドイツに近く異国からの文化も入りやすいため、近代化が進んでいる地域でもあります。
グリッシーニ(Grissini)
ピエモンテのパン、グリシア(gherssa)が起源となっています。
「細長いパン」という意味を持つghersseが変化し、grissiniとなったと言われています。
ピエモンテ州のトリノで誕生したパン。
胃腸が弱かったサヴォイア家の王子(後のヴィットーリオ・アメデーオ2世)のために作られたパンと言われています。
食品は火が通った状態の方が消化に良いため、なかまでしっかり火が通るようカリカリに焼いたパンを作らせたことが始まりとされています。
さらにグリッシーニはナポレオンが「トリノの棒」と呼び、好んで食べていたことでも知られています。
細長いスティック状のパンで、そのままスナックとして食べたり、食事用のパンとして食べたりします。
生ハムを巻き付けて食べることも多いのですが、適当な長さに折って食べるのが正式な食べ方です。
フォカッチャ(Focaccia)
ラテン語でfocus、イタリア語でfocalareという「炉端」の意味を持つ言葉が語源となっており、Focacciaは「炉端で焼く、火で焼いたもの」という意味を表しています。
ジェノヴァ地方発祥のパンです。
オーブンが無かった時代に、熱した灰のなかに直接パンを入れて焼いていたことから、この名が付けられました。
ピザの原型になったとも言われているパンです。
指で複数の穴をあけ、オリーブオイルを垂らして焼くのが特徴のパン。
皮はパリっとして中身は非常にもちもちとした食感です。
塩とオリーブオイル、ローズマリーなどをかけた塩味のフォカッチャが有名ですが、ドライフルーツやクルミなどをトッピングした菓子のようなフォカッチャもあります。
そのまま食べてもおいしいのですが、シンプルな味つけなので食事と一緒に食べるのもおすすめです。
チャッペ(Ciappe)
「薄い平たい石、石板」という意味を持つパンです。
リグーリア州タッジャ発祥のパンで、チャッペはこの地方の方言で「薄い平たい石」という意味で使われています。
チャッペの見た目が、家の石材として使われていたアルデーシア石に似ていることから付けられた名前です。
材料にタッジャ名産のオリーブオイルをたっぷりつかってパリパリの食感に仕上げ、パンの代用として食べられてきました。
薄く平たく、水分がほとんどないためパリパリとした食感です。
クラッカーのようにおつまみ感覚で食べると良いでしょう。
パネットーネ(Panettone)
「大きなパン」という意味を持つパンです。
パネトーネ種という発酵種を使って作られるミラノの菓子パンです。
天然酵母で長時間かけて発酵させており、日持ちしやすいためクリスマスの4週間ほど前に作って親族や友人に配り、クリスマスに向けて食べられます。
大きさはさまざまで、カップケーキのような小型のものから、切り分けて食べる大型のものがあります。
「大きなパン」という意味を持つものの、名前の由来はパネトーネ種を使っていることから付けられたと考えられています。
さらに名前の由来には諸説あり、アントーニオ(イタリアではトーニという愛称)という職人が焼いたパンが始まりであることから、「トーニのパン」であることを意味するパーネ・ディ・トーニ(pane di toni)とも呼ばれ、その言葉が訛ってパネットーネになったとも言われています。
もともとはクリスマスのパン菓子として食べられてきたものでしたが、今ではクリスマスだけでなく年中楽しむパンです。
卵をたっぷり入れた甘い生地にドライフルーツを入れているので、おやつとして切り分けて食べます。
少しずつおいしく味わうためには、食べる分だけを切って乾燥しないようにするのが良いでしょう。
パン・デ・メイ(Pan de mei)
イタリア語で「パン」を意味する単語はpaneですが、同じくパンの意味を表すpanは、paneの略語として用いられています。
パン・デ・ミーリオが語源となっており「粟のパン」という意味を持つパンです。
イタリアのロンバルディア州のポレンタ粉(トウモロコシ粉)を使った焼き菓子です。
もともとはポレンタ粉ではなく粟を使っていたことからこの名が付けられました。
パン・デ・メイは4月23日のサン・ジョルジョの日に食べる伝統的な食べ物としても知られています。
