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【2021年6月完全制度化】HACCPとは?対象事業者はなにをすればいい?

食品安全性の向上のために、2021年6月に完全制度化が決定しているHACCP。

すべての食品等事業者がその対象となっています。

HACCPの導入には、食品安全の手引書を作成しないといけません。

ここでは、HACCPについてまだよくわからないという人のために詳しく解説していきたいと思います。

目次

HACCPとは

HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)は、日本語で危害分析重要管理点といい、食品製造の安全性を確保するための管理手法のことを表しています。

Hazard(危害)、Analysis(分析)、Critical(重要)、Control(管理)、Point(点)の頭文字からHACCPと名づけられました。

ハサップ、ハセップ、ハシップなどさまざまな読み方がありますが、どれも間違いではありません。

基本的にはハサップと読むことが多く、官公庁も表記しているハサップと読んでおくのが無難でしょう。

HACCPが誕生したきっかけ

HACCPはアメリカ発の管理法で、アポロ計画が進められていたころの1960年に宇宙食の安全性確保のために構想されたのが始まりです。

1963年にはWHO(世界保健機関)とFAO(国際連合食糧農業機関)によって、コーデック委員会が設立され、1973年に初めてHACCPが採用されました。

なぜ制度化される?

HACCPは食品衛生管理の国際基準になっており、先進国を中心に義務化が進められています。

日本はまだまだHACCPについて発展途上ですが、アメリカやヨーロッパではすべての食品に義務化を進めています。

今回、日本で制度化されることとなったのには次のような理由があげられます。

海外との貿易

HACCPを導入していない食品は、国によっては輸入規制をかけているところもあるほどです。

海外との食品取引のために導入が義務化されるようになったというのが、一番の理由と言えるでしょう。

東京オリンピックの開催

実は東京オリンピックの開催にあたり、国際オリンピック委員会(IOC)からHACCPの制度化が条件として要求されていました。

当初、東京オリンピック開催予定であった2020年の7月にむけて、2018年の6月には義務化法案が可決しました。

2020年の6月から義務化が決まり、猶予期間として1年後の2021年の6月からHACCPが完全制度化されることとなったのです。

食中毒・異物混入対策

食中毒や異物混入の対策は、一般的衛生管理によっておこなわれています。

しかし、一般的衛生管理の不備によって食中毒や異物混入の発生率は下げ止まりになっているのが現状です。

HACCPは一般的衛生管理を基本として成り立っているので、制度化することで確実に対策されることが期待されます。

中小企業の導入による食品業界全体の安全性向上

これまで、大企業によるHACCPの導入率は7~8割ほどと進んでいましたが、中小企業では2~3割ほどに留まります。

食品業界全体の安全性向上を図るためにも、中小企業のHACCP導入が求められています。

制度化された後にHACCPを導入していないとどうなる?

HACCPを導入していないからといって、法律違反にはなりません。

現時点では罰則などは特にありませんが、今後導入が進むなかで、条例違反で刑事罰に問われるなどの罰則が策定される可能性は十分ありえます。

HACCP導入の有無はいつ露見する?

HACCPを導入しているかどうかが露見するのは、第三者機関が提供するHACCP認証制度で認証を受けた場合や、保健所がおこなう立入検査などによりHACCP導入を確認した場合となります。

立入検査は、飲食店の設備や管理体制が適切におこなわれているかを検査するもので、必要に応じて指導が入ります。

食品事故が発生したときにおこなわれる立入検査を除くと、飲食店の場合は年に1回、6月~8月にかけて定期的な立入検査がおこなわれることが多いです。

しかし、その頻度や時期については、自治体によってさまざまです。

HACCP導入の認証について

HACCPの認証は、地方自治体や、業界団体、民間企業などでおこなっていますが、HACCPは導入することが義務であって、必ずしも認証が必要というわけではありません。

