ドイツの伝統的なライ麦パンの種類と名前の意味や由来を紹介!
ドイツのパンは世界でもっとも種類が多いと言われており、大型のパンは300種類以上、小型のパンはなんと1200種類を超えると言われています。
バリエーション豊かなドイツパンは、まだまだ日本人には聞きなれない名前が多いです。
今回は、そんな伝統あるドイツパンの名前の意味や、由来について紹介していきたいと思います。
粉の種類による分類
ドイツパンは、粉の種類やその配合率によってパンの呼び名が変わります。
まずは粉の種類による分類について見ていきましょう。
ライ麦粉が90%~100%のパン
粉の配合率の90%~100%をライ麦粉が占めているドイツパンを、「ロッゲンブロート」と言います。
ロッゲンは「ライ麦」、ブロートは「パン」を意味するので、ライ麦粉のパンであることを表しています。
ライ麦粉が主体で小麦粉を配合したパン
ライ麦粉が主体で、残りに小麦粉を配合したドイツパンは、「ロッゲンミッシュブロート」と言います。
ミッシュは「混ぜる」という意味です。
ライ麦粉に小麦粉が少し混ざっていることを表しています。
ライ麦粉と小麦粉が同量のパン
ライ麦粉と小麦粉を同じ量使用するドイツパンを、「ミッシュブロート」と言います。
ミッシュは「混ぜる」という意味なので、ライ麦粉と小麦粉を混ぜ合わせたパンであることを表しています。
小麦粉が主体でライ麦粉を配合したパン
次は、小麦粉が主体で、残りにライ麦粉を配合したドイツパンです。
小麦粉が多い場合は「ヴァイツェンミッシュブロート」と言います。
ヴァイツェンは「小麦」という意味なので、小麦粉にライ麦が少し混ざっていることを表しています。
小麦粉が90%~100%のパン
粉の配合率の90%~100%を小麦粉が占めているドイツパンを、「ヴァイツェンブロート」と言います。
「小麦」の意味を持つヴァイツェンが名前となっているので、小麦粉のパンであることを表しています。
粗挽き粉が90%~100%のパン
粉の配合率の90%~100%を粗挽き粉が占めているドイツパンを、「シュロートブロート」と言います。
シュロートは「粗挽きの穀物」の意味です。
粗挽き粉を主体としたパンであることを表しています。
全粒粉が90%~100%のパン
粉の配合率の90%~100%を全粒粉が占めているドイツパンを、「フォルコンブロート」と言います。
フォルコンは「全粒粉」の意味です。
全粒粉のパンであることを表しています。
ロッゲンブロート(Roggenbrot)
まずは材料に使われる粉のうち、ライ麦粉の配合が90%~100%を占めるロッゲンブロートについて詳しく紹介していきましょう。
ロッゲン(roggen)は「ライ麦」、ブロート(brot)は「パン」です。
パンを表す言葉はたくさんありますが、特にブロートは「大型のパン」を意味しています。
ロッゲンブロートは、ドイツ国内でも特に寒冷である北部地域で誕生したパンです。
寒冷なドイツ北部では、小麦の栽培が難しく、ライ麦粉を使ってパンが作られるようになりました。
ロッゲンブロートは、ライ麦粉の他に、サワー種、塩、水ととてもシンプルな材料から作られるパンです。
ライ麦粉やサワー種を使っているので酸味が強く、クセがあります。
重量感があり目が詰まっているので、薄くスライスすると食べやすく、味の濃い料理に添えて食べられています。
ロッゲンブロートは、丸形やワンローフというナマコのような形など、ベーシックな形で作られるパンです。
程よい大きさがあることで、翌日以降に生地が落ち着き、しっとりとして食べごろになります。
ロッゲンブロートに分類される代表的なパンには次のようなパンがあります。
フロッケンブロート(Flockenbrot)
フロッケン(flocken)は、ドイツ語で「ふんわりしたかけら」「雪のかけら」などを意味します。
ロッゲンブロートの表面に、ライ押し麦をまぶして焼いたパンです。