サン・ジョルジョの日は、スペイン発祥のサン・ジョルディの日の呼び名が変化したものとされています。
~サン・ジョルジョの日~
スペインのカタルーニャ地方には、サン・ジョルディ伝説というドラゴン退治の言い伝えがあります。
4月23日はドラゴンを退治したサン・ジョルディが殉教した日。
そのため、この日をサン・ジョルディの日として祝うようになったのです。
イタリアでは呼び名が変化してサン・ジョルジョの日となっていますが、世界的にはサン・ジョルディの別名である聖ゲオルギオスの日として知られています。
パン・デ・メイは粉糖のかかった甘いお菓子です。
乾燥して少しぼそぼそとした食感のため、牛乳に浸して食べたり生クリームを添えて食べるのがおすすめです。
コロンバ(Colomba)
正式名称はコロンバ・パスクワーレ(Colomba pasquale)といい、コロンバ(colonba)は「鳩」、パスク(pasqua)は「復活祭」という意味を表しています。
ロンバルディア州のパヴィアが発祥とされており、復活祭(イースター)で食べられているパン菓子です。
572年にこの地域の菓子職人が、侵略してきたランゴバルド族の王へ和解を求めるために作り、渡したのが発祥とされています。
復活祭で鳩は象徴であることから、鳩の形をした型に入れて焼き上げています。
オレンジピールを混ぜた生地を、鳩の形をした型に入れ、アーモンドやあられ糖をまぶして焼き上げます。
本場イタリアでは甘くてリッチな菓子パンとして、甘い飲み物と一緒に食べられています。
キヤッケレ(Chiacchiere)
キヤッケレ(chiacchiere)は「おしゃべり」の意味です。
カーニバルの時期に食べられる揚げ菓子。
イタリア各地に似たような揚げ菓子がありますが、それぞれ呼び名が異なるのが特徴です。
なかでも、キヤッケレはおもにミラノで使われている名称。
食べる音がおしゃべりしているように賑やかであることや、食べているとおしゃべりが弾むということが名前の由来となっています。
生地のなかに、アマレットやラム酒などの甘いお酒が入っているのが特徴です。
パリパリとした食感に揚がっているので、そのままおつまみのようにして食べます。
トルタ・デッレ・ローゼ(Torta delle rose)
トルタ(torta)は丸い厚焼きの料理全般のことで、ホールケーキなどに使われている名称です。
デッレ(delle)は名詞の複数形につく不定冠詞、ローゼ(rose)は「バラ」のこと。
つまり、トルタ・デッレ・ローゼは「バラの花束のホールケーキ」を表しています。
エミリア=ロマーニャ州の北部やヴェネト州南部に伝わる伝統菓子です。
見た目がバラのようであることから名づけられました。
1490年、マントヴァを治めていたゴンザーガ家の婚礼の場でもトルタ・デッレ・ローゼが出されたと言われています。
バターをたっぷり入れたブリオッシュ生地を使っており、広く伸ばしたところにレモン風味のバタークリームを塗り、ロール状に巻いて切ったものを型に敷き詰めて作ります。
巻いた生地をくっつけて焼いているのでちぎりやすく、みんなでとりわけながら食べます。
ミケッタ(Michetta)
ミケッタ(michetta)とは、「小さなミッカ」という意味です。
ミケッタはミラノ地方のパンですが、ローマでは別名ロゼッタと呼ばれているものです。
大きなパンが主流だったオーストリア統治時代に、オーストリア人の要望で小さなパンを作ることになり、ウィーンで一般的なパンであるカイザーを作り始めます。
そのときパンの名前をカイザーではなく、ミラノの一般的なパンであるミッカからとって、小さなミッカの意味を持つ「ミケッタ」と名づけたのです。
ウィーンのカイザーはクラムが多くふわふわのパンであるのに対し、ミケッタは湿度の高いミラノで保存性をあげるために、クラストが硬くなかが空洞のパンとして改良され、誕生しました。
ミケッタは花の形をしているのが特徴で、なかが空洞になっておりクラストがパリパリしているパンです。
クリームなどと合わせて食べるのがおすすめです。
パーネ・ディ・リーゾ(Pane di riso)
パーネ(pane)は「パン、ケーキ」、リーゾ(riso)は「米」の意味です。
ロンバルディア州発祥のパンで、お米で作ったことからついた名前です。
