遥は先のロボットに乗った体験を反芻しながら悦に浸っていた。
必殺技の名前を叫べばよかった、とか。そもそも技名をどうすべきだったか、とか。
そんな益体も無いことを考えながら歩みを進めていると、遠くに自衛隊の車を見つけた。
「おーい!」
遥は自衛隊の車に向かって両手を振り、時にはジャンプしながら大きな声で叫んだ。
すると、車がこちらに向かって来る。
「助かった~」
遥はその場にへたり込み、自衛隊の車が近づいてくるのを待った。
やがて、遥のすぐ傍で車が止まり、自衛隊員が遥を車の荷台に誘導する。
遥は文明の利器万歳とばかりに小躍りしながら車に乗り込んだ。
しかし、その笑顔はすぐに引っ込んだ。
乗り込んだ先の荷台には、疲れ切った顔の市民が並んでいたからだ。
遥は達成感から浮かれていた自分を恥じた。死傷者が出ている現実を思い出したのだ。
もしかしたら、その中に自分の家族が居るかもしれないことも。
そこからの遥は静かなものだった。自分の至らなさに自罰的な気持ちを抱き自問し続けた。
それは避難所に到着するまで続いた。
◇
避難所は小学校だった。体育館には多くの市民がいる。
皆、スマホやラジオでニュースを聞いているらしく、其処此処で巨大生物と巨大ロボットの話題が聞こえてくる。
遥は両親を探そうと辺りを見渡した。
「遥?」
遥が声の方向に振り向くと、遥の母が立っていた。
「お母さん! よかった!」
遥は母の元に駆け寄る。
「あんたこそ! 何度も連絡したのよ!」
母は遥の肩を掴み、揺さぶりながら言った。
「ごめん! スマホを置いてきちゃって!」
遥は必死に弁明した。されるがままにガクガクと頭を揺らしながら、通学路に放置してきた自分の自転車と荷物を思い出していた。
そんなやりとりをしていると、自衛隊員と共に高そうな背広を着た男が近づいてきた。
「遥さんですか?」
柔和な笑顔で背広の男がそう尋ねてくる。
遥と母が顔を見合わせてから、母が遥を庇うように男の前に立つ。
「娘に何か?」
母が警戒を露わにした声でそう聞き返した。
男はそんなことを意にも介さず、飽くまでも自分のペースで話を続ける。
「お母様ですか? これは丁度良かった!」
そう言いながら、男は胸ポケットから名刺ケースを取り出した。
「
男はそう言いながら、遥と母にそれぞれ一枚の名刺を丁寧に渡した。
遥はその名刺を読んだ。内閣のよく知らない肩書が書かれていて、理解が及ばない。
ただ、目の前の男は
「烏丸……政治家さん?」
遥が独り言のように呟くと、烏丸は笑みを一層深くして頷いた。
「その理解で問題ありません。事情を説明させていただきたいので、ご同行願えませんか?」
烏丸が身体の向きを変えて半身を開き、片手を差し伸べて体育館の出入口へと促した。
遥は流されるままに移動しようとしたが、母が遥の肩を掴んでそれを制した。
「待ってください。まずは主人と合流しないといけないんです。ですから、一旦はお引き取り下さい」
母は警戒心をより一層強めた様子を隠さずにそう言った。
「存じております。先程『丁度良かった』と申しましたのは、ご主人が既にご同行いただいているからなのです」
烏丸はそう言いながら、自衛隊員に目配せをした。
「なんですって?」
母は疑いの目で烏丸を見た。しかし、烏丸の視線が自衛隊員を追いかけて体育館の出入口に向いていたので、母もつられてそちらに視線を移した。
すると、直ぐに遥の父が姿を現した。
「お父さん!」
「あれ? なんで遥がいるんだ?」
遥は思わず声をあげたが、父は緊迫感のない能天気な調子で応えた。
それから三人は小学校の校庭に設けられた自衛隊の天幕の中で、何故自分たちが呼び出されたのかの経緯の説明を受けた。
「というわけでして、我々は遥さんが巨大ロボットに乗って巨大生物と戦ったと判断しました」
烏丸の説明が終わった。
遥は気まずそうに母から目を逸らし、下手な口笛を「ぷす~ぷす~」と吹いた。
母は遥のその様子を見て、本当に娘が巨大ロボットに乗っていたことを悟る。
「あんたって子はっ! 誤魔化してんじゃないのっ!」
母は遥の頭に手刀を食らわせる。
遥は「アイタ~!」と大げさに痛がるが、母は遥を無視して烏丸に頭を下げた。
「私も何が何だかわかっておりませんが、何なりと質問してやってください」
「いやはや、まさか遥がアレに乗っていたとはなぁ」
母と対照的に、父は呑気なものだった。