ライ押し麦がまぶしてある見た目から、雪のかけらのようであると表現され、フロッケンブロートと名づけられました。
しっかりと焼かれたクラストで、ライ押し麦の香ばしい味わいが特徴のパンです。
薄くスライスして食べます。
ロッゲンザフトブロート(Roggensaftbrot)
ロッゲンは「ライ麦」、ザフト(saft)はドイツ語で「ジュース」「樹液」を意味します。
ロッゲンザフトブロートは、水分量の多いライ麦パンです。
生地の水分量の多さから、ジュースや樹液の意味を持つザフトという言葉が名前に使われています。
型に入れて長時間蒸し焼きにすることで、水分が逃げることなくしっとりし、ずっしりと重みのあるパンになります。
水分が多いため、ライ麦パンでもパサつかずしっとりしているのが特徴。
酸味は強いのですが、ライ麦パンのぼそぼそした感じが苦手という人にはおすすめのパンです。
ロッゲンミッシュブロート(Roggenmishbrot)
ロッゲンミッシュブロートは、ライ麦粉が主体で小麦粉を配合したパンです。
ミッシュとは「混ぜる」という意味で、ここではライ麦粉に少し小麦粉を混ぜたパンであることを表しています。
小麦粉が手に入りにくいドイツ北部では、貴重な小麦粉を少しだけ加え工夫し、酸味の強いライ麦パンを食べやすくしていたのです。
ロッゲンミッシュブロートには、次のようなパンが含まれます。
ベルリーナラントブロート(Berlinerlandbrot)
ドイツ語で、ベルリーナ(berliner)は「ベルリン」、ラント(land)は「国」の意味です。
ドイツ北部のベルリン近郊で作られたパンで、ベルリン風の田舎パンとして知られています。
ライ麦を多くすることで生地を酸性にし、日持ちを良くしていたとされています。
最終発酵のときに表面を乾燥させて焼くことで、木目模様のひびが入り見た目にも野性味あふれるパンです。
適度な量のひびの影響でバランスよく蒸気が抜け、クラムは均等に目の細かい気泡ができます。
味の濃い料理に負けない酸味で、普段の食事パンとして親しまれています。
ロッゲンブロートヒェン(Roggenbrotchen)
ロッゲンは「ライ麦」、ブロートヒェン(brotchen)は「小型のパン」を意味しています。
ブロートヒェンは、日本ではブレートヒェンやブレートヘン、ブローチェンなどさまざまな呼び方で表記されています。
名前にロッゲンがつくパンは、基本的にライ麦粉が主体のパンを表しているのですが、ロッゲンブロートヒェンは小型パンであるため、ライ麦が多いとボリュームがでません。
そのため、ライ麦と小麦粉が同量使われているのが特徴です。
ドイツ人は夕食にあまり重きを置いていなく、パンを食べても大型のパンを薄く切って取り分ける程度です。
しかし、しっかり食べる朝食や昼食では、一人一つずつの小型のパンが食べられています。
水平にカットし、ジャムやクリームを塗ったり、具を挟んだりしてサンドイッチとして食べます。
フィンシュガウアー(Vinschgauer)
フィンシュガウアーは、イタリアとオーストリアにまたがるチロル地方の都市の名前です。
ドイツがオーストリアを支配下に置いていた時代に、チロル地方で作られ始めたことからこの名がつけられました。
ドイツではバイエルン地方でよく食べられています。
材料にクローバーという香草やキャラウェイシードが入るため、スパイスが香るパンです。
ヨーロッパでは広い国土の中で遠くまで食材を運んだり、備蓄するために腐敗を防ぐ目的でスパイスが積極的に使われてきました。
パンに使うスパイスは、パン用のスパイスが使われています。ドイツではこのようにスパイスを使ったパンはポピュラーです。
加水率が非常に高いため、すくい上げるようにして成形しているので、不均一な形をしているのが特徴です。
ミッシュブロート(Mishbrot)
ミッシュ(mish)は「混ぜる」、ブロートは「パン」の意味です。