もともと米は10世紀にアラブ人がシチリアに持ち込んだことから始まり、輸入品が徐々に広まっていきますが、16世紀頃からはパダーナ高原を中心に米の栽培が始まります。
このころ、小麦粉が不足していたことから、米を混ぜてパンを作ったと言われています。
もちもちとしつつ軽い食感が特徴で、どのような料理と合わせても相性の良いパンです。
特に米粉だけで作るパンは、グルテンフリーのパンとして健康志向の方やグルテンアレルギーの方に好まれています。
シュッテルブロット(Schüttelbrot)
シュッテル(schuttle)は「シェイクする、揺さぶる」、ブロット(brot)は「パン」という意味です。
いずれもイタリア語ではなくドイツ語の名称であるのが特徴です。
イタリアのパンでありながらドイツ語の名前のパン。
アルト・アディジェ州(南チロル地方)というちょうど国境に位置するこの場所は、異文化が交わる地域なのです。
一説では戦時中にトルコ軍の携帯食として食べられていたパンで、ウィーンを包囲した際に持ち込んでいたものとも。
そのため「トルコ軍の置き手紙」という異名を持っています。
保存性の高いパンを作るために、ライ麦主体で水分を飛ばしたパンです。
水分を飛ばすために発酵の途中で生地を台に叩きつけることから、衝撃を受けたパンという意味のパーネ・スコッソ、叩かれたパンという意味のパーネ・ズバットゥートなどとも呼ばれています。
円盤状で非常に硬く、クラムがほとんどないためクラストの香ばしさを味わうパンです。
冬はスープに入れて柔らかくして食べられています。
パニョッタ・プステレーゼ(Pagnotta pusterese)
パニョッタ(Pagnotta)は「大きなパン」の意味。
トレンティーノ=アルト・アディジェ州発祥の山岳地方で食べられている大きな黒パン。
ライ麦と硬質小麦主体で作られているのが特徴で、生地にはスパイスや地元にある野草などが入っています。
大型で丸い田舎風のパンです。クラムはきめが細かく柔らかいのが特徴。
スパイスや野草が入っていることで風味のあるパンに仕上がります。
味わい深いパンであるため、薄くスライスして少しずつ食べるのがおすすめです。
パアル(Paarl)
パアル(paarl)とは方言で「カップル」の意味です。
トレンティーノ=アルト・アディジェ州発祥のパンで、丸い2つのパンをくっつけて焼いていることからこの名が付けられました。
ヴェノスタ渓谷ではライ麦の栽培が盛んにおこなわれており、ライ麦や全粒粉、小麦粉をブレンドした生地に、この地でとれる香草、スパイスを加えて作られています。
パニョッタ・プステレーゼと同じくライ麦やスパイスの風味を感じられるパンです。
クラムもクラストも柔らかく、テーブルパンとしてちぎりながら食べます。
グバーナ(Gubana)
グバーナ(gubana)の語源はgubaで、「折った部分、曲がったもの」という意味をもちます。
フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州ウディネのパン菓子です。
この地域に住む農民が、クリスマスに食べるお祝いの菓子としてあり合わせの材料で作ったのが始まりと言われています。
gubaがなまってgubanaになったと言われており、伸ばした生地に具材をのせ、ロール状に巻いて成形することからこの名が付けられました。
ドライフルーツやナッツなどを細長い筒状にパン生地で巻き、さらに渦巻きのようにして型に入れて焼く菓子で、見た目はまるでカタツムリの殻のようです。
クリスマスのみならず、さまざまなお祝いに用いられ、ケーキのように中心から切り分けて食べます。
パーネ・ディ・マイス(Pane di mais)
マイス(mais)は「とうもろこし」の意味です。
イタリア北部全域で広がったパン。
アメリカ大陸発見を機にとうもろこしが持ち込まれるようになり、生地にとうもろこしを使ったパンが作られるようになります。
材料にとうもろこし粉を使っていることからこの名が付けられました。
パーネ・ディ・マイスは特にイタリア北部での呼び名ですが、とうもろこし粉を使ったパンは各地で見ることができます。
煮込み料理などがおいしい、寒い時期によく食べられているパンです。
少しパサパサした食感であるため、スープなど汁気のある料理と一緒に食べるのがおすすめの食べ方です。
パンドーロ(Pandoro)
「黄金のパン」という意味のパン。
