第四話 自衛隊

 > 怪獣キター!!!

 > やばすぎるって!!!こんなの映画じゃん!!!

 > 友達になれるんじゃね?

 > だったらブロンド美女を連れてこないとなw

 > ハリウッド映画化决定!!!

 > 先に日本で映画化でしょ! 怪獣映画といえば日本!

 ネットはお祭り騒ぎだった。現地に居ない人間が、観客気分で囃し立てていた。

 その空気が変わったのは、巨大生物が市街地を破壊し始めたからだった。

 > 待って待ってやばい ビルがずっと揺れてる

 > 逃げて!!!本当に早く!!!

 > え ビルが倒れた 本当に倒れた

 > ヤバイって 災害じゃん

 > 荒神だったか

 > 守り神が人間に怒って荒ぶってる説

 > 天皇陛下に鎮めてもらうしかないんじゃないか?

 > 妖怪という線も捨てきれない

 > この大きさの妖怪は、それはもう神様でしょ

 > デイダラボッチとか?

 > それは妖怪より神様寄りじゃね?

 > じゃあ牛頭馬頭

 > 牛頭馬頭は妖怪じゃねぇ!

 > 大入道ならワンチャン

 > 意外と大きな妖怪っているんだな

 > 俺はもう 狸か狐に化かされたと思いたいよ……

 > 友好的かもとか言ってた人 今どう思ってんの

 > 電話が繋がらない 電話回線がパンクしてる

 > 怪獣に悪気はないかもしれないだろ よろけちゃっただけかも

 > 悪意があろうがなかろうが、人を殺しちゃったらそれは害獣なんだよなぁ

 ネットの声は恐れに変わっていく。

 それでも、対岸の火事という感覚は拭えず、どこか他人事のようだった。

 ◇

 巨大生物が居る市街地では、陸上自衛隊の隊員たちが避難誘導をしていた。

 任務は救助と避難誘導であり、装備は救助器材と無線機のみ。武器はなかった。

 市民を誘導しながら、立ち上がる白煙が視界の端に映る。

「落ち着いてください。こちらへ!」

 後方から叫びに近い声が飛ぶ。

「来るぞ!」

 振り向いた瞬間、視界に灰色の巨体が映り込んだ。

 地震のように大きな揺れによろめき、市民の大半が転んでしまう。

 近くのビルの外壁から、コンクリートが剥がれ落ちた。

 巨大生物が身をかがめ、転んでいる市民に顔を近づけてじぃっと見つめている。

「う、うごくな」

 隊員の誰かが呟くように言った。

 言われるまでもなく、誰も動くことはできなかった。

 恐怖で体が動かず、巨大生物を刺激しないように全員が息を殺した。

 巨大生物は頻りにフンフンと臭いを嗅ぐ。

 隊員が横目で巨大生物の様子を伺うと、どうやら市民が失禁しており、その臭いを嗅いでいるようだった。

 暫く臭いを嗅いでいた巨大生物は、やおら体を起こした。

 皆が安堵したのも束の間、巨大生物は両手を合わせ、まるで水を掬うようにしてその場にいる人間を掬い上げた。

「うわああああ!」

 悲鳴が上がる。市民も隊員も皆がパニックになっていた。

 巨大生物は自分の手を口にあてがい、多くの人間を飲み込んだ。

 ◇

 SNSではテレビ中継、ライブ配信のリンクが飛び交っていた。

 自衛隊員が市民を誘導している映像が流れる。

 > 自衛隊なんで攻撃しないの?

 > 武器持ってない? なんで?

 > 攻撃しろよ!!

 > 自衛隊が攻撃出来るだけの根拠がないんだろ

 > 自衛隊は怪獣との戦闘を想定してねぇ!

 > 日本終了?

 > おいおいおいおいおい

 > 待て待て待て!!食ってる!!人間を食ってる!!

 > やばいって!!

 > だめだ 完全に捕食者じゃん

 > むり 見てられない

 ◇

 危機管理センターに怒号が飛ぶ。

「国民が食われているんだぞ! 上の者が責任を取れば済む話だ!」

「そうだ! 法の解釈なんて後からどうとでもなる!」

 怒号の中、総理が静かに立ち上がる。

「超法規的措置だ。責任は私が取る。……自衛隊に、武器使用を許可する」

 総理の指示を現場に伝えようと担当官が動く。

 入れ替わるように、別の担当官が現場からの報告を上げた。

「現地から報告! 巨大生物とは別の巨大移動物体を確認!」

 担当官がスクリーンの映像を切り替えると、そこには白くて巨大な何かが走っていた。

「……ロボット?」

 総理が間の抜けた顔でそう呟く。

 部屋の中は、しんと静まり返った。