混ぜたパンという意味をもつミッシュブロートは、ライ麦粉と小麦粉を同じ量混ぜて作ったドイツパンの総称です。
ライ麦粉のほどよい酸味と、小麦粉によるしっとりしたクラムで、どのような食事にも合う万能なパンとして誕生しました。
ソーセージやチーズなどと一緒に食べたり、ビールやワインなどのお酒と一緒に食べるなど、さまざまな食べ方をします。
ヴァイツェンミッシュブロート(Weizenmischbrot)
ヴァイツェン(weizen)は「小麦」という意味です。
ヴァイツェンミッシュブロートは、小麦を主体としてライ麦粉と混ぜて作ったパンのことを表しています。
小麦粉が主体のパンは、小麦の栽培が盛んなドイツ南部でおもに作られていました。
小麦粉の分量が多いため、グルテンが形成されミッシュブロートよりもボリュームが出やすく、クラムは気泡が多くなります。
そのため、酸味もより穏やかに感じ食べやすいのが特徴です。
ここからは、ヴァイツェンミッシュブロートに分類されるパンについて紹介したいと思います。
シュヴァイツァーブロート(Schweizerbrot)
シュヴァイツァー(schweizer)は「スイス」、ブロートは「パン」という意味です。
シュヴァイツァーは、スイス風の大型パンという意味でついた名前です。
しかし、ドイツのパンでありながらなぜスイスのパンという意味の名前がついたのかは、調べた限り不明でした。
スイスでは小麦粉は貴重で、小麦粉のパンでもライ麦粉を混ぜて食べるのが日常のパンです。
そこからヴァイツェンミッシュブロートの一種であるパンに、そう名づけたのではないかと考える人もいます。
クラストはバリっとして見た目は硬そうなパンですが、クラムはふわふわです。
食べやすさにライ麦のコクが加わったパンで、普段の食事パンとして食べられています。
シュヴァルツヴァルトブロート(Schwarzwaldbrot)
シュヴァルツヴァルト(schwarzwald)は地名であるほか、「黒い森」という意味があります。
また、シュヴァルツヴァルダーラントブロートと呼ばれることもあります。
ドイツ南部のシュヴァルツヴァルト地域は、ドイツトウヒという木で覆われ、密集した状態が黒く見えることから、黒い森という意味のシュヴァルツヴァルトという地名がつけられました。
この地域で作られたパンであることから、地名の由来である黒い森を模して作られています。
焼成前に表面に糖蜜を塗ることで黒く焼き上げ、黒い森を表現しています。
ヴァイツェンブロート(Weizenbrot)
ヴァイツェンブロートは、材料に使われる粉のうち、小麦粉の配合が90%~100%を占めるドイツパンです。ヴァイスブロート(Weißbrot)とも呼ばれます。
ヴァイス(Weiß)はドイツ語で「白」、ブロートは「パン」という意味です。
ヴァイツェンは「小麦」を表す言葉ですが、ライ麦パンを黒パンと呼ぶのに対して、小麦粉でできたパンは白パンと呼ばれます。
そのため、ヴァイツェンにも「白」という意味があり、ヴァイツェンブロートとヴァイスブロートは同義で使われます。
小麦粉の配合が高く、クラムの色が白く仕上がることからこの名前がつけられました。
寒冷なドイツ北部に対し、比較的気候が穏やかで小麦の栽培に向いている南部地域で作られるようになった伝統的なパンです。
今ではドイツ内でもさまざまなパンが作られ、北部でも作られています。
クラムはふっくらとし、軽い食感が特徴のパンです。
ここからはヴァイツェンブロートに分類されるパンについて紹介したいと思います。
セーレン(Seelen)
セーレンは「魂」「精神」という意味があり、ゼーレ(Seele) 、シュベービシュゼーレとも呼ばれています。
小麦粉で作る細長いパンです。
ドイツ南西部のシュバーベン地方で、万霊祭で食べるために作られ、一つの生地をわかちあって食べていたのが始まりです。
小麦粉の量を減らすために水を多く使っています。
成形が難しいほど水分が多くバタつきやすい生地ですが、その分クラムがもっちりしています。