ヴェネト州ヴェローナで作られており、クリスマスの菓子パンとして食べられています。
中身が黄金色をしていることから、この名が付けられました。
ヴェネト地方にあるナダリンとパン・デ・オーロが合わさってできた菓子で、ヴェネツィア共和国時代に、上流社会での食後のドルチェとして食べられるようになったのが始まりと言われています。
見た目はパネットーネに似ていますが、なかにドライフルーツが入っていないのが特徴。
発酵させて作るパンですが、一般的にドルチェとして扱われています。
甘くリッチなパンなので、おやつとして食べるのがおすすめです。
チャバッタ(Ciabatta)
チャバッタ(ciabatta)は「スリッパ」の意味です。
イタリア北部のポレシーネ地方が発祥のパン。
見た目が細長く、平たいことからスリッパという意味の名前が付けられました。
チャバッタは水分が多いパンで、発酵が長く生地が緩むため、平らに仕上がります。
もともとは水分量の失敗から生まれたパンと言われており、その美味しさから水分が多いままで作られるようになったとされています。
油脂にラードを使って風味を付けているのが特徴のパンです。
水分が多いため、クラストは薄くパリッとしており、クラムはもちもちの食感。空洞が大きく軽い食感で、チーズやハムを挟んで食べるのもおすすめです。
ニョッコ・フリット(Gnocco fritto)
ニョッコ(gnocco)はパスタの一種であるニョッキのこと。
フリット(fritto)は揚げるという意味であるため、「揚げたニョッキ」を意味するパンです。
エミリア=ロマーニャ地方の名物料理である揚げパンです。
エミリア=ロマーニャ地方はもともといくつかの国に分けられていたため、呼び名もさまざま。
ニョッコ・フリットはおもにモデナでの呼び名です。
ボローニャではクレッシェンティーネ(Crescentine)、パルマではトルタ・フリッタ(Torta fritta)という名前で呼ばれています。
なかは空洞になっており、生ハムなどの付け合わせとして食べられています。
モデナでは半分に割ってなかに生ハムを挟んで食べるのが主流です。
ピアディーナ(Piadina)
ピアディーナ(piadina)の語源は明確にはわかっていませんが、「器」の意味を持つ言葉から来ていると言われています。
ロマーニャ地方発祥のパンで、フォカッチャの一種に該当します。
直径10㎝ほどの小型のサイズですが、ピザのような大型のものをピアーダ(piada)と言います。
ロマーニャの方言ではピエ(pié)と呼ばれているパンです。
もともとは小麦粉と塩、ラードと水というシンプルな材料で作られていたもので、ロマーニャ地方の貧しい人たちがパンの代わりとして食べるようになったとされています。
酵母を使っていないため、クレープのように薄いパンに仕上がります。
サラミやチーズ、野菜などを挟んでサンドウィッチのようにして食べるのがおすすめです。
コッピア・フェッラレーゼ(Coppia ferrarese)
コッピア(coppia)は「カップル」の意味です。
2本の棒状のパンが対になった形であることから名づけられたフェッラーラ発祥のパン。
ルネサンスの宮廷で誕生し、カーニバルのために作られたのが始まりとされています。
この変わった形は、アルフォンソ1世・デステの妻であるルクレツィア・ボルジアの髪型、巻き髪がもとになっていると言われています。
水分が非常に少ないパンで、おつまみとしてパルミジャーノのクリームをつけるのがおすすめの食べ方です。
ロゼッタ(Rosetta)
ロゼッタ(rosetta)は「小さなバラ」という意味のパンです。
バラの花のようにみえることから付けられた名前です。
ロゼッタはローマ発祥のパンですが、ミラノではミケッタと呼んでいるパンのことです。
厳密には少し製法が違いますが、ミケッタと同じようにオーストリア支配下に作られたのが始まりと言われています。
バラの形をした小型のパンで中身は空洞です。
野菜やサラミなどを空洞部分に挟んで食べられています。
中部イタリアのパン
中部イタリアとは中部イタリア諸国であるトスカーナ、モデナ、パルマ、ロマーニャがサルデーニャ王国と併合した地域です。
シンプルで豪快な料理の多いこの地域では、お肉料理に合わせたパンが多いのが特徴。
