最近では、男性に(または男女ともに)原因のある不妊症の数は、原因の明確な不妊症全体の半数に及ぶことがわかっており、男性の不妊治療の必要性に注目されています。
男性の不妊治療法が確立されるまでは、女性向けの治療薬を男性に使用することが行われていましたが、現在では男性不妊の症状別に多くの治療薬が開発され、治療技術ははるかに進歩しました。
今回は、男性不妊の症状別に、治療方法や薬剤について解説いたします。
造精機能障害
精子数が少なくなる、精子減少症・欠精子症、精液中にまったく精子がいない無精子症、精子の運動率が低い精子無力症、精子に奇形がある精子奇形症などを総称して、造精機能障害と呼びます。
男性不妊の多くがこの造精機能障害であると言われています。
(1)造精機能障害の治療方法
精液検査の結果、精子の数が少ない、運動率が低いなどの異常があった場合、まずは漢方薬とビタミン剤を使用して体調・体質改善を目指します。
これは、ストレスや疲労などが精子数や運動率に大きく関わっていると考えられているためです。
漢方薬とビタミン剤では効果が見られない場合に、ホルモン剤を使用します。
なお、無精子症の場合には精巣から精子を採取して人工受精・体外受精を行う必要がある場合があります。
精子奇形症の場合は、症状が軽度でかつ若年の場合には、妊娠の確率が上がる人工授精を行います。
(2)造精機能障害の治療薬
1.漢方薬
■補中益気湯
■牛車賢気丸
■八味地黄丸
・作用
それぞれ、胃腸の働きや冷えの改善に使用される漢方薬ですが、精子の運動率上昇や精子数の増加にも効果的です。
・副作用
吐き気や胃のむかつき感の他、「偽アルデステロン症」と呼ばれる、むくみや血圧の上昇がみられることがあります。
2.ビタミン剤
■メチコバール(ビタミンB12製剤)
■ユベラ(ビタミンE製剤)
■L-カルニチン(アミノ酸製剤)
・作用
漢方薬の効果を高める目的で処方されます。
これらのビタミン剤自体にも、造精機能の向上や血行不良の改善などの効果があります。
・副作用
下痢や便秘、胃の不快感などがおこることがあります。
3.ホルモン剤
■クロミフェン(クロミッド)
■hCG‐hMG製剤
・作用
男性ホルモンの分泌促進や、性腺刺激ホルモンを補充する効果があり、特にhCG‐hMG製剤には強い造精機能の向上効果があります。
・副作用
吐き気や頭痛が起こりやすく、長期使用では逆に造精機能の低下が起こることがあります。
精路通過障害
精管や尿道が炎症を起こすことで、精子が通りにくくなることを、精路通過障害と言います。
尿道から細菌が侵入し、精管内で炎症を起こすものです。
炎症を起こした精管は精子の通りが悪くなり、射精が困難になることがあるため、男性不妊の症状の1つとなっています。
細菌による炎症のほか、生まれつき精管が細い先天性の精路通過障害もあります。
精管を通ることができなかった精液は逆流して膀胱にためられ、尿と一緒に排出されます。
(1)精路通過障害の治療方法
先天性の精管通過障害以外では、そのほとんどがクラミジアや淋菌などの細菌による炎症が原因のため、抗生物質を使用して炎症を鎮めます。
炎症が治っても症状が改善されない場合には、手術によって精管のつまりを解消することができます。
その他、前立腺肥大症によって精管が圧迫されている場合には前立腺肥大症の治療薬をしようするなど、精路通過障害の原因への治療薬が用いられます。
(2)精路通過障害の治療薬
1.抗生物質
■エリスロマイシン(エリスロシン)
■クラリスロマイシン(クラビット)
■アンピシリン(ビクシリン)
・作用
細菌性の炎症を鎮める働きがあり、クラミジアや淋病など細菌感染症の治療をします。
・副作用
副作用はほとんどありませんが、まれに下痢など胃腸の不快症状が起こることがあります。
2.前立腺肥大症治療薬
■クロルマジノン(ルトラール、エフミン、プロスタール)
■タムスロシン(ハルナール)
・作用
前立腺肥大症に伴う排尿障害や、精路通過障害を治療する薬剤です。
特にクロルマジノンは男性ホルモンであるアンドロゲンの働きを鎮める効果があり、根本的な治療効果が期待できます。
・副作用
クロルマジノンは女性ホルモン剤になりますから、乳房の張りが起こることがあり、目立った副作用としては頭痛や吐き気があります。
ハルナールは副作用が少ない薬剤ですが、まれにめまいやふらつきなどが起こることがあります。
まとめ
造精機能障害や精路通過障害は、ストレスやほかの病気が大きく関わっていることがあります。
男性不妊症状の改善のためには、こうしたストレスの緩和やほかの病気の治療が重要です。
薬剤による治療が困難な場合の手術方法が多いのが男性不妊の特徴ですので、医師にしっかりと相談したうえで治療計画を立てるようにしましょう。