生地が柔らかいので、分割して生地を少しねじるようにすくいとって高温で焼きます。
そのため、ややいびつな形をしているのが特徴です。
キャラウェイシードや粗塩をトッピングしており、軽くてあっさりしたパンのアクセントになります。
アインバック(Einback)
アイン(ein)は「1」、バック(back、backen)は「焼く」という意味です。「一度焼き」「ひとつにまとめて焼く」という意味を表しています。
アインバックは、コッペパンが連結したような形をしています。
パンを繋げて一度にまとめて焼くことから、このように名づけられました。
繋げて焼くことでより多くのパンを焼くことができため、大勢で集まる時に作られています。
ちなみに「2」はツヴァイ(zwei)。ツヴァイバックは「二度焼いたパン」を表し、英語ではラスクと呼ばれている菓子のことです。
ラスクはビスケットの一種に分類されており、ビスケットという名前も、フランス語で「2」を意味するビス(bis)、焼かれたという意味のケット(cuit)からきた言葉で、「二度焼いたパン」を表しています。
スライスしたパンを再度パリパリになるように焼く、つまり2回焼くのでそう呼ばれています。
砂糖やバターを多く使っているため、ふわふわとして柔らかく、優しい甘さです。そのまま食べても美味しいので、子供からお年寄りまで親しまれています。
日本でいうちぎりパンのようなもので、見た目のインパクトがあり、パーティなどで大勢集まって1本ずつちぎって食べられるパンです。
ちぎったパンに具をはさみ、サンドイッチとしても楽しめます。
ローゼンヴェッケン(Rosenwecken)
ローゼン(rosen)は「バラ」ヴェッケン(wecken)は「小型パン」のことです。
小型パンを表す言葉はいくつかあり、これまで紹介したブロートヒェンやゼンメルがあります。
南ドイツでは小型パンはヴェッケンやゼンメル、ローゼンブロートヒェンやキーラーフェットゼンメルなどさまざまな呼び方をしています。
見た目がバラのような形をしていることから、この名がつけられました。
テーブルロールとして食べられているパンで、クラストに立体感があります。
そのため焼きたては軽い食感ですが、時間がたつと硬くなりやすいパンです。焼きたてを食べるのがベストでしょう。
シュトレン(Stollen)
シュトレンは「坑道」「トンネル」の意味です。シュトーレンとも呼ばれています。
シュトレンの原型とされるパンが、ナウムブルクという地域で司教への献上品として誕生したと言われています。
おくるみで包まれている幼子のイエス・キリストを連想し、パンの表面を白い砂糖でコーティングして作られました。
そのため、このパンには「キリストのゆりかごの形」や「キリストを包んだ毛布」の意味があります。
シュトレンという名前がついたのは、150年ほどあとの1500年頃。
トンネルのような形をしていることから名づけられました。
シュトレンという名前になってから広く知れ渡り、きっかけがドレスデンという地域であることから、一般的に発祥はドレスデンとなっています。
シュトレンの原型にある「キリストのゆりかごの形」や「キリストを包んだ毛布」の意味から、今でもイエス・キリストに因んだクリスマス前のパンとして知られているのです。
発祥となるドレスデンでは、12月になると巨大なシュトレンを乗せた馬車が、街なかをパレードします。
小麦粉に対し、バターは30%以上、ドライフルーツ60%以上を配合しているパンです。
焼いたあと、表面にたっぷりのバターを染み込ませ、砂糖でコーティングすることで日持ちが良くなります。
2~3週間日持ちするので、クリスマスに向けて少しずづスライスして食べます。
シュロートブロート(Schrotbrot)
シュロート(schrot)は「粗挽きの穀物」、ブロートは「パン」の意味です。