イタリアのパンは塩が少ないと言われていますが、中部イタリアには塩の入ってないパンもあるのが特徴です。
パーネ・トスカーノ(Pane toscano)
「トスカーナのパン」という意味のパンです。
トスカーナ州で誕生した塩が入っていないパンです。
塩の流通を禁止されていた時代に、貴重な塩を使用せずにパンを作ったのが始まりと言われています。
塩が入っていないため、発酵に時間がかかり独特の風味が生まれます。
パン自体に塩気がないため、ハムや煮込み料理など塩気の強い食材と合わせて食べるのがおいしい食べ方です。
ピッツァ・ディ・パスクワ(Pizza di Pasqua)
「復活祭のパン(ピッツァ)」の意味です。
別名、ピッツァ・ディ・フォルマッジョとも言います。
ウンブリア州で作られているパンで、復活祭のときに食べることからこの名が付けられました。
別名にフォルマッジョ(チーズの意味)とあるように、チーズが入っているのが特徴で、この地で作られているペコリーノを入れて作られたのが始まりです。
見た目はまるでスポンジケーキ。ケーキのように切り分けていただきます。
チーズの入ったパンなので、ハムや卵と一緒に朝食として食べるのが昔ながらの食べ方です。
トルタ・アル・テスト(Torta al testo)
「テストで焼いたパン」の意味を持つパン。
テストは焼く時に使うフライパンのような大きな皿状の調理器具のことです。
別名クレッシャやトルタ・ビアンカ、トルタ・スル・パナーロとも呼ばれています。
ウンブリア州名物の平焼きパン。
テストという調理器具を使って作られていることから名づけられました。
忙しく重労働であった農家で、消化が良く家庭で手早く焼けることから作られるようになったと言われています。
ピザのように大きなパンであるため、小さく切り分けて食事に添えたり、具材を挟んでサンドウィッチのようにして食べます。
ボストレンゴ(Bostrengo)
ボストレンゴ(bostrengo)はペーザロでの呼び名。
ほかの地域では別名フルスティンゴロ(frustingolo)ともいい、「ホイップ」という意味を持つパンです。
マルケ州アスコリの伝統菓子で、クリスマスの時期に食べられています。
貧しい時代、古くなったパンを原料に、ドライフルーツやナッツなどの材料を寄せ集めてパイ皿で焼いて作ったことから始まりました。
お祝いの席やクリスマスに食べる菓子で、型に入れて焼いているため切り分けて食後のドルチェとして食べます。
手軽にできる甘い菓子なので、普段のおやつにコーヒーなどと合わせるのも良いでしょう。
マリトッツォ(Maritozzo)
「夫」という意味のmaritoが名前の語源となっているパンです。
正式名称をマリトッツォ・クワレジマーレ(maritozzo quaresimale)といい、クワレジマ(quaresima)は四句節という意味があります。
ローマで、カーニバルと復活祭の間の時期である四句節に食べられていたのが始まりと言われているパンです。
この時期は断食期間であり、40日間に渡ってお肉を控えたりお祭り騒ぎなどをしないように過ごします。
このときに唯一食べることを許されていたのが、マリトッツォなのです。
さらに、マリトッツォは夫となる男性が婚約者に贈る風習があったことからついた名前とも言われています。
丸くて柔らかいパンに切れ目を入れ、生クリームをたっぷり挟んで食べます。
朝食やおやつにカプチーノを合わせて食べられているパンです。
ローマでは生クリームの入らないパンをそのまま食べることもあります。
この場合は生地にレーズンなどを加え、クワレジマーレと呼ばれています。
ピッツァ・ビアンカ(Pizza bianca)
ビアンカ(bianca)は「白」の意味。
つまり「白いピッツァ」を意味するパンです。
ローマ風のピッツァの生地として使われているパン。
もともとは焼き窯の温度を確認するために、試し焼き用として誕生した生地だったのです。
そのため、ピッツァの原型になったパンとも言われています。
生地が薄くクリスピーなピッツァ。
ローマのピッツァはナポリのピッツァとはひと味違う食感が楽しめます。
チーズやハムを挟んだり、クリームを塗ったりと幅広いバリエーションで食べられています。
もちろんそのまま食べるのも美味しいですよ。
パーネ・カサレッチョ・ディ・ジェンツァーノ(Pane casareccio di Genzano)