HACCPに関して世界から見ても遅れをとっていた日本は、まだまだ自治体や事業団体もHACCPについて精通しているとは言えないのが現状なのです。

そのため、認証方法などにも明確な決まりはなく、認証機関によってまちまちです。

しかし、認証を受けた事業所は、認証機関のホームページに一覧として反映されたり、認証マークのステッカーを受け取ることができたりするので、安全管理が十分におこなわれている施設として第三者にアピールするのに役立ちます。

認証機関については以下のような業界団体、地方自治体があるので参考にしてみると良いでしょう。

保健所の立入検査は年に1度おこなわれることが多いのですが、その時期や頻度など各自治体によってさまざまです。

立入検査で導入が確認されても、認証されることとは別の話です。

対象となる事業者の基準は?

HACCPは、すべての食品等事業者が義務化の対象となります。

対象事業者には、食品製造業、食品加工業、食品販売業、食品調理業、飲食店、畜産業、食鳥処理場、メーカー事業、食品保管、食品運搬です。

これら食品等事業者のなかでも、小規模事業者と一般事業者にわけて制度基準が変わります。

このことについては、後述する「HACCPの制度基準」で解説したいと思います。

小規模事業者

小規模事業者とは、従業員数が50人未満の事業者のことです。

このような小規模事業者もHACCPの対象となります。

一般事業者

小規模事業者以外は一般事業者と分類されていますが、こちらもHACCPの対象です。

HACCPの制度基準

HACCPの制度基準は、事業者の規模によって二つに分けられます。

もともとは基準Aと基準Bという名称で分けられていましたが、内容のわかりづらさから「HACCPに基づく衛生管理(基準A)」と「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(基準B)」に名称が変更されました。

それぞれの違いについて見ていきましょう。

HACCPに基づく衛生管理(基準A)

一定規模以上の条件を有する業者や、と畜場、食鳥処理場などを対象事業者とし、コーデックスのHACCP方式を取り入れた「7原則12手順」に基づく衛生管理です。

HACCPの考え方を取り入れた衛生管理(基準B)

小規模事業者が対象で、個人経営の飲食店などもこれに該当します。

一般衛生管理を基本とすることで、比較的容易にHACCPを導入することができるようにしたものです。

後述する「HACCPの12手順と7原則」の項目の最初のステップで「HACCPチームを編成する」というものがあるのですが、個人経営などの人数の少ない事業者では、チームを編成すること自体が困難です。

また、事業規模によってやらなければならない内容も大きく変わります。このような理由から、HACCPの制度基準は2つに分けられているのです。

対象事業者は具体的になにをすればいい?

対象事業者は、おもに以下の点について進めていかなければいけません。

  • 5S活動の導入
  • HACCPの12手順と7原則の導入
  • 手順の導入と同時に、HACCPの全権を委任されるリーダーの選任

それぞれについては、後述する項目で順番に説明していきたいと思います。

導入が完了しても、どこかに届ける義務は特にありません。

リーダーを選任する基準

まず、HACCPの活動の推進役となるリーダーの選任について説明したいと思います。

リーダーを先に決めてもいいですし、後述する「HACCPの12手順と7原則」の最初のステップであるチームメンバーの編成がおこなわれ、そのなかからリーダーを決めるのでも構いません。

一般的には経営者や品質管理部門の責任者などが選ばれますが、HACCPに関する専門的な知識を持った人がいればなお良いです。

また、日本要因認証協会では、HACCPリーダー(食品安全管理技術者)として資格基準を設定しています。

認証を受けた人物をリーダーに選任することで、効果的な運営をおこなうことができたり、高い信頼性を得ることに繋がります。

5S活動

5S活動とは、食品の安全性を確保していくうえで基本となる、毎日の欠かせないおこないのことです。

5Sは「整理(Seiri)」、「整頓(Seiton)」、「清掃(Seisou)」、「清潔(Seiketsu)」、「習慣(Shuukan)」のことで、それぞれのローマ字の頭文字である「S」をとって、名づけられました。

