窓の外を眺めていたアテロスさんは、暫く黙ったままだった。親のことを思いだしているのかもしれない。
「アテロス、少し確認させてくれ」
不意に、シェタさんが口を開いた。低く落ち着いた声が、静かなテーブルに響いた。
「はい」
「お前のご両親は――」
シェタさんはゆっくりと言葉を選んだ。
「――お前が最高峰の職人になれなかったとして、落伍者だと罵るような人なのか?」
アテロスさんは、きょとん、とした顔でシェタさんを見つめた。
それから、何か考えるように視線を宙に向けた。
「それは……どうでしょう。考えたこともなかったです」
「そうだろうな」
シェタさんは静かに頷いた。
「ご両親は『職人とはこうあるべきだ』と本心から思っているのか?」
アテロスさんは返す言葉が出てこない様子で、目を泳がせている。
「ご両親とて、そのまた親からそういうものだと教えられてきただけかもしれんぞ? 一般論をお前に教えただけで、本心では息子が生きていれば十二分だと考えているのかもしれんぞ?」
シェタさんは少し考える時間を与えようと思ったのか、葡萄酒を口に含み、味わうように舌の上で転がす。そして、ゆっくりと飲み干すと、話を続けた。
「なぁ、アテロスよ。お前が期待に応えたいのは、親孝行したいと思ってのことだろう? 親孝行が目的ならば、最高峰の職人になることは手段に過ぎない。そうは思わんか?」
シェタさんの声はとても穏やかだった。
親方としてではない。人生の先達として――まるで孫に話しかけるような優しい口調だった。
「……手段と目的が、ごっちゃになっていたのかも」
アテロスさんは、はっと顔を上げて、シェタさんの目を見つめた。
「まずはご両親と話してみなさい」
「はい。そうしてみます」
アテロスさんは、力強く頷いた。
「あーあ。シェタさんには敵わないや」
私は唇を尖らせて、わざとらしくむくれてみせると、二人は顔を見合わせて笑った。
シェタさんは笑いながら言う。
「いやはや、これは申し訳ない。こちらからお嬢さんに相談しに来たというのに、私がベラベラと長広舌をふるってしまった」
アテロスさんが椅子から立ち上がり、背筋を伸ばして、深々とお辞儀をした。
「親方、ソフィアちゃん。ありがとうございました」
「構わん構わん」
シェタさんは鷹揚に手を振ってみせた。
私もシェタさんの真似をしてみることにした。シェタさんと同じように鷹揚に手を振る。
「構わん構わん」
「こら、お調子者」
いつの間にか私の背後にお母さんが立っていた。ぺしり、と頭を
「アタッ」
私は頭を摩りながらお母さんを見上げる。
「お話が終わって切りがよさそうですし、そろそろ御愛想なさいますか?」
お母さんがシェタさんにそう問いかけると、シェタさんが首肯しながら答える。
「ええ。長居をしてしまい申し訳ない」
シェタさんはそういって立ち上がった。
私は慌てて椅子から降りて、厨房前のカウンター席まで駆け足で向かう。
「走らないの。どっちみち一人じゃ座れないでしょう?」
お母さんが呆れたように言った。
「ん!」
私はカウンター席の背の高い椅子の前で万歳をして待つ。
お会計は私の仕事なのだ!