粉の配合率の90%~100%を粗挽き粉が占めているドイツパンであることを表しており、噛みしめるほどに穀物のコクと酸味を感じることができます。
ここからはシュロートブロートに分類されるパンについて紹介したいと思います。
ロッゲンシュロートブロート(Roggenschrotbrot)
ロッゲンは「ライ麦」、シュロートは「粗挽きの穀物」の意味です。
胚芽を取り除いていないライ麦の粗挽き粉を使ったパンであることからこの名がつけられました。
クラムはしっかりと詰まって、きめが細かいパンです。
生地に雑穀やヒマワリの種などを混ぜて作ることもあり、食物繊維が豊富で栄養価が高いのが特徴です。
しっかりした食感と香ばしさから、少量でも噛みしめるほどに味がでます。
素朴な味わいで、濃い料理と一緒に食べる食事パンとして選ばれています。
プンパニッケル(Pumpernickel)
プンパ(pumper)はドイツの古い言葉で「おなら」、ニッケル(nickel)は「(金属の)ニッケル」や「山の妖精ニッケル」の意味です。
プンパーニッケルとも呼ばれています。
ドイツ北部にあるヴェストファーレン地方が発祥のパンです。
現在はドイツ全体で食べられています。
プンパニッケルの名前の由来を説明する前に、まずはニッケルについてお話しましょう。
1600年代のドイツで、銅鉱石に似た石から銅を取り出そうとしていましたが、なかなかうまくいかず、これは山の精ニッケルがいたずらをしているに違いないと考えていました。
そこからこの石は、クッファーニッケル(Kupfernickel)と呼ばれるようになります。
クッファー(kupfer)とは「銅」のことです。
しかし、実際にその石に含まれていたのは銅ではない金属。
高熱を加え取りだすことができた金属に、山の精の名からニッケルと名づけたのです。
そのため、ニッケルという言葉には、いたずらをする山の精のような意味が含まれています。
さて、本題のプンパニッケルですが、プンパは英語で「押しだす」という意味のパンプ(pump)」や、「おならをする」という意味のプンパーン(pumpern)が語源と言われています。
つまり、「妖精のおなら」を意味する名前です。
この名前は、プンパニッケルが独特の臭いがすることや、白パンと対照的で庶民が食べるパンだからと、少しネガティブな意味で名づけられたとも言われています。
さらに、食物繊維が豊富で腸の働きが活発になり、おならがでることから名づけられたという説もあります。
黒パンの代名詞としても知られるプンパニッケルは、先に紹介したロッゲンシュロートブロートのひとつとして分類されます。
そのため、ライ麦の全粒粉を使用しています。
蒸し焼きで4~20時間をかけて作り水分の逃げがほとんどなく、もちもちとした食感です。ライ麦だけど酸味はマイルド。
重量感があるので、薄くスライスして食べます。
フォルコンブロート(Vollkornbrot)
粉の配合率の90%~100%を全粒粉が占めているドイツパンです。
フォル(voll)が「全体」コン(korn)が「穀物」の意味で、雑穀をブレンドすることもあります。
翌日から一週間後までが食べごろのパンで、薄めにスライスして食べます。
ロッゲンフォルコンブロート(Roggenvollkornbrot)
ロッゲンは「ライ麦」、フォルコンは「全粒粉」です。
ライ麦全粒粉が粉の配合率の90%~100%を占めていることから名づけられました。
小麦がとれないドイツ北部発祥のパンです。
酸味が落ち着く次の日以降が食べごろ。薄くスライスして肉料理やシチューと一緒に食べます。
ヴァイツェンフォルコンブロート(Weizenvollkornbrot)
ヴァイツェンは「小麦」、フォルコンは「全粒粉」の意味です。
小麦全粒粉が主体のパンであることから名づけられました。
小麦なので酸味はほとんどなく、小麦を丸ごと使うので栄養価の高さが人気のパンです。
やや厚めに切って食べます。
メーアコンブロート(Mehrkornbrot)