農林水産省が簡単にまとめた手引書もあるので、そちらも参考にしてみてください。

農林水産省 食品衛生の基本となる5S活動

ここでは5S活動について、ひとつずつ紹介していきたいと思います。

整理(Seiri):要らないものを撤去する

まずは要るものと要らないものをはっきり区別し、要らないものは処分します。

製造場所や保管場所などに不要なものがあると、ものを探す手間も増えます。

不要なものは置かないようにし、私物の持ち込みなどがないようにしましょう。

整頓(Seiton):置く場所を決め、管理する

調理器具などは決められた場所に保管します。

また、洗浄剤や消毒剤にはラベルを付けるなどし、取り扱いに注意しなければなりません。

自分にも他人にもわかるようにしておくというのが大事です。

清掃(Seisou):汚れがない状況にする

天井や床、壁や排水溝などの汚れを確認します。

きれいな店舗はお客さんからお店への信頼に繋がります。

清潔(Seiketsu):整理、整頓、清掃ができていて、綺麗な状態を保つ

施設全体を清潔に保ちましょう。

整理、整頓、清掃ができていて清潔を保つということは、安全を確保するうえで欠かせません。

習慣(Shuukan):ルールを伝え、ルール通りに実施することを習慣化する

決めたルールを従業員に周知させ、実行し習慣化させます。

習慣は「躾(Shitsuke)」と表記されていることもありますが、ここでは同じ意味として使われています。

HACCPの12手順と7原則

次は、HACCPの12手順と7原則について紹介したいと思います。

わかりやすい手引書もあるので、こちらも参考にしてみると良いでしょう。

厚生労働省 ご存じですか?HACCP

手順1:HACCPチームを編成する

まずは各部門から実務に精通した人を集め、HACCPチームを編成します。

メンバーはできるだけ多くの部門から集めると、より必要な情報が集められさまざまな視点で検討することができます。

メンバーには食品衛生の知識が豊富な人の参加が必要です。

社内で集められないときは、外部の有識者を入れて編成しても良いでしょう。

手順2:食品の説明・記述(安定性、賞味期限、包装、流通形態)

食品の特性や特徴をまとめた製品説明書を作成します。

製品名、原材料名、保存方法、賞味期限や包装形態など、最終製品の仕様を記載しましょう。

手順3:製品の使用方法を確認する

製品がどのような用途でどのように消費されるのかを確認します。

加熱の有無や、すぐ食べるものなのか長期保存するものか、小児や老人、妊婦など想定される消費者を確認しましょう。

使用方法によって、それぞれに合わせた対応が必要です。

手順4:製造工程一覧図(フローチャート)の作成

製造工程がわかるように一覧図を作成します。

原材料の受け入れから製造、納品までを工程一覧図として作成します。

商品の冷却や異物検査などの工程があれば、それらも必ず記載しましょう。

メンバー全員で確認し、抜けがないようにします。

手順5:製造工程一覧図の現場での検証

手順4で作成した製造工程一覧図と現場を照らし合わせ、製造工程一覧図に間違いがないか確認します。

間違えている部分や、変更した部分が見つかった場合はただちに製品工程一覧図を修正しましょう。

手順6(原則1):危害要因を分析する

これまで紹介してきた手順1~5は、HACCPプラン作成のための準備です。

手順6からは、HACCPプランの作成になります。

危害要因とは、健康被害を伴う可能性のある食品中の物質や食品の状態のことで、「ハザード」とも言います。

作成した製造工程一覧図を確認しながら、想定される危害要因を列挙し、危害の大きさや発生の頻度などから重大性を評価します。

さらに評価の根拠と管理手段を定めましょう。

手順7(原則2):必須管理点(CCP)を設定する

手順6で明らかになった危害要因について、その危害要因を除去または減少させるために特に重要な工程(必須管理点)を設定します。

たとえば、病原微生物などの滅菌や殺菌工程などがこれにあたります。

手順8(原則3):許容限界(クリティカルリミット;CL)を確立する

温度や時間など、必須管理点(CCP)で管理すべき項目の、基準となる許容限界(クリティカルリミット;CL)を設定します。

この基準から外れるということは、安全性を確保する管理ができていないということです。

手順9(原則4):CCPの測定(モニタリング)方法を確立する

必須管理点(CCP)での管理基準(温度や時間など)について、管理基準に達しているか、許容限界を外れていないかをモニタリングするための方法や記録方法について決めます。