カサレッチョ(casareccio)は「家庭の、ホームメイド」、ジェンツァーノ(genzano)はカステッリ・ロマーニ地方の町の名前です。
「ジェンツァーノの家庭のパン」という意味を持ちます。
カステッリ・ロマーニ地方のジェンツァーノで作られているパン。
クラムはふわふわと柔らかく気泡が均一に入っています。
このふわふわのクラムを作り出すためにさまざまな工夫がされていますが、クラストの厚さが約3mmと決まっているのもその一つです。
あまり主張のないパンなので、さまざまな料理と合わせることができます。
大きめサイズであるため、切り分けて数日かけて食べるパンです。
南イタリアのパン
イタリアのなかでも温暖なこの地域は、塩味のパスタなどさっぱりした料理が主流。
気温が高く乾燥した土地では麦の種実が硬くなりやすいため、硬質小麦の栽培が盛んです。
また、パンの街と言われるアルタムーラがあるなど、本格的なパンが多いのも南イタリアの特徴です。
フリセッレ(Friselle)
名前の意味についてはイタリア語の文献を探しきれず、残念ながらわかりませんでした。
フリセッレはさまざまな呼び名があり、ナポリではフリセッレの単数形であるフリセッラ/フリゼッラ(Frisella)と 呼ばれています。
プーリア州サレント地方のパン。
航海中の保存食として食べられるようになったと言われています。
そのため、ドーナツのような見た目で中央には穴があいており、持ち運びしやすいように穴に紐をとおして首からかけていたとされています。
発祥には諸説ありますが、フェニキア人が長い航海で持ち運ぶようになったもの、ギリシャ神話に登場するアイネイアスプーリアがプーリアを訪れたさいに持ってきたものなど、言い伝えはさまざまです。
ドーナツのような見た目のパン。
一度焼いたあとに水平にスライスし、さらに焼いて水分を飛ばした硬いパンなので、食べるときには水をかけて少し柔らかくするのが特徴です。
水をかけてしばらく置いたら、トマトやハーブをのせ、オリーブオイルをかけて食べます。
パーネ・プリエーゼ(Pane pugliese)
「プーリアのパン」という意味のパンです。
プーリア地方に伝わるパン。
デュラム小麦の外皮をとったセモリナ粉を使い、ビガという発酵種を使って作ります。
セモリナ粉はさらに細かく砕いたリマチナータ粉というものを使用しているのが特徴です。
ゴツゴツした見た目の大型のパンです。
クラストはパリパリで、クラムはもちもちでふかふかと柔らかいのが特徴。
きめが細かいので薄くスライスしてサンドウィッチして食べるのもおすすめです。
パーネ・ディ・アルタムーラ(Pane di Altamura)
「アルタムーラのパン」という意味のパンです。
アルタムーラ地方で作られているパン。
パーネ・プリエーゼと同じく、リマチナータ粉を使用しています。
もともとは、農民や羊飼いたちの携帯食として用いられてきました。
イタリアにはパーネ・ディ・アルタムーラ管理組合というものがあり、その規定によってパーネ・ディ・アルタムーラの材料は細かく決められています。
決まった材料を忠実に守って作られているもののみパーネ・ディ・アルタムーラと名乗ることができるのです。
手間暇をかけて丁寧に作られているパーネ・ディ・アルタムーラは、イタリアのパンでは唯一、DOP(保護指定原産地表示)を取得しているパンでもあります。
帽子のような見た目をしており、無骨なクラストはカリカリとした食感を味わうことができます。
切り分けて食事用のパンとして、料理と一緒に食べます。
タラッリ(Taralli)
ギリシャ語のトロス(toros)が語源と言われており、「円形状」の意味があります。
タラッリはタラーリとも言われています。
タラッリはいくつか種類があり、さまざまな地域で食べられています。
一番有名なものはプーリア州のもので、手のひらサイズの小さなもの。
ほかにも、ナポリで食べられているものは茹でずに焼き上げるものでプーリアのタラッリよりも大きく、クラストがゴツゴツしています。
いずれもリング状の堅焼きパンですが、材料や製法には少し違いがあります。
プーリア州のタラッリは、小麦粉とオイル、塩に白ワインを使っているのが特徴。
ベーグルのように湯にくぐらせてから焼きます。