メーア(mehr)は「もっと」という意味である英語のmoreが語源、コンはドイツ語で「穀類」を意味します。
メアコンブロート、メアコーンブロートとも呼ばれています。
複数の穀粒粉が入った大型のパンであることから、メーアコンブロートと名付けられました。
使われる穀粒粉は店によってさまざまですが、3種類の場合はドライコンブロート、4種類の場合はフィアコンブロート、5種類の場合はフュンフコンブロートと呼び分けています。
雑穀のさまざまな味わいが楽しめるパンで、栄養価の高さが特徴です。
薄くスライスしてサンドイッチなどにして食べられています。
コミスブロート(Kommissbrot)
コミス(kommiss)は「軍隊」のこと。
コミスブロートは軍隊のパンという意味のパンで、16世紀ごろ、兵士のために作られていたシンプルなパンが始まりです。
保存性と栄養価の高さから、第二次世界大戦でも軍事用パンとして食べられていました。
コスミブロートには軍用パンの意味しかなく、パンの特徴に明確な定義はありません。
もともとはライ麦粉で作られていましたが、今では小麦粉が混ぜられていたり、雑穀などさまざまな材料で作られています。
クラムは黒っぽくゴツゴツとしているのが主流です。
日持ちのするパンですが、日がたつにつれ硬くなってくるので、ナイフで薄くスライスしながら食べます。
ラウゲン液を使ったパン
ラウゲン液とは2~4%の濃度にした水酸化ナトリウム水溶液(苛性ソーダ)のことです。
劇物に指定されるアルカリ溶液で、ドイツではラウゲンと呼んでいます。
掃除用に使っていたラウゲン液にパン生地が落ちてしまい、もったいなくてそのまま焼いてみたところ美味しくなったという話から、パンに使うようになったと言われています。
ラウゲンブレッツェル(Laugenbrezel)
ブレッツェル(brezel)はラテン語で「腕」を意味します。
ラウゲンブレーツェルとも呼ばれます。日本ではプレッツェルとも呼ばれています。
ブレッツェルの発祥ははっきりとはわかっておらず、さまざまな説があります。
まず一つ目は、中世ヨーロッパの僧院で作られていたパン、「ブラセルス」が由来となっている説です。
腕組みをしているような形は、「神に服従する」という意味や「愛」を表現していると言われています。
次に、埋葬品を模したという説です。
死者を埋葬するときに、一緒に腕輪や指輪、首輪などを入れていたことから、参列者にも模造品が配られていました。
いつしか模造品はパンで作られるようになり、それがブレッツェルの始まりではないかと言われています。
しっかりと記録として残っているのは、11~12世紀に同業組合であるギルドが作られたときです。
ドイツではさまざまなお店に、その職種を表す紋章が使われています。
神にささげる食べ物として、ドイツでは名物となっていたブレッツェルがパン屋のシンブルマークとして使われるようになったのです。
大きさはさまざまで、大きめのラウゲンブレッツェルはもちもちとした柔らかい食感、日本でもたまに見かける小さいサイズはしっかり焼き上げ、カリカリと硬い仕上がりになります。
ラウゲンブロートヒェン(Laugenbrötchen)
ラウゲンは「水酸化ナトリウム水溶液」、ブロートヒェンは「小型のパン」の意味です。
ラウゲン液に浸して、焼いて作った小型パンであることからこの名がつけられています。
ラウゲン液で作ったパンはドイツ人に人気があり、シンプルなパンでもラウゲン液に浸して作っていました。
小型のシンプルなパンですが、ごまやケシの実が載っていたりすることもあります。
ラウゲンシュタンゲ(Laugenstange)
ラウゲンは「水酸化ナトリウム水溶液」、シュタンゲは「棒状の」という意味です。
ラウゲン液に浸して焼いて作った、棒状のパンであることからこの名がつけられました。
棒状のパンは、ドイツでは一般的な形。
定番のパンは、ラウゲン液に浸しても作られています。
