ロシアはピロシキだけじゃない!ライ麦を使った黒パンなどパンの種類や特徴を発祥や伝統など歴史的な観点から紹介!
ロシアのパンと言えば、ピロシキのイメージが強いかと思います。
冬の寒さが厳しいロシアでは、ライ麦や蕎麦を使ったパンや保存食としてのパンが発展しました。
そんなロシアには、ライ麦を使った黒パンを中心に、ほかにもさまざまな種類のパンがあるのです。
ここでは、ロシアのパンの種類やその特徴を発祥や伝統など歴史的な観点から紹介したいと思います。
ロシアとは
広大な土地を持つロシアは、ユーラシア大陸のアジアとヨーロッパにまたがる世界最大の国です。
その国土面積は、日本の約45倍ともなる約1710万㎢にもおよびます。
ロシアの歴史は、6~7世紀頃の東スラブ人の定住から始まったとされています。
キエフ大公国やモスクワ大公国などの時代を経て、1721年から1917年まで存在したロシア帝国は、1917年にロシア革命が起こり、1922年にソビエト連邦の誕生を経て、1991年には80以上の共和国や自治州からなるロシア連邦となりました。
広大な国土には100以上の民族が暮らしており、各民族の影響を受けた料理や食文化があります。
また、ロシアと隣接する国は、陸続きだと旧ソ連共和国も含め14、海上の国境も入れると16にもなるのです。
ロシアの食文化
ロシアの食文化にはどのような特徴があるのでしょうか?
土地柄の影響
ロシアの国土の多くは北緯45度以北にあり、冬は非常に厳しい寒さとなります。
このような寒冷地では小麦などの作物は育ちにくく、ライ麦や蕎麦を中心に栽培されていました。
そのため、ライ麦や蕎麦を使った料理が多く、パンにもライ麦粉やそば蕎麦粉が使われています。
一方、ロシアの南の方では比較的暖かくなることから、小麦を作ることが可能です。
隣国の影響
広大な国土を持つロシアは、ユーラシア大陸のアジアとヨーロッパにまたがっていることから、さまざまな国々と隣接しています。
17世紀末ごろになると、ロシアにフランスの宮廷料理人などを招くようになったと言われています。
今でこそフランスと言えばフルコースのような順番に料理を提供するスタイルが定番となっていますが、もともとは一度に料理を出して食べていたのだとか。
寒冷地であるロシアが料理を冷めないように一品ずつ出していたものが、逆輸入される形でフランスに伝わったと言われています。
庶民と貴族の食事
18世紀の皇帝ピョートル1世の時代になると、本格的にフランスやオーストリアから料理人を呼び寄せ、高級食材や珍しい果物を使った宮廷料理が食べられるようになりました。
このころの貴族たちは、西洋料理で贅を尽くしていたのです。
19世紀になると、ロシア料理の代表であるビーフストロガノフが誕生します。
ビーフストロガノフは、貴族であるストロガノフ家の当主のために作られたのが始まりと言われています。
一方、地主の奴隷のような存在であった庶民のほとんどは農民で、食事は貴族とは違って非常に貧しいものでした。
そのため、寒冷なロシアでよく育つライ麦や蕎麦を使った食事が主体で、特にライ麦から作る黒パンが食べられていました。
さらに、厳しい寒さを乗り切るための保存食が発達し、ピクルスやジャム、酢漬けにしたキャベツなどが作られていました。
代表的な食事として、蕎麦の実などを使って作るカーシャという粥や、キャベツの入ったスープであるシチーなどが食べられていました。
しかし、現在では貴族のビーフストロガノフも、庶民のカーシャやシチーも、ロシアの一般的な料理となっています。
宗教の影響
ロシアで主力派となっているのはキリスト教、おもにロシア正教会です。
ほかにも、イスラム教や仏教、ユダヤ教などがありますが、信仰している人の多いロシア正教会は、ロシアの食文化にも影響を与えています。
ロシア正教会の歴史はどこからを出発点とするのかで、さまざまな専門家の間で意見が分かれています。
そのためいつごろかは不明ですが、正教会では、金曜日やクリスマス前、復活大祭の前など、魚や肉、乳製品を食べられない日が定められています。
飲食の規制は非常に複雑であるため、正教会では食べてはいけないものと日付がわかりやすいようにカレンダーを配布しているのです。
たくさんの規制があることから、ロシアでは野菜を使った料理がたくさん誕生しました。
ロシアのパン
ここからは、ロシアの代表的なパンを紹介していきたいと思います。
ピロシキ(пирожки)
日本でピロシキと言えば、油で揚げたものが多いのですが、本場ロシアではオーブンで焼いたものが主流です。