一方、ナポリのタラッリは材料に小麦粉、酵母、ラード、塩に加え胡椒やアーモンドが加わり、湯にくぐらせることなく焼き上げるのが特徴です。
ビスケットのようにサクサクで、スナック感覚で食べられているパンです。
レストランでは前菜で提供されています。
ブリオッシュ・コン・ジェラート(Brioche con gelato)
コン(con)は「○○を使った」という意味を表します。
つまり、「ジェラートを使ったブリオッシュ」という意味のパンです。
ブリオッシュのなかにジェラートを挟んでいるパンがシチリア島の名物です。
ブリオッシュは牛乳やバター、卵を使って作るとてもリッチなパンで、パンに切れ込みを入れてジェラートを詰めます。
もともとジェラートはシチリア島が発祥と言われているもの。
一説にはアラブの統治時代にアラブ人が氷を削ってフルーツを混ぜて食べていたシャーベットのようなものが起源と考えられています。
そんなシチリアでは、ジェラートはとても身近な食べ物で、さまざまな食べ方をして楽しんでいます。
ジェラート屋さんではオプションでコーンを選ぶように、ブリオッシュを選択して一緒に食べたりするのです。
朝食やおやつ、夜食としてもさまざまな場面で食べられているパンです。
冷たくてもおいしいパンですが、もし熱々のパンが用意出来たら、冷たいジェラートを挟んでその温度差を楽しむのもおすすめです。
パーネ・ネーロ・ディ・カステルヴェトラーノ(Pane nero di Castelvetrano)
ネーロ(nero)は「黒」、カステルヴェトラーノ(Castelvetrano)は地名です。
つまり、「カステルヴェトラーノの黒パン」という意味を表しています。
硬質小麦の全粒粉に、デュラム小麦の一種でトゥミリアという古代種を加えて作る田舎パンです。
黒ずんだ色をした小麦粉であることからこの名がつけられました。
トゥミリアはカステルヴェトラーノ周辺で栽培されているもので、パンにもよく使われていました。
古代種は作り手が減り存続の危機となっていましたが、スローフード協会によって守られ、近年の健康ブームもあって復活しつつあります。
クラムはとても緻密でみっちりしており、甘みと香ばしさが広がります。
それだけでしっかりと味わいを感じられるので、そのまま食べると良いでしょう。
パーネ・シチリアーノ(Pane siciliano)
「シチリアのパン」の意味です。
シチリアのパンの名の通り、シチリアで主流のパンです。
パーネ・シチリアーノには表面にゴマが振りかけてあるのが特徴。
アラブからゴマが伝わり、ゴマをたっぷり振りかけたパンを作るようになったのが始まりと言われています。
表面にはゴマが振りかけてあり、硬く厚めのクラストとゴマが香ばしさを出しています。
ほんのり甘い生地なので、間食として食べるのもおすすめです。
パーネ・カラザウ(Pane carasau)
「きつね色に焼く」という意味のカラザウトゥーラという言葉が語源となっています。
別名をcarta da musica(カルタ・ダ・ムジカ)とも言い、「楽譜」という意味があります。
サルデーニャの伝統的なパンです。
羊飼いによって作られるようになったと言われ、長期間家を離れて働きに出ているときに作っていたとされています。
とても手間のかかるパンであるため、人手が必要。
家庭の女性たちが集まって作っていたものと言われています。
当時は羊皮紙が聖歌の楽譜として使われており、見た目が羊皮紙に似ていたこのパンは、別名カルタ・ダ・ムジカとも呼ばれるようになりました。
薄くパリパリしたクレープのようなパン。
割ってそのまま食べるか、水やワイン、牛乳やスープなどに浸し、湿らせてから食べます。
まとめ
イタリアのパンは、北部から南部にかけて特徴の異なるパンが豊富にあります。
栽培される小麦粉の違いから、隣接する国々との関係、さまざまな時代背景で生まれたのがイタリアのパンなのです。
基本的にはシンプルな味のパンが多いため、塩気の強い料理と合わせて食べるとおいしいものばかり。
イタリアのパンは日本で言うお米のように大切なものと考え、食事のなかの当たり前の存在として位置づけられているのです。
日本のパン屋さんでは、まだまだ本格的なイタリアのパンは少ないのですが、マリトッツォやブリオッシュ・コン・ジェラートのように専門店も見かけるようになりました。
この機会にぜひ、イタリアならではのパンを堪能してみてください。