棒状のパンで、バゲットのような形をしています。
かぼちゃの種が載っていることもあるパンです。
ラウゲンクロワッサン(Laugencroissants)
ラウゲンはドイツ語で「水酸化ナトリウム水溶液」、クロワッサンは「三日月」を意味するフランス語です。
フランス発祥のクロワッサンを、ラウゲン液に浸して焼いたことからこの名がつけられました。
ドイツでは、クロワッサンは間食として食べることの多いパンです。
ラウゲン液に浸して作られるパンは塩気のあるパンであることから、おやつ感覚で食べられます。
後述するプルンダーの生地と比べて、クロワッサン生地は砂糖や卵の割合が少ないことから、ラウゲン液に浸すパンとして相性がよかったと考えられます。
そのままはもちろん、サンドイッチにしても食べられているパンです。
ラウゲンエッケ(Laugenecke)
ラウゲンは「水酸化ナトリウム水溶液」、エッケは「角」を意味します。
クロワッサンと同じ生地を三角形にカットして、ラウゲン液に浸して焼いたことからこの名がつけられました。
ラウゲンクロワッサンと同様、そのままはもちろん、サンドイッチにして食べられています。
クロワッサンのように巻いて作るわけではないので、空気の層が少なく、歯ごたえの強い仕上がりになります。
ファイネバックヴァーレン(Feinebackwaren)
ファイネバックヴァーレンは、バターや卵、砂糖を多く使ったドイツのリッチなパンのことです。
油脂や砂糖が、重量の10%以上を占めているのが特徴です。
ファイネ(feine)は「上品な」や「上質の」、バックは「焼く」を意味しています。
ヴァーレン(waren)は、「私たち」を意味するwirや「あなた達」を意味するsieの過去形です。
つまり、ファイネバックヴァーレンは菓子パンの総称として使われている名前です。
ほかにも、ファインバックヴァーレン(Feinbackwaren)やファインケベック(Feingbäck)などと呼ばれています。
つぎは、ファイネバックヴァーレンに分類されるパンについて紹介していきたいと思います。
クワルクプルンダー(Quarkplunder)
クワルク(quark)はドイツのフレッシュチーズの名前。
また、ドイツではバターを織り込んで焼いた層状のパンを、プルンダー(plunder)と呼んでいます。
日本でデニッシュと呼んでいるのものが、ドイツ語ではプルンダーにあたります。
プルンダーのなかに、クワルクというチーズを入れて作ることから名づけられました。
プルンダーでクワルクを包んで焼いた菓子パンです。
サクサクのパイ生地と、バターのしっとりとした内層がとてもリッチなパンです。
モーンプルンダー(Mohnplunder)
モーンは「ケシの実」、プルンダーはバターを織り込んで焼いた層状のパンです。
ケシの実を砂糖や牛乳などで煮てペースト状にして作るモーンペーストを、プルンダー生地に巻き込んで焼いたことからこの名がつけられました。
菓子パンとしての位置づけなので、おやつとして食べることが多いパンです。
ブレヒクーヘン(Blechkuchen)
ブレヒ(blech)とは「天板」のこと。
クーヘン(kuchen)は「お菓子」を意味します。
甘い生地を天板に敷いて焼き上げる菓子パンであることから、この名がつけられました。
菓子職人ではないパン屋で焼かれる菓子パンは、繊細な物とは違い、このように天板いっぱいに大きく焼かれるものが多かったのです。
このように天板で大きく焼くパンは、北ドイツでよく見られます。
水分量が多くバターもたっぷり使うので、ふわふわとしたケーキのような食感に仕上がります。
切り分けて食べる菓子パンです。
ベルリーナプファンクーヘン(Berlinerpfannkuchen)
ベルリーナ(berliner)は「ベルリン」、プファン(pfann)は「大鍋」のことです。プファンクーヘンで「パンケーキ」という意味があります。