手順10(原則5):許容限界から逸脱があった場合の是正借置を確立する

万が一、許容限界から外れた製品があった場合の解決策を決めておきます。

管理基準をきちんと満たした製品のみを出荷できるように、迅速な対応ができるようにしておきましょう。

手順11(原則6):検証方法の手順を確立する

決められたルールや方法がきちんと機能しているかを確認します。

さらに修正が必要かどうかも検討します。

手順12(原則7):記録をつけ、文書化を行い、それを保管するシステムを確立する

手順1~11までの管理手順を文書化します。

記録をつけておくと問題が生じたときに遡って検証ができるので、しっかりシステムを確立させておきましょう。

HACCPを正しく導入できているかはどう判断する?

正しく導入できているかを確認するには、第三者認定を受けるのがひとつの手段です。

また、厚生労働省の「食品等事業者団体による衛生管理計画手引書策定のためのガイダンス」に沿って、食品等事業者団体が作成した業種別の手引書があるので、手引書を参考にするのも良いでしょう。

パン類の製造業者については、こちらの手引書をご覧ください。

HACCPの考え方を取り入れたパン類の製造における食品衛生管理の手引書

HACCP導入のメリット

従来の管理法では、出荷前の製品をランダムにピックアップして検査する方法が主流でした。

この方法では問題のある製品を見逃すこともあり、完全に安全性を保証することはできません。

すべての工程が検査対象となることで、より安全性を確保することができるようになります。

これは工場生産において特にメリットとなる部分ですが、個人経営のお店でもたくさんのメリットがあげられます。

食中毒を起こさないためのメリット

食中毒事故のほとんどが、一般的衛生管理の対応が不十分であることが原因で起こります。

HACCPは、一般衛生管理の土台のうえに成り立つシステムです。

HACCPを導入することで、一般衛生管理をしっかり構築し、食中毒を未然に防ぐことに繋がります。

食中毒を起こしたあとのメリット

万が一食中毒を起こしてしまった場合でも、HACCPを導入していれば原因の解明や対処をすばやくおこなうことができます。

日々の業務でのメリット

食中毒のガイドラインなどは数多く存在しますが、現場でマニュアル化されていない場合、衛生管理は個人の裁量に任されていることも少なくありません。

しかし、個人の認識や常識というのはそれぞれで、必ずしも飲食業に従事する一人一人が正しい知識を持っているとは限らないのです。

HACCPはしっかり管理されたシステムで、従業員への周知も必要です。

不透明であった衛生管理を「見える化」することで、従業員の意識向上に繋がります。

国からの支援や補助はある?

HACCPの認証には、認証する事業者団体にもよりますが数十万~数百万単位で費用がかかります。

非常に高額であるため、農林水産省の補正事業がおこなわれていたのですが、残念ながらすでに申請期限は終了しているようです。

現時点では助成金などはありませんので、今後の最新情報に注目しておきましょう。

しかし、HACCPは導入することが義務であって、認証は義務ではありません。

個人経営などでは高額な費用のかかる認証を受けるのは簡単なことではありませんので、まずはしっかり導入するということに努めましょう。

まとめ

国際規格であるHACCPの導入は、海外輸出を円滑に進められるだけでなく、安全性の向上に繋がります。

導入するのにはとても時間がかかるので、まだ始めていないという人はできるだけすぐに取り掛かりましょう。

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この記事を書いた人

医療技術系短大卒業後、バイオ系研究室テクニシャンなどを経て、現在はフリーランスのライターとして活動中です。
製パンスクールのプロコースを卒業した経歴を活かし、実践に役立つ製パン知識を、よりわかりやすく科学的にお伝えします。
食育アドバイザー、幼児食インストラクター資格保持。

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