その日の夜。私はお父さんとお母さんに挟まれて、いつものようにベッドで川の字になっていた。
私は昼間のことを何度も反芻している。あの場では明るく振る舞っていたけれど、胸には小さな棘が刺さったままだった。
寝る前は、自分の言動を思い返してしまう。どうすればよかったんだろう、って。
「ソフィ。今日のアテロスくんのこと、どうだった?」
お母さんは肘枕で私の顔を覗き込みながら訊いた。私が思い悩んでいることに気付いていたらしい。
急かす様子はなく、ただ私の言葉を待っている。
「うーん。……ちょっと駄目だったかも」
「あら、そうなの?」
「質問しすぎて、嫌な気持ちにさせちゃった」
お母さんは「うん」と頷く。
「正論を言うだけじゃ駄目だから、話を聞こうって思ったんだけどなぁ」
お母さんは相槌を打ちながら、話を聞いてくれる。
「それに結局、アテロスさんを納得させたのはシェタさんの言葉だったしっ」
私は、自分の不甲斐なさが情けなくて、悔しさで涙声になってしまった。
「ソフィはもっと出来ると思ったんだよな」
お父さんが私の頭を撫でた。
「『自分はもっと出来るはずだ』ってな。それは誰しもが通る道さ」
「そうなの? お父さんも?」
「そうさ。お父さんがソフィぐらいの時分は、剣を振るえば魔物をバッサバッサと倒せると思っていたものさ」
お父さんが思い出し笑いをしながら言った。
お母さんも笑いながら続ける。
「お父さんったら、お客さんから木剣を貸してもらってはしゃいでいたのに、一振りも出来なくて暫く落ち込んでたのよ?」
「おいおい、全部言うことはないだろう」
お父さんは格好がつかないことを誤魔化すように、お母さんを抱き寄せた。
川の字になっている状態で両端の人間が抱き合ったらどうなるか。真ん中の人間が潰れされるのだ。
お父さんは「うりゃうりゃ」とお母さんを抱き寄せ、お母さんも「こりゃこりゃ」とお父さんを抱き寄せる。
「きゃ~! やめて~! 潰れる~!」
私はぎゅうぎゅうと押し潰されながら大いに笑った。
一頻り笑い、三人とも脱力して仰向けで天井を眺める。
「はぁ~。酷い目に遭った」
私が笑いながら言うと、お父さんとお母さんも笑った。
「詰るところ、誰しも頭の中の自分と現実の自分に差があるってことだな」
お父さんが良いことを言ったばかりに、うんうんと頷きながら話を戻した。
「頭の中の自分……」
私は少し考える。
アテロスさんは周りと比べて自分を駄目な奴だと思って落ち込んでいた。
今の私はどうだろうか。私は、私が頭の中で思い描いていた理想の自分と比べて、自分を駄目な奴だと思って落ち込んでいる。
何のことはない。アテロスさんと同じじゃあないか。
「私って、まだまだ若輩者なんだね」
私がそう言うと、お父さんとお母さんは顔を見合わせて、噴き出した。
「そりゃあそうよ。だってあなたはお子様なんだもの」
お母さんは微笑みながら言った。お父さんも続ける。
「ソフィはシェタさんがうまくまとめたことに落ち込んでいるけど、それこそ年の功さ」
お父さんはそう言って、私をぎゅっと抱きしめ、そのまま続ける。
「言葉は誰が言うかが肝要だからね」
「誰が言うか?」
「うん。同じ言葉でも、誰が言うかで受け取り方は変わるだろ?」
私は今一つピンと来ない顔をして、お父さんを見つめる。
お父さんは少し考えてから口を開いた。
「シェタさんは親方、アテロスくんは弟子。教える側と教わる側の関係だ。もしアテロスくんがシェタさんと同じ言葉を同期の仲間に言われたとしたら?」
私はアテロスさんが同期の仲間から言われたらどうなるかを想像してみる。
アテロスさんは周りと比べて自分を駄目な奴だと思っていたから、仲間から言われた言葉を素直に受け入れられなかっただろう。
「……たぶん納得はしなかったと思う」
私がそう答えると、お父さんは「そうだろう?」と頷いて、続けた。
「アテロスくんはシェタさんの言葉を聞き入れる準備が整っていただけのことさ。それに、そもそもシェタさんからすればお父さんだって若輩者なんだぞ?」
私は改めてお父さんの胸から顔を上げ、お父さんと目を合わせる。
お父さんでも敵わないような人に対抗心を燃やしていたのだと思うと、なんだか可笑しかった。
「そっかぁ~」
私はお父さんをぎゅうと抱きしめ返して、その胸に顔を埋める。
私は悔やんでいるのが馬鹿らしくなってきた。
「ちょっと~? うちの子を返してもらえますか~?」
お母さんがそう言いながら、お父さんごと私を抱きしめる。
「きゃ~! また潰される~!」
私たちは三人で笑い疲れるまでじゃれ合い、そのまま眠りに落ちたのだった。