ベルリーナーやバーリナー・バーライナーとも呼ばれている菓子パンです。
ドーナツの原型とも言われる、ベルリン発祥の揚げ菓子です。
1950年代に、オーブンのない環境でパン職人が兵士にふるまうために、大鍋でパン生地を揚げたのが始まりと言われています。
穴のない揚げドーナツで、なかにジャムなどのフィリングを詰めています。
大晦日や謝肉祭で祝日を祝って食べられており、大晦日では日本でいう年越しそばのような位置づけのパンです。
またドイツでは、カーニバルのあとに羽目を外したことを戒める意味合いで、断食をおこなう風習があります。
断食のまえにカロリーの高いベルリーナプファンクーヘンを食べておこう、ということで取り入れるようになったと言われています。
ロジーネンブロートヒェン(Rosinenbrotchen)
ロジーネン(rosinen)は「グリーンレーズン」、ブロートヒェンは「小型のパン」の意味です。
グリーンレーズンを生地に練りこんで作る小型パンであることから、この名がつけられました。
大型のパンの場合は、ロジーネンブロートと呼ばれます。
バターやクリームチーズとの相性がよく、パンにつけて食べられています。
ストロイゼルクーヘン(Streuselkuchen)
ストロイゼル(streusel)は「そぼろ」、クーヘンは「お菓子」の意味です。
天板に平らに広げた菓子パン生地に、カスタードクリームを塗り、そぼろを敷き詰めて焼いたことからその名がつけられました。
そぼろはバター、砂糖、小麦粉で作るクッキー生地のようなものです。
このように天板で大きく焼くパンは、北ドイツによく見られます。
ケーキのように、切り分けて食べます。
モーンシュネッケン(Mohnschnecken)
モーンは「ケシの実」、シュネッケン(schnecken)は「カタツムリ」の意味です。
ケシの実のペーストを塗って巻いていることと、巻いてカットしたその形がカタツムリの渦巻きに似ていることから名づけられました。
バターを折り込んだ生地を使って作る、サクサクの食感が特徴のパンです。
ヌスシュネッケン(Nussschnecken)
ヌス(nuss)は「木の実」、シュネッケンは「カタツムリ」の意味です。
木の実のペーストを塗って巻いていることと、カタツムリの渦巻きに似ていることから名づけられました。
基本的にはバターを織り込んだ生地で作り、サクサクとしていますが、店によってはふわふわの菓子パン生地にしているところもあります。
ヌスクーヘン(Nusskuchen)
ヌスは「木の実」、クーヘンは「お菓子」の意味です。
木の実を使った菓子、「ナッツケーキ」を表すことからこの名がつきました。
木の実の豊富なドイツでは、木の実を使ったパンがたくさんあります。
砂糖をたっぷり使ったパンで、2~3日後がより味が馴染んで美味しくなります。
ツォップ(Zopf)
ツォップ(zopf)とは「編み込んだ髪」の意味です。
細長く伸ばした複数のパン生地を、編み込んで成形することからこの名がつけられました。
日曜日の朝、教会で礼拝したあとに家族で食べる伝統的なパンです。
古代ヨーロッパでは、埋葬品のなかに女性の編み込んだ髪の毛を入れていた歴史があり、編み込み技術を取り入れた装飾パンは、祭事や特別な日に食べられるようになりました。
生地を編み込んで作る見た目に美しいパンで、焼成前に卵を塗り、ナッツや砂糖をトッピングして焼きます。
ファイネバックヴァーレンに分類されており、砂糖や卵をたくさん使うことも多いのですが、歴史的に長いこと編み込みパンが作られてきた背景から、本来は甘くないパンです。
まとめ
今回はドイツのパンを紹介しましたが、ここでは紹介しつくせないほどまだまだたくさんのパンが存在します。
ドイツのパンは、使う粉の種類や割合、パンの大きさから名前がついているのが基本です。
一つ一つパンの名前を覚えると大変ですが、ベースを覚えてしまえばどのようなパンであるのかがわかってきますよ。