ヨーロッパ側の地域ではオーブンで焼いたタイプ、シベリア側では揚げたものが多いのが特徴です。
ロシアのピロシキは春雨が入ったものはさほど多くなく、ご飯やゆで卵、キャベツ、レバーなどが具材として使われています。
家庭料理としてはちもちろん、屋台やフォーマルなレストランの前菜やメインとしてなど、さまざまな場で食べられています。
ピロシキとは「小さなパイ」を意味し、おもな生地はパン生地で出来ていますが、クレープ生地やパイ生地、クッキー生地などもあります。
元々はロシアの家庭料理として、家にある食材を炒めて生地で包み、揚げ焼きにして食べていたことから始まりました。
日本のピロシキは中国経由で入ってきたことから、具材に春雨が使われています。
黒パン(черный хлеб)
ロシアの主食のパンのひとつ。
ライ麦粉に蕎麦粉や小麦粉を配合しており、独特な酸味とずっしりとした重さのあるパンです。
水の浸透に時間がかかり成形しにくいことから、型に入れて焼き上げるのが特徴です。
ロシアのスープのボルシチと一緒に食べたり、サワークリームやキャビアなどをのせて食べます。
目が詰まっているため、食感はやや固め。出来上がってから1日経った頃が美味しいと言われています。
寒冷地であるロシアは、土地がやせているため、そのような土地でも育つライ麦は重宝されています。
もともとは庶民の食べものでしたが、栄養価もあることから今では健康に良い食べ物として人気となっています。
クリーチ(кулич)
小麦粉にイーストを使ったパンですが、円筒型の容器でカップケーキのように焼き上げ、白いアイシングでデコレーションします。
バターがたっぷり配合されているため、バターケーキのようなリッチな味わいのパンです。
クリーチは、パスハというロシア正教会の復活大祭(イースター)に食べられているパン菓子です。
パスハはキリスト教の祝日ではもっとも重要な日とされています。
この日は、復活大祭の名称ともなっている「パスハ」と名づけられたチーズ菓子、イースターエッグ(色付けされたゆで卵)と共にクリーチを食べ、キリストの復活をお祝いするのが習わしとなっています。
ピローク(пирог)
大型のピロシキです。
ピロシキのようになかに入っている具はさまざまですが、茹で卵や合い挽き肉などを入れたミートローフのようなものや、リンゴやベリーなどの甘いものを入れたピロークがあります。
ピロシキとは違い、ミートパイのように大きく作って切り分けて食べるのが特徴です。
生地の正面にはパン生地で模様をつけることもあります。
ピロークは「宴会」を意味する言葉の“ピル”に由来し、お祝い事やお祭りなどで欠かせないパンです。
パン生地を使って模様をつけたパンは、おもてなしの意味が込められています。
ブリヌイ(блины)
クレープのように丸く薄く焼いた小麦粉の生地に、肉や野菜、魚のマリネ、サワークリームなどを巻いて食べる料理です。
前菜やメイン料理、おやつなど、さまざまなシーンで食べられています。
マースレニッツァという春が近づいてきたことを祝う祭りで作られているのがブリヌイ。
ブリヌイの円盤は太陽をかたどったもので、ハレの日に食べる華やかなイメージのパンとされています。
ストリーチヌイ(Столичный)
丸い大型のライ麦パンで、クラムやクラストは柔らかく、酸味と甘みのバランスが良いのが特徴です。
薄くスライスして料理に添えて食べられています。
ストリーチヌイとは「首都」という意味で、このパンの発祥がモスクワにあることから名づけられました。
ナレズノイ(Нарезной)
白パンの一種で棒状の形をしており、表面に大きな刻み目があるのが特徴です。
ふわふわとした柔らかい食感で、スライスしてサンドイッチやオープンサンドとして食べられています。
ナレズノイは、「刻み目がある」という意味があり、ナレーザチという「スライスする」という意味の単語が語源となっています。
その名の通り、スライスして食べるサンドイッチにとても合うパンです。
サンクトペテルブルクでは、ブールカと呼ばれています。
カラヴァイ(каравай)
ホールケーキのように非常に大きな円形のパンです。
焼く前に葉や花の形をかたどった生地を乗せ、装飾をしているのが特徴です。
シンプルなパンで、塩を添えて食べられています。
ロシアでは古くから人をもてなす際に、パンと塩でおもてなしをする風習があります。
