汝、暗君を愛せよ
2024年から掲載が始まったので、WEB小説としては最近の作品。
書籍化は決定しているが、まだ発売はされていない。
作品概要
自分を王の器にないと思っている主人公が、国を導くことはできなくても、悪い方向にはいかないように苦心する物語。
父の死により地方の造園会社を引き継いだ男は、お飾り社長の無力感に心底嫌気がさして自死を選んだ。
カクヨム – 汝、暗君を愛せよ
そんな彼が何の因果か異世界に転生し、またお飾り社長(国王)をやるはめに。収支は真っ赤、国内は階級闘争寸前、周囲は敵国ばかり。独身の彼を取り巻く見目麗しの令嬢たちだけが彼の癒やし…のはずもなく。
使える現代知識なし、じんわり近づく革命の気配と始終暗闘ギスギス私生活を乗り切るべく、彼は今日も玉座で物言わぬ置物になる。
感想
憑依系の異世界転生物。現代知識無双はない。
自分に経営能力がないことがわかっているので、周りの優秀な人間にお任せする方針の主人公。
この主人公を見ていると、転生は自殺を選んだことに対する罰なのかと思ってしまう。
地球で、自分なりに頑張ったものの経営者としてうまくいかず自殺したのに、来世は異世界で国王として国の運営をすることになるなんて、それはもう、そういう地獄だろう。
前世では部下や秘書が「あぁ、こいつは駄目だな」と心が離れていったのに、転生して王になると如何に暗愚の王でも家臣は王を見捨てない。
この異世界では国とは王だから。そういう価値観だから。
主人公は、自分に経営能力がない無能だと自認しているが、家臣が王を見捨ててくれないので、せめて悪くならないようにと立ち回ろうとし続ける。
その姿勢が読んでいて好ましい。この主人公は臆病で繊細な人間なんだと感情移入できる。
異世界転生物で内政物を描く場合、主人公が現代の知識を駆使して改革を行って時代を変革する英雄や名君として描かれがちだ。
しかし、本作の主人公は急激な変化を好まない。
急激な改革は旧体制を破壊することであり、粛清も辞さない態度が必要だ。
地球の歴史をみても、そういう対応が成功すれば名君として、失敗すれば暗君として、歴史に名を遺すことになる。
主人公は自分が暗君になる人間だとわかっているので、緩やかな対応を望む。
なんて、誠実な異世界転生系作品なんだろうか。
本作は主人公以外のキャラもよい。
分かりやすい悪徳領主などは登場せず、主人公周りのキャラも仮想敵国のキャラも、バカみたいな行動をしない。
それが読んでいて心地良い。
それにしても、本作を読んでいると、異世界転生というのは輪廻の輪から解脱できなかっただけの人、と思えてくる。
私は、異世界転生物の見方が少し変わった。
異世界転生物はよく第二の人生をスタートする仕切り直しとして前向きに描かれるが、仏教的に考えれば、永劫続く輪廻の輪から解脱できなかったのだから、むしろ後ろ向きに描かれる向きがあってもよいだろう。
本作を読んでそう思った。主人公は転生した来世でも精神を病むような生活をしているんだもの。