発祥について詳しいことはわかっていないようですが、キリスト教以前の時代から伝わるパンで、コロヴァという「花嫁」を意味する古代スラブ語が語源となっていると考えられています。
そのため、結婚式などでも振る舞われることの多いパンです。
カラヴァイは、幸福と富の象徴とされるため、大きければ大きいほど良いとされており、基本的には既婚女性が手作りをし、未婚女性に分け与えます。
おもてなしのパンであるため、表面にはさまざまな装飾を凝らしているのが特徴です。
ザヴァルノイ(Заварной)
黒パンの一種で、材料にモルト(大麦麦芽)を使っており、独特の甘酸っぱい味と風味があるのが特徴です。
修道院発祥のパンで、特別なザヴァルカ(醸造法)を用いてパン酵母やパン種などを使わないのが特徴です。
黒パンは粉そのものの風味に欠けることから、モルトを使って風味をつけるようになったとされています。
ボロジンスキー(бородинский)
別名ボロジノパンとも言われるロシアを代表する黒パン。
表面にコリアンダーの種をトッピングしてあり、独特な香りがするのが特徴です。
ライ麦の割合が高く酸味と甘みが強いパンで、スライスしてクリームチーズやスモークサーモンなどと一緒に食べられています。
ボロジンスキーの発祥については諸説ありますが、戦争で夫を亡くした貴族が修道院に入り、そこで作り始めるようになって誕生したパンだと考えられています。
一説によると、表面にトッピングされたコリアンダーの種は、弾丸を模しているとも言われています。
カラーチ(калач)
ロシアでは最も古い白パンとされており、手で握るのにちょうど良いサイズの把手のついたパンで、その見た目はまるで南京錠。
把手の部分は細くて硬く、その先の部分は良く膨らませて柔らかく仕上げます。
もともとこのパンは、把手の部分を持って、膨らんだ部分のみを食べていたのだとか。
手の洗えないときにも食べられるようにと考えられたパンなのです。
現在では、あまり見かけることがなくなったパンと言われています。
ブーブリク(бублик)
小麦を使った生地をリング状に成形し、一度茹でてから焼成するのが特徴で、見た目はベーグルのようなパンです。
ベーグルよりも甘くやや乾燥しており、クラムは詰まって噛み応えがあります。
朝食やティータイムに食べられています。
19世紀ごろにベーグルが東欧に伝わって、ブーブリクへと変化していったとされています。
ブーブリクは、古いスラブ語でバブルを意味するブーブルが語源とされており、「泡」の意味。
後述する同じようなリング状のパンであるバランキやスシキと比べ、泡のように柔らかい口当たりということから名づけられたと言われています。
バランキ(баранка)
リング状のロールパンのことで、見た目は薄くて小型のドーナツのようなパンです。
ブーブリクよりもひと回り小型で、薄く乾燥しているのが特徴です。
ブーブリクと同じく小麦を使った生地をリング状に成形し、一度茹でてから焼き上げます。
乾燥していてやや硬いため、牛乳などと一緒に食べたり、お茶に浸して食べることもあります。
ブーブリクのように、あまり甘くないのが特徴です。
保存食として紐を通して持ち運びができるように、穴の開いたパンを作ったと言われています。
一説によるとクマの訓練学校で、クマに餌を与えるために持ち運んでいたとも言われています。
スシキ(Сушки)
別名、スーシキ、スーシュカとも呼ばれている小型のリング状のパンです。
バランキよりさらに小型で、パン屋さんなどではまとめて紐に通して売られているのが特徴です。
バランキよりも乾燥していて硬いため、クラッカーのような感覚でお茶菓子としてジャムなどと一緒に食べられています。
スシキとは、「乾燥させる」という意味の言葉が語源となっています。
乾パンであるスシキは、保存がきくことからロシアを行きかう旅人や商人が持ち歩いていました。
そのため、持ち運びがしやすいようにリング状となっており、紐に通して持ち運びます。
旅人や商人たちは、スープやお茶に浸して食べていました。
歯固め代わりに、小さな子供に与えることもあります。
まとめ
ロシアのパンは、黒パンから白パンまでとても種類が豊富。
日本人には馴染みのない名前のパンもたくさんありますが、ピロシキだけでなくたくさんの種類のパンがあることにより、パンの文化が大変盛んであることがわかります。
寒冷地であるためにもともとは食材があまり豊富ではなかったロシアですが、広大な国土を持つことで、さまざまな国の文化も取り入れやすく、食材も揃うようになったのがロシアの特徴とも